第12話 小さな一歩、大きな野望
俺はヴィルヘリアの力を借りながら、何とか村を襲ったハイドラを倒して村を救う事ができた。後ろを振り向くと衝撃度が頂点まで達してしまったのかソフィーと少女は気を失い、倒れてしまった。
ヴィルヘリアが言うことにはどうやら自然と出ていたEXスキル"仁王覇気"による影響を受けすぎた為、プレッシャーに耐えきれず気絶してしまったと言っていた。俺は2人を抱き抱えながら村をの外へと出る。そこにはハイドラの被害から免れようと村から避難した村人と保護・待機していた兵士達がいた。どうやら王宮から応援が来てくれたのだろう。
しかし、もう遅いけどな……
1人の兵士が俺に気づいて、駆け寄って来る。
「おい! てめぇレイク⁉︎ 急に走り出してどこ行ってたんだ⁉︎ お前も村人の保護手伝えっつの! もしかして、一人で逃げ出してたんじゃあ無いよなぁ⁉︎」
「おいおい、やめろやめろ。こいつはもう兵士じゃねぇんだからなぁ!」
「あ、そうだったわ」
「「「はっはっは!!」」」
王宮から応援に駆けつけた兵士は俺がどう言う境遇であるかを知っている為、馬鹿にした様な口調だった。
しかし、一人の兵士が俺の腕にソフィーと少女が抱かれていることに疑問を抱く。
「お前……どうして女子2人抱き抱えてるんだ?」
俺はムッとしたがその感情を抑えながら、ことの経緯を話した。
「ハイドラはもう倒した。この2人は村から逃げ遅れた人間の1人だから俺が救出してきたんだよ」
ハイドラを討伐したと言う言葉を聞いて、兵士たちは顔を見合わせる。
そして、一斉に笑い出した。
「レイク‼︎ そんな嘘も休み休み言え!」
「全然面白く無いぞそのジョークは‼︎」
「本当だ、ならば村人を見てみるが良いさ」
兵士達は村人の方の様子を眺めていると明らかにハイドラが暴れ回ってたさっきまでとは打って変わって静かさを感じた。
「静かだな」
「ど、どうせ暴れ回って疲れて自分の巣に帰ったんだろ? ラッキーじゃねぇか」
そう言って数人の兵士が仲を調べる為に村の中へと入っていく。
そして数分後ーー
血相を変えた数人の兵士達が駆け足で戻って来ると俺の肩や腕を掴んだ。
「レレレレレイク⁉︎ ありゃあどう言うことだ⁉︎」
「ハイドラの頭しかなかったぞ⁉︎」
焦り散らす、王宮の兵士達に俺は冷静に返答する。
「倒したって言っただろ?」
その言葉に兵士達がキョトンとした顔をしてる。
そして、数分考えた末に取り敢えず村人を村の中へと入れる。
ハイドラによって大きな被害が出ると思われていたが、被害が出る前に戦いが終わってしまった為、村の建物の殆どが簡単な補強でどうにかなるレベルの被害だったらしい。
それから兵士たちから色々聞かれ、ハイドラ討伐までの過程を嘘偽りなく話した。
しかし、余り信じていない様子だった。まぁ、王宮を首になった奴が急にハイドラを倒しただなんて言われても俄かに信じ難い話だ。
話し合いの結果、一度王宮へこの話を持っていくそうだ。
別に信じられないのならば信じられなくて良いのだが……
兵士達との話が終わり、俺はソフィーの家へと戻る。気絶したソフィーを部屋に寝かせ、俺はヴィルヘリアと2人居間で座っていた。
改めて、ハイドラ戦のことを思い出す。ハイドラと言う強大な魔物すら一瞬で倒せてしまう力を俺が持ってしまったことを知ってしまうとやはり少し身体が緊張してしまう。
「どうじゃ? 妾の力?」
「……想像以上だ」
「そうじゃろ? 妾が如何に強き魔物である事がレイクにも分かったであろう?」
「ああ……」
「なんじゃ? 嬉しそうな顔をしてないのぉ? どうした?」
「ヴィルヘリア、正直……この力が怖いんだ……もうこの力を持ってしまった以上、俺は前の俺ではない。それに、仁王覇気とやらとかで周りの人達に迷惑をかけたり、時には傷つけてしまうかもしれない……そうなるのが……怖い……」
