第4話 ”破滅古龍”ヴィルヘリア

 貫かれた胸からぼとぼとと出てくる血によって、服が真紅に染まっていく。ヴィルヘリアが俺の胸から爪を勢いよく抜くと、更に血が溢れ出てくる。そして俺の体は骨が抜かれた様に地に倒れた。


 熱い……胸が……熱い……


 何故だか自然と痛みを感じない。人は痛みを超えるとそれは熱さへと変わる。右手で胸に触れると、掌が赤く染まる。しかし、肝心なのはそこではない……俺の心臓がないのだ。

 目線を上げると、ヴィルヘリアの爪に静かに脈打つ俺の物と思われる心臓があった。


「か……かえ……せ……」


 声が掠れ、叫ぶ事ができず、弱々しい口調でヴィルヘリアへと懇願する。しかし、ヴィルヘリアは俺の言葉に聞く耳を持とうとはせず、その心臓を見つめている。


「レイク、お前は今日から妾の眷属オトモダチだ……」


 そう言うと、ヴィルヘリアは大きな口を開けて、その口に俺の心臓を放り込む。俺は朦朧とする意識の中で、必死に宙に浮いた心臓に手を伸ばす。しかし、そんな俺の思いは届きもせず、ヴィルヘリアは俺の心臓を丸呑みした。

 その様子を目の当たりにした俺はショックと出血によって気を失ってしまった。



 ☆☆☆☆☆



「……い! おーーい! 大丈夫かレイク?」


「……ん……んぅ?」


 意識が戻り、若い女の子の声が聞こえて目を覚ました。

 瞼を開けると、周りには緑に生い茂った木々が見え、そこは穴に落ちる前の森だと悟った。


「あれ? 俺は……心臓を……」


 そう言って、胸元を見ると傷が綺麗に塞がれていた。しかし、明らかに竜の爪によって付けられたと思われる傷跡だけが俺の胸に残っていたのだ。それに自分の体だから分かる……心臓の音がしないのだ。しかし……俺は生きているし……あの竜のいた空間から抜け出して、元の場所に戻ってきた。


「おい! 妾の事を忘れてないであろうな?」


 夢と現実の狭間を彷徨っている様な感覚だったが、声の方を見て直ぐにこれが現実であると悟る事ができた。

 今度は竜ではなく、毛先が薄いピンクだがベースが銀色のサラサラとした長い髪、明らかに胸や太腿などが露わになり、裸同然と言っていいほど露出度の高い鎧の様な服装、背中に大物感を漂わせるマントを羽織った美少女がそこにはいた。


「き、君は一体?」


「おいおい! ご主人様オトモダチを忘れるとはなんて薄情なやつだ! 妾はヴィルヘリアだぞ! この姿はいつも上界で人間に溶け込むための変装の様な物だ。まぁ何……人間の言葉も話せんし、理解もできんがな!」


 ドヤ顔で言われた。しかし、先ほどまで大きい竜だったのがこんな可愛い子になるなんて……

 よく見ると、頭に2本ほど隠しきれていないゴツゴツとした角がみえている。


 色々、聞きたいことがあるが、俺は1つだけ聞いておかなければならないことがあった。


「おい! 俺の! 俺の心臓はどうした⁉︎」


「それは妾の胸の中だ」


「はぁ?」


「うむ! これでお前は妾の眷属となったのだ! これでレイクと妾は一心同体! これでもう離れることはできないのだ! これぞシンユー関係というものだな!」


「そ、そんな事言われてもだな」


 ヴィルヘリアと話していると俺の後ろの草むらから突然、何かが飛び出してきた。俺は咄嗟にヴィルヘリアを抱いて、その飛びかかってきた影を避ける。


「レイク⁉︎」


「ヴィルヘリア、大丈夫か⁉︎」


 俺はすぐに飛び出してきたものの正体を見た。

 それは目を尖らせて、鋭い歯を見せる野犬”狩猟犬(ハウンドドッグ)”だ。この森の中ではゴブリンよりも凶暴であり、強めの魔物であった。


 しかしヴィルヘリアはその犬を見て鼻で笑うと、俺の前に立った。


「何を言うかレイクよ。妾を誰だと思っておる? 最強の破滅古竜であるぞ! その力、この犬っころで試してやろう」


 挑発のような口調と堂々とした姿に狩猟犬は意味が分からずとも怒り狂ってヴィルヘリアに襲いかかってくる。


 しかし、狩猟犬は直ぐにその攻撃を止めると急にひ弱に泣き始め、怯えている。

 それは俺でも分かる、ヴィルヘリアからただならぬオーラを感じたからだ。


「畜生風情が……消えろ」


 そう言うと、狩猟犬は鼻水と涙を流しながら一目散に逃げ出したのだ。


「ヴィ、ヴィルヘリア……一体何を?」


「なーーにただのコモンスキル"威嚇"よ。ちょっとだけ妾のオーラを見せたらすーーぐ逃げてしまってつまらん!」


 威嚇は大抵の動物から人間まで使えるスキルだが、ここまで敵を怯えさせて、逃げ出させることができるなんて……


「驚いておるようだが、これ……レイクもできるんだからな?」


「えっ? 俺もできるのか?」


「なに、最初は力の使い方が分からぬだけだ。だけど、妾と一緒にいれば必ずお前は誰からも馬鹿にされぬようになるぞ!」


「馬鹿に……されない……それって、もう無能力者とか言われないってことですか?」


「その質問は愚問だな」


 ヴィルヘリア突然、俺の後ろへと回ると笑顔で俺の背中に乗っておんぶの体勢をしてきた。ヴィルヘリアのはみ出そうになる胸が俺の背中に当たる。


「だーーいじょうぶ! 妾とレイクはもうオトモダチだ! お前が強くなるまで妾がそばにいてやる! それに……寂しかったんじゃよ……誰も妾の事分かってくれないと思ってたから」


 ヴィルヘリアの最後の言葉に少しだけ憂いを感じた。同情ってわけではないが、こうなってしまったものはしょうがない。俺も腹を括るか……


「ヴィルヘリア、さっきの言葉……本当だな?」


「えっ?」


「俺を強くしてくれるんだろ?」


「レイクはもう強い。だが、能力の使い方を知らないだけじゃ。それを妾がレクチャーしてやるのだ。妾じゃないと成り立たんだろ?」


 ヴィルヘリアが笑顔でそう答えてくれた。その笑顔を信じて俺はこの少女についていく事に決めた。


「心臓のこととかも……まだ、よく分かってないけど……拒否することはできないんだろ。なら、これからよろしくなヴィルヘリア」


「うむ! よろしくなレイク!」


 こうして、俺は世界を壊す力を持った破滅古竜と友達? となり、新たな冒険の幕開けとなった。

 この出来事が、世界を大きく揺るがす事態になるとも知らずに……



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