第10話 ハイドラとの戦い①

 ハイドラはその七つの頭を俺たちに向けて酷く威嚇してた。口にくわえていた兵士を遠くへ投げ飛ばすと鋭い牙を見せつけるように口を開け、今にも俺たちに向かって襲い掛かろうとしている様子である。


「どうして、こんな魔物がこの町に……」


 俺がハイドラの存在にうろたえていると、ハイドラから野太い声が聞こえてくる。


「我が主と邪魔する存在はどこだ?」


「これは竜族語?」


 ハイドラは蛇のような身体をしているが一応竜種に種別される魔物。竜種なら竜族語が通用する。そう考えた俺は勇気を出して竜族語でハイドラに言葉をかけた。


「い、一体何しに来た⁉」


「ほう、これは面白い。人間で竜族語を話せるものがいるとは。用はただ一つ、我が主の害となる存在を抹殺する命を与えられたのである」


「我が主? 抹殺?」


 ハイドラの言っていることが良く分からない。俺の理解が追いつく前にハイドラは淡々と話を続ける。


「どうやらお前らから似ている匂いがする。だがこんな小さいやつだったか? ふん、まぁ良い。似ている奴らは全員殺す。己の運の悪さを悔やむのだな!」


 ハイドラは明らかに俺たちに敵意を向けている。ハイドラに囲まれてしまっている以上、逃げることもできない……これは万事休すかと思われた。しかし、この場で唯一涼しい顔をしている者が1人いることを忘れてはいけない。


「はぁなんじゃ、強い妖気を感じたと思ったら、ゴアやらグレーターかと思ったんじゃがただのハイドラではないか。ま、そやつらが来ても妾には到底敵わんのじゃがな」


 ヴィルヘリアはこの状況下で溜息をして、肩を落としている。この状況下でもまるでハイドラを恐れていない様子だった。


「なんじゃレイク、何を恐れておる? こんな雑魚、妾の力を持っているレイクならば容易く倒せるはずじゃ」


 ヴィルヘリアは俺に向けて笑みを浮かべながらそう言った。


「倒せる? 俺が?」


「ああそうじゃ、それに聞いただろう? ハイドラは頭の硬い奴だから、会話にならん」


 確かに、これ以上俺がハイドラを説得しようとしてもあの様子では意味がないだろう。これはもう……戦うしかないのか?


「だけど……俺はまだ力の」


「使い方が分からぬのじゃろ? 安心せい! 妾がご主人様オトモダチとして力の使い方をレクチャーしてやろう! 眷属の面倒を見るのもオトモダチの務めじゃ」


 ヴィルヘリアのその言葉に俺は少しだけ安心感が生まれた。俺は後ろを向いて、ソフィーに優しく声をかける。


「ソフィー、大丈夫だ俺達に任せろ」


「レ、レイク……」


 ソフィーの怯え切った顔……昔、俺がこの村の悪ガキ達に虐められていた時、いつも助けてくれたのはソフィーだった。今度は俺がソフィーを守る番だ。


「まずはその小さなガキからだ……死ねぇ‼︎」


 ハイドラは瞬く間にヴィルヘリアに向けて、大きく口を開けると7つの頭のうちの1頭が長く鋭い牙で噛みつきにかかった。


「甘いわ」


 ヴィルヘリアにハイドラの牙が当たりそうになった刹那、ハイドラの首が一瞬にして切断され、頭が大きく上空へ吹き飛んだ。


「ば、馬鹿な⁉︎」


 切れたハイドラの首から大量の血が流れ出てくる。切られた首は精気を失った様に地面に崩れ落ちた。ハイドラは一瞬で起こったその出来事に対して理解出来ていない様子だった。