こんな人間離れした力を持って嬉しさよりも今は恐怖心の方が強く出ていた。もう俺は人間ではないのかもしれない。それでもまだこんな感じに恐怖心を持つ事ができているだけでも人間らしいのかもしれない。
ヴィルヘリアは溜息を漏らすと俺の方は歩みより、俺の頬をつねった。
「なんじゃその弱気な気持ちは‼︎ 妾の眷属ならシャキッとせんか!」
「痛い痛い痛い!」
「ならば、お前が竜の眷属である自信を出す為の提案が一つあるぞレイク」
「いたたぁ……え?」
「妾と同族である竜種を統治する旅へと出るのじゃ‼︎」
ヴィルヘリアは俺の頬から手を話すとニカッと歯を出して笑う。
「竜を統治?」
「そうじゃ……この世界には妾以外にも強力な力を持った竜種がいる。其奴らは"五大竜王"と呼ばれておる。勿論、妾もその中の1人じゃが、五大竜王達は同族である様々な竜種を統べ、軍を率いている。ならば妾達も様々な竜種と邂逅し、妾達の軍を作るのじゃ!」
ヴィルヘリアが興奮した様子で目を光らせて言っているが、俺にとっては余りにもスケールが大きすぎた。国? 軍? そこら辺は全くもって想像が付かない。でも、一つだけ賛同できる事があった。それはヴィルヘリアと旅をする事。ここに長く滞在しても、村に迷惑をかけるかもしれない。それにハイドラが言っていたあの言葉……
「我が主の害となる存在を抹殺する命を与えられたのである」
この言葉が妙に引っかかっていた。もしかしたら……その存在というのはヴィルヘリアのことだったのかもしれない。もしそれがそうだとしたならば、実質村に被害を出したのは俺の責任でもある。これ以上、ソフィーを危険な目に合わせるわけには行かなかった。
俺には考えてる心の余裕さえなかったのかもしれない。
俺真剣な眼差しでヴィルヘリアの目を見た。
「ヴィルヘリア」
「なんじゃ?」
「俺はまだ弱い」
「そうじゃな、見ていれば分かる」
「国とか軍とか、俺にはよく分からないけど、もしお前が良いなら……俺を鍛えてくれないか?」
その言葉を聞いたヴィルヘリアは口元を緩めた。
「当然じゃ、妾を誰だと思っておる。"破滅古竜"ヴィルヘリアであるぞ。その眷属であるお前を見捨てることなどこの名においてありえん事だ。最後まで妾はレイクの側についておる。それが
「ああ、そうだな。ありがとう」
「うむ……では! 早速出発と行こうか‼︎」
そう言って外へ出ようとするヴィルヘリアの腕を掴んだ。
俺はある程度荷物を整える。バックパックを背負ってこの家を出る前にソフィーの部屋へ行き、寝ているソフィーの近くに来た。
すやすやと幸せそうに眠るソフィーの顔、何度見てもソフィーは綺麗だと思ってしまう。俺のせいでソフィーを傷つけさせるわけにはいかない。
俺はソフィーの枕元に手紙を置くと、ソフィーの寝息が聞こえる部屋から立ち去った。
そして、家を出ると外でヴィルヘリアが待っていた。
「準備はいいか?」
「ああ」
「……うむ! では行くとしようか! レイクの育成計画、そして妾とレイクの国を作るために妾達の冒険を始めるぞ!」
ヴィルヘリアは大きく拳を高らかに上げ、旅の始まりを宣言した。
こうして、『無能力者』と言われ、王宮をクビになった元兵士の俺は自分だけが話せる"竜族語"によって"五大竜王"うちの種、"破滅古竜"ヴィルヘリアから力を貰った。
そしてヴィルヘリアから心臓を奪われた俺は、ヴィルヘリアの眷属となり、新たな冒険の物語が始まろうとしているのであった。
それがこの世界にとって小さくとも大きい世界の変革の一歩であるとも知らずに……
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