第5話 2人のルール

 ヴィルヘリアと出会ってから少し時間が経ち、気がつけば空が真っ暗となった。ヴィルヘリアと過ごす初夜なのだが、泊まる場所もないので今日は森の中で寝泊まりすることとなった。とりあえず、そこら辺に落ちている木の枝を集めて、焚火を作ることにした。


「何やっとるのだレイク?」


「灯りの為に焚火をつけるんだよ」


「焚火? おお! 火か! 火なら妾に任せろ!」


 そう言って、ヴィルヘリアはその木の枝の山に向かって息を吐くと弱火の炎が生まれ、木の枝に燃え移ると直ぐに焚火ができた。


「これは竜の固有スキル"炎ノ息吹"だ」


「おお、凄い……」


「お前も使えるぞ? 息吹というより、火炎放射だがな」


「えっ⁉︎」


 俺の所持するスキルが判明しつつ、焚火に当たって暖をとる。俺は鞄を漁り、非常食として取っておいた木の実を取り出し、ヴィルヘリアにも分け与えた。


「食べな」


「良いのか⁉︎ やったぁ!」


 ヴィルヘリアは俺から受け取った木の実を無邪気に頬張る。世界壊す竜というよりも、今はピクニックに来た無邪気な少女だった。


「そんなに嬉しいのか?」


「うむ! 妾は1人でしか夕食を食べたこと無かったから、こうやって2人で食べる夕食は初めて嬉しいのだ!」


 俺たちが当たり前だと思っていることも、ヴィルヘリアにとっては初めてなことで嬉しいんだな。純粋な所もあるんだな破滅古竜……


「そういえば……ヴィルヘリアは人とか……食べるの?」


「うむ! 食うぞ!」


「え……」


 軽く聞いてみた質問だったのだが、やはりそこは竜……人間も食べ物に入るのは薄々予測はついているが、このままではまずいものがある。もし、ヴィルヘリアと一緒に村へと向かった時、ヴィルヘリアがその村を襲いかねない……ましてや襲わなくとも、人間を食べてしまう可能性だってある。


「なぁ、ヴィルヘリア……少しだけ俺と約束をしてくれないか?」


「んぅ? なんじゃ?」


「俺が今から向かう先々の場所で、人を食べない、襲わない、それと……無闇やたらに魔物にも戦闘を仕掛けない……それを約束してくれるか?」


「んんぅ??? どうしてじゃ?」


「例えばもし、お前にとって無礼な人間が現れたとしても無闇に殺したりしたら大問題になる。それに、今から向かう場所は俺の故郷でもあるんだ。そこには俺の大切な人達がいる。だから、暴れたりしないでおとなしくしているんだ。それと魔物との戦闘も無闇に力を使っているとお前が世界を壊す破滅古竜だとバレてしまう可能性もあるからな


「むむぅ……確かに……」


「約束してくれるか?」


「うん! わかった!」


 ヴィルヘリアの事だから嫌だと駄々をこねられるかと思ったがあっさり承諾してくれたことに少し驚いてしまう。


「む? なんじゃ? その素っ頓狂な顔は?」 


「いや、結構素直なんだなって」


「当たり前なのだ! レイクは妾の貴重なオトモダチ! オトモダチの頼みを聞くことは人間との間で礼儀だと聞いてるぞ!」


 笑顔で答え、木の実を美味しそうにぱくぱくと食べるヴィルヘリアを見て少し安心した自分がいた。

 この先も、素直でいてくれたら良いのだが……

 そんな思いを馳せながらこの夜は静かに身体を休めることにした。



 《ステータス》

 name:レイク


 称号:破滅古竜の眷属


 《(判明済み)所持スキル》

 コモンスキル:【威嚇】【風切り】

 固有スキル:【炎ノ息吹】

 言語スキル:【竜族語】




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