第9話 襲い掛かる脅威
ヴィルへリアとソフィーの襲来から俺はそのまま疲労で寝てしまい、気がつくと外は日が出て朝になっていた。俺はゆっくりと身体を起こそうとするがやはりいつものように身体が重くて上半身が起き上がらない。それに仄かな温もりも感じる。俺はその状況に既視感を覚え、誰の仕業か直ぐに悟ることは出来たが確認のために目線を下げる。
「うへへぇ……このお宝わぁ……妾のだぁ……むにゃむにゃ」
むにゃむにゃじゃねぇよ……
そこには涎を垂らして気持ち良く俺の腹の上で丸くなっているヴィルへリアの姿があった。まぁ知ってたけど。
今回は目のやり場に困る服装ではなく、ソフィーのパジャマを着ていた。昔、ソフィーが小さい頃に着ていた花柄の刺繍が着ていたパジャマだったので一瞬だけソフィーと勘違いしてしまいそうになった。
「重いっての!」
ヴィルへリアが起きていたら絶対に怒られるだろう台詞を言いながら、俺の腹の上からヴィルへリアを俺の布団の空いたスペースへと放り投げた。マットの弾力でヴィルへリアの身体が跳ねるが鼻提灯を作って寝ているヴィルへリアは起きることがなかった。
俺は、ソフィーから借りていた部屋着から自身の普段着へと着替えた。着替えているとやけに外から騒がしいほどに人々の声が聞こえてくる。外の様子を窓からのぞくと大勢の人間が叫び声を上げながら逃げ回っているように見えた。
まさに阿鼻叫喚、必死で何かから逃げ用とする人々を朝から目の当たりにした俺は寝ぼけた頭が直ぐに活性化する。
「何が起こってるんだ? おい! ヴィルへリア! ヴィルへリア起きろ!」
ヴィルへリアの肩を持って大きく身体を揺さぶった。
「むにゃ、んぅ? 何じゃ朝から騒がしいやつじゃ」
目を擦りながら呑気に大きな欠伸をして起き上がるヴィルへリア。何で俺の声なら起きるんだこいつは……
「村の様子がおかしいんだ! 一緒に来てくれ!」
「……」
突然、ヴィルへリアが黙り込んだ。
「どうした? ヴィルへリア?」
「森にはなかった大きな魔力を感じるのじゃ、恐らく上位種族か」
ヴィルへリアはその場でパジャマをポンポンと脱ぎ捨てると急に裸になった。ヴィルへリアの急な行動だったが俺は直ぐに目線を逸らす。するとヴィルへリアの身体に光が生まれると、その光がいつもの鎧の姿となる。
「お着替え完了! 妾の服は魔法で装備できるのだ。”物体転移”の魔法じゃ」
便利だが、出来れば急に服を脱ぐのだけはやめていただきたい。心臓に悪いので……心臓無いけど。
こうして、着替えを終えて俺とヴィルヘリアは居間へ入るがそこにはソフィーの姿が無かった。出かけているのか?
俺たちは居間から流れるように外に出る。外では村の人々が逃げるように村の出口へと向かっていく。
村で守衛をしていた兵士たちが人々を避難させている。
「みんな! こっちへ逃げろ!!」
門番をしている兵士が大声で叫び、人々を誘導してた。俺は直ぐに近づいて事情を聞くことにした。
「一体何があった!?」
「レイクか! 早くお前も逃げろ! でないと奴らに食われちまう!!」
「奴ら?」
俺がそれを聞こうとした時、村の中央部で断末魔が聞こえてきた。
「うわぁあああああああ!」
「やめろぉおおおおおお!! 食べないでくれぇえええええ!!」
「足止めで何人か向かわせた仲間たちが……くそっ!!」
門兵は強く、木壁を叩く。何が起こっているんだ……はっ!? ソフィーは!?
そう思った瞬間、俺は自然と村の中央部へと走り出していた。止めようとした門兵の言葉など一切耳に入らず流れるように逃げてくる村人たちをかき分けて、村の中央部へと向かった。
村の中央部は少し開けた広場のようになっており、本来なら村人たちがここで交流する場所なのだが、今は襲われた村人たちと数人の兵士が倒れている。まさに地獄絵図だ。
俺は周りを見渡すと建物の影に隠れている人影を見つけた。俺は急いでそこに向かうとソフィーがいた。ソフィーの胸に小さな少女が怯えてひっついている。
「ソフィー! 大丈夫か!!」
「レイク! ご、ごめんなさい。私、買い出しに出てたら突然、この村に魔物が襲撃してきて……この子、逃げる途中にお母さんとはぐれてしまったみたいなの」
「そうだったのか」
ともかく、ソフィーが無事で良かった。そう思った瞬間、ソフィーの後ろからただならぬ妖気を感じた。これはヴィルへリアの妖気じゃない。だってヴィルへリアは俺の後ろにいるのだ。
俺は恐る恐るソフィーの後ろを見る。そこには巨大な蛇の頭が大きな黒目をこちらに向けて黒い下を小刻みに出し入れしているのが見えた。
「ソフィー!! ヴィルへリア!! 逃げるぞ!!」
そう言って俺は直ぐにソフィーと少女守るように背後に回り、背中を押した。状況が分からない2人だったが説明している暇など無い。
なんだ!? あの大きな蛇の頭は? あんな巨大な魔物がこの町に出るなんて!!
俺はソフィーと少女を優先的に逃がすように背中を押しながら、村の出口へと向かおうとした。しかし、村の出口へ続く道の建物の脇からあの巨大な蛇の頭が現われ、逃げ道を塞ぐ。
「「きゃぁあああああ!!!!!」」
突然目の前に現れた蛇の顔を見て、ソフィーと少女が大きな悲鳴を上げた。
「くそっ!! 他に逃げ道を」
「いや、もう無理じゃな」
突然、ヴィルへリアがそう言った。俺が辺りを見回したとき、ヴィルへリアの言葉の意味を理解したのである。俺たちは今、村の中央部にいるのだが、他に村を回るための道が4つあるのだがその道から、同じ顔をした巨大な蛇の頭が現れる。
そして、更に空を見上げると更に首が3つこちらを見ていたのだ。3匹のうち2匹の口には断末魔を上げていたと思われる兵士が咥えられている。その蛇の首に続く胴体はとても長く、この村で一番高い建物である見張り塔に身体を巻き付けているのが見える。
複数体いるのかと思ったがこいつらは全て一体の魔物のようだ。俺はこの魔物を見たことがあった。確か、俺が兵士だったとき休憩の時に書庫で読んだ魔物図鑑に書かれていたのを思い出す。長い胴体に蛇のような頭を7本持った巨大な竜種、”七頭蛇竜”ハイドラだ。危険度Aランクオーバーの上位種族である。
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