第3話 竜族語

「竜族語?」


「ああ、正に貴様も妾も今発している言葉だ」


 確かに、自分がいつもの言葉を喋っている感覚ではなく、別の言語で喋っている感覚が今更ながら伝わってくる。


「貴様に問おう。今までの妾の言葉を聞き、理解できていたのか?」


「は、はい」


「……そうか」


 ドラゴンが沈黙し、俺とドラゴンの空間は少しの間静まり返る。そして、次に口を開いたのはドラゴンだった。


「なっ⁉︎ なんだと⁉︎ てことは妾の恥ずかしいカッコつけ台詞とか全部聞かれてたってこと⁉︎ いやーーん‼︎ めっちゃめちゃ恥ずかしいじゃないの‼︎」


 急に口調が変わり、恥ずかしがるドラゴンに俺は拍子抜けしてしまう。


「あ、あの、ドラゴンさん?」


「待って! 少しの間だけこっち見ないでじゃ! 妾、恥ずかし! 恥ずかしいのじゃ‼︎」


「は、はぁ」


 そして、数分が経つとドラゴンも落ち着きも取り戻して、尻尾で隠した顔をどかして、こちらに目をやった。


「えーーっとおぬし、竜族語を喋れたのじゃね」


「す、すいません。あの、竜族語ってなんですか?」


「おぬし⁉︎ 知らないで使ってたのじゃ⁉︎」


「えっと……あはは」


 俺はあぐらをかいたまま、頭を掻く。


「竜族語と言うものはその名の通り、我が種である竜種が使う言語じゃよ。竜族語はどの蛮族語よりも理解するのが圧倒的に難しくて、魔物を召喚・使役して戦う魔物召喚師(モンスターサモナー)や精霊術師(フェアリーテイマー)とか人族語以外の言語を話せる者達でも習得が困難とされている最上級言語なんじゃから」


「あ、そうだったんですか」


「そうだったんですかって、おぬし……上界では引っ張りだこだったんじゃ?」


「い……いえ、実は俺、仕事を辞めさせられて故郷に帰ろうとしてたんです」


「ん? どうしてじゃ?」


「自分にはスキルが無いから……"無能力者"だから……そう言われて、僕は本当に何も無い人間なんだと思って。それに、雑魚モンスターすら倒せない落ちこぼれだから、ドラゴンさんに出会って死ぬのかなって。でも死ぬならせめて、立ち向かおうと思って」


 俺の言葉をドラゴンは静かに聞いており、その言葉を聞いてまた自分の手の甲を見る。あの時、立ち向かって刺さった剣の破片の事を思い出していた。

 そして、ドラゴンは鼻で笑って俺の方にその黄色い目で俺の方へと視線を向け直す。


「貴様は無能力者などではない。妾で証明できておるではないか? ふっ……それに、おぬしの様な馬鹿な面白い人間がまだいると言うのならこの世はまだ廃れたものでも無いのかもしれんのじゃ。因みに、妾は嬉しいのじゃ」


「え?」


「妾と会話できるものなど人間で誰もいなかったのだからな、丁度生きて大体1000年は経つが寂しかったところだったんだ。どうじゃ? 妾とこれを機に"オトモダチ"と言うものにならぬか?」


 オトモダチ……ドラゴンと友達になるなど嘘の様な話が今、現実に起ころうとしていた。しかし、俺はこれを拒否できるほど生活が良いわけではない。逆に断ったら食い殺されるかもしれない。ここは穏便に友達になろう。


「あ、ああ。俺で良ければ友達になろう」


「本当か? 本当の本当に本当か⁉︎」


「本当だよ」


 ドラゴンは目を輝かせ、明るい表情を作ると大きな手の人差し指を俺に差し出す。


「オトモダチの証に握手じゃ、人間の礼儀なのだろう?」


「あ……ああ、よろしく」


 そう言って、俺はドラゴンの指の先を握り、大きくて小さな握手を交わした。俺がドラゴンの指を握ったその時、俺の身体に感じたことのない力が入ってくるのを感じた。俺は驚いて、直ぐにその手を離した。

 しかし、ドラゴンは落ち着いた口調で言う。


「大丈夫、そのまま妾の手を握っていろ」


 俺は少し怖かったが、ゆっくりとドラゴンの指先を握ると瞬く間に力が俺の中に入ってくる。そして数秒が経った時にはその莫大なエネルギーが俺の中へと入り切り、身体中から力溢れ出てくるようだった。


「こ、これは?」


「オトモダチの印じゃ。少しばかり妾の力を貴様に分け与えたのじゃ。ざっと……妾と同じ魔力ぐらいには……」


「お、同じ魔力⁉︎」


 最強種であるドラゴンの魔力とはかなりのエネルギーであり、一般的な魔法使い達の魔力大体1万人分とされている。その魔力が俺の中へと入ってしまったとなると……大変な事態である。


「あと、折角だから妾の覚えてるスキルと魔法の殆どをお前に渡しておいた。妾が持たぬ固有スキル以外は全部使えるだろう」


 俺はその言葉を聞いて更に驚く。


「ド、ドラゴンさんのスキル⁉︎ それってどれくらい」


「この世にある人間が覚えることができるスキルの殆ど使える」


「へぇ?」


「例えば」


 ドラゴンが爪を振ると、風を切る音が聞こえたかと思うと、本当に風が切られ、そこから衝撃波が生まれると遠くへとけたたましい音を立てて飛んでいく。


「お前がさっき妾に与えた"風切り"じゃ」


 同じスキルなのに威力の差が一目瞭然だった。

 これが今、俺でも使えると言うことなのか?


「最初は慣れるのに時間がかかるであろう。安心しろ、妾がみっちり貴様に教えてやる。そう言えばおぬしの名はなんだ。妾は"破滅古竜エルダードラゴン"のヴィルヘリアじゃ」


「俺は、レイクです……って⁉︎ 破滅古竜(エルダードラゴン)⁉︎」


 破滅古竜とは、この世界の魔物の頂点に君臨する竜種の中の更に頂点であるSSS級の世界最強生物である。その力は世界を破壊することだって容易い超危険生物でもあり、倒すことができるのは選ばれし"勇者"と呼ばれる者である。しかし、勇者も破滅古竜の話もお伽話に過ぎないと思っていたのだが、破滅古竜の方と出会ってしまうとは、幸運なのか不運なのか……


 てことは今、破滅古竜とほぼ同じ力になっちゃったって事⁉︎ やばい! それがバレたら俺も化け物扱いされちゃうじゃないか‼︎

 だけど、逆に考えるんだ……落ちこぼれと言われるより、ドラゴンの力を持った人間になる事の方が自分を変えられる! そう、前向きに捉えることにしよう……うん……


「そうじゃそうじゃ! 忘れていた! もう一つ証が必要だ」


「他に何か必要なのか?」


「そうなんだ。レイクと妾はオトモダチ、だから」


 その時、ヴィルヘリアは爪を立てると、俺の胸を不意にその鋭い爪で貫いた。


「ぐはぁ……ヴィ……ヴィル……ヴィルヘリア……?」


「お前の心臓を頂く」


 俺の胸を貫いたヴィルヘリアの爪の先にはドクンドクンと脈打つ赤い赤い俺の心臓がついていた。



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