第6話 故郷、ゼパル村へ
俺とヴィルヘリアは森で無事一夜を過ごした。
ヴィルヘリア曰く、身体から
EXスキルとはスキルの中でも逸脱した力を持つ効果を持ったスキルで、取得している人間は数少ない。所持している魔物さえも竜種や魔人などの
木々から溢れ出る日の光が顔に当たって目が覚めた。
俺も色々あって疲れていたのだろう、こんなに固くて湿った土の上でも自然と眠ることができてしまったのだ。しかし、寝ている時に1番気になるのは、やはり自分の心臓の音が聞こえてこないと言う所だ。
心臓のない生活にも慣れないといけない。それに、もし他者に俺に心臓がない事が知られたら、きっと俺は化け物扱いされてしまうだろう。そうならないようにも気をつけなくては……しかし、それにしてもやけに体が重いな。
俺がゆっくりと目を開けると、俺の腹の上で丸くなりながら、すやすやと寝息を立てている美少女が一名いた……ヴィルヘリアだ。幸せそうに寝ている顔がやけに可愛らし過ぎて、思わず顔を逸らしてしまう。本当に元ドラゴンかこの子? いや、今でも現役ドラゴンだったな。
俺は起こさぬようにゆっくりとヴィルヘリアを体から下ろそうとするが、その時寝ぼけているのかヴィルヘリアは俺の身体に掴み、ぎゅっと抱きついてきた。
ヴィルヘリアの自身の鱗を現した露出度の高い鎧からはみ出た豊満な胸が、俺の胸に当たって変な気持ちになる。
「うっへへぇ〜〜♪ 金銀財宝……妾のものぉ……むにゃむにゃ……」
涎を垂らしながらとろけた顔で寝言を言うヴィルヘリアから逃れられず、ヴィルヘリアが起きるまで俺は拘束されてしまった。
そして、数時間が経ってようやくヴィルヘリアが起きた。
「ううぅ〜〜ん! よく寝たーー! おっはよーーレイク!」
身体を天高く伸ばし、目を輝かせて俺に挨拶するヴィルヘリアとは裏腹に拘束されて身体がバッキバキに凝り固まって更に疲労した俺がいる。
「ああ……おはよう……」
「なんじゃ? 元気ないなぁ? 妾がいるんだぞ! 元気出せ!」
そう言って、謎のハイテンションで俺の背中をバンバンと叩いてくるヴィルヘリアに俺は何も言う事ができなかった。怖かったから。
程なくして、キャンプ地点を後にした俺たちは故郷であるゼパル村を目指した。森を抜け、街道に出る。そして歩みを進めたその先にはゼパル村の目印とも言える大きな木壁が見えてきた。
ゼパル村はイブニクル王国の領土内にある中規模の村で、魔物対策として大きな木壁で囲まれている。村を守るために何人かがイブニクル王国から遠征でやってきており、村の守衛は勿論、優秀な人材を王宮にリクルートなども行なっている。だから、基本的に魔物からは襲われても対策ができる作りになっているのだ。
「見えてきた、あれが俺の故郷の村だ」
「むむぅ、狭っ苦しそうじゃ。妾、もっと広い所が良い」
「贅沢言わない。それと、俺と約束したことはしっかり守ってくれよ」
「わーーっておる」
そうして、ゼパル村の入り口までやってくると案の定イブニクル王国の兵士に声をかけられた。
「お! お前は無能力レイク! 遠征の交代要請など来てないぞ? どうした?」
相変わらず鼻につくことを言う。
そうか、こいつらにはまだ俺が王宮から追放されたって知らないのか。なら、今のうちなら誤魔化しが効くだろう。
「いやぁちょっと休暇を貰っちゃって……羽を伸ばしにきたんだ」
俺がそう言葉を言ったつもりだったのだが、兵士2人が俺の言葉を聞いて顔を見合わせていた。
「なぁレイク、お前なんて言ってるんだ?」
「え?」
「何かワギャワギャ、ガウガウって言ってよくわからないんだが、頭でも打ったか?」
そうか、ヴィルヘリアと話していて人間にも自然と"ドラゴン語"を使ってしまっていたようだ。そりゃ話が通じるわけがない。と言うか、人間から聞こえるドラゴン語ってガウガウとかなんだな……
俺は直ぐに人族語に切り替えて話し直す。
「いやすまない、最近疲れてて呂律がまわらないんだ」
「そうか、まぁ無能には無能なりの疲労の仕方があるもんな! それと、後ろにいるその奇抜なお嬢ちゃんは誰なんだ?」
兵士の1人がヴィルヘリアを見てそう言う。しかし、ヴィルヘリアは普通の人間の言葉が分からないためきょとんとした顔をしている。
俺は耳打ちで竜族語を話す。
「お嬢ちゃんは誰だって言ってる」
「おお! 妾はこの世界の竜が一体! 破滅古竜ヴィルヘリアであるぞ!」
ドヤ顔で言ったヴィルヘリアだったが、通じていないようだったので俺が通訳する。
「こいつは俺の知り合いの娘だ、異国から来た子だからこことは別の言語を話すんだよ。だから、こいつには他人の話してる事が分からないけど可愛がってやってくれ」
「ほぇ〜〜なるほどな……よろしく、お嬢ちゃん!」
とまぁこんな感じで誤魔化していくスタイルを貫くことにする。
兵士は扉を開けて、この先のゼパル村へ入ることを許可してくれたようだ。
「なぁなぁレイク! あやつらは妾の事なんと言っておったのだ⁉︎」
「何と素敵な! 我々は貴方様を親しみをもって忠誠を誓います! そう言ってたぞ」
「おおーー! 良いぞ! 苦しゅうない苦しゅうない♪ でも、そんな事を言っている顔をしてなかったような?」
目を輝かせて期待の眼差しで見てくるヴィルヘリアには少々悪い気がしたが、これも生きる為だ……許してくれ……
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