「私を舐めるな? 来るなら全力で来るのじゃ……レイク! まずは妾が戦いの見本を見せる。しっかり見ているのじゃ」


「くっ.このガキがぁああああああ‼︎」


 ハイドラは怒り狂った様子で大きく鳴き声を上げると、残った6つの口から黒緑色の霧を吐いた。その霧は瞬く間に広がって行く。

 するとソフィーが突然、激しく咳をし出した。


「ゲホッゲホッ! 頭がぼーーっとしてきた……」


「毒霧か⁉︎ くそっ!」


 俺は自身の服の袖を破るとソフィーと少女、2人の口元に当てた。


「良いか2人とも‼︎ この霧を吸い込むな‼︎」


 ソフィーは頷き、体勢を低くして少女を抱きしめる。少女も口を塞いで静かに丸くなる。俺も毒霧を吸い込まない様に腕で口を塞ぐ。しかし、前に立っているヴィルヘリアは仁王立ちしたままで口を塞ぐなどしていなかった。


「レイク、妾には"状態異常無効"の耐性をもっておる。この意味、分かっておるな?」


 "状態異常無効"とは麻痺、毒、睡眠などあらゆる状態異常の攻撃を無効化する耐性だ。つまり、ヴィルヘリアが持っていると言う事はまさか……


 俺はゆっくりと口を塞いでいる腕を離していく。すると、いくらこの毒霧を吸い込んでも苦しくもなんともなかった。


「苦しく……ない?」 


「そうじゃ。まぁでも、そこの女子供が苦しそうじゃな」


 そう言ってヴィルヘリアが一度指を鳴らすと、俺たちを囲む様に大きな青色の魔法陣が出来上がるとその空間内の毒霧で汚染された空気が浄化されていく。


「"防護結界プロテクションシールド"これはあらゆる属性ダメージを防ぐスキル、ついでに"息吹結界ブレスシールド"も重ねて付けといた。ほれ、これでその女子にも息ができると言ってやれ」


 ヴィルヘリアが淡々とスキルを使用と説明をしていくので面を食らったが、冷静さを保たせながらソフィーに安全である事を伝える。


「あれ? 苦しく無い」


 どうやら本当にスキルの効果が効いている様だ。


「き、貴様ぁあああ!!」


 ハイドラはヴィルヘリアに向けて鋭い牙や長い首で打ち付けるなど様々な方法で攻撃を畳みかけるがヴィルヘリアの作った防護結界はびくともしない。


「なんじゃなんじゃ? 人間でも使えるコモンスキルじゃぞ? そんなのも打ち破れんとは面白く無い」


 そう言って更にヴィルヘリアはもう一度指を鳴らすと今度はハイドラのいる地面に黄色の魔法陣が作られると、魔法陣から光の鎖が生み出される。その鎖は一気にハイドラの体へと絡みつき、ハイドラの動きを封じる。


「ぐ……ぐぅ⁉︎ か、体が……動かん‼︎」


「"拘束鎖バインドチェーン"じゃ。少し動きがうるさい、落ち着いていろ」


 ヴィルヘリアはハイドラに対してどんどん優位に立っていく……この時、俺は初めてヴィルヘリアの恐ろしさを知ることができた。


「これが"破滅古竜"の力?」


「なーーに、人間形態じゃから少しばかり力が減っておる」


 これでまだ本気を出していないとなるとどこまで化け物なんだこいつは……


「……って、何ぼーーっと突っ立っておるか! 今度はお前が力を使う番じゃろう!」


「ええ⁉︎ 俺が⁉︎」


「そうじゃ! あいつを倒すのはレイク、お前の仕事だ! 優しいじゃろぉ? ちゃんと眷属に良いところを渡してやるよくできたご主人じゃろぉ?」


 ドヤ顔をしながら俺の肩を数回叩いてくるヴィルヘリアに対して少しキレそうになったが、深呼吸して冷静さを取り戻す。どうやら、ヴィルヘリアは俺に技を使わせたくてしょうがないみたいだ。後ろではソフィーが俺の事を心配そうに見ている。このままでは100%、いや1000%俺が化け物である事がバレてしまうかも知れない。しかし、この生まれ故郷である村も大事な幼馴染も守らなくてはならない。……くそっ! やるしか無いか!


 俺は顔を自分で叩き、気合を入れるとヴィルヘリアの隣へと立った。


「ヴィルヘリア! 俺はどうすれば良い⁉︎」


「うむ! そう来なくてはな!」





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