第2話 帰路 ゴブリン 穴 ドラゴン

「それじゃあなレイク! 精々野垂れ死ぬなよ!」


 かつての仲間である門兵のソウの捨て台詞と共に王国の門が閉じられる。そう、本格的に俺は追放される事になり、放浪者としての人生が始まった。バックパックに入った荷物は数日間の食料と着替えと全財産である500Gゴールドだけである。それと護身用に譲り受けた、兵士達に支給される安物のロングソードを身につけていた。


 しょうがない……取り敢えず、イブニクル王国の領土で南にある俺の故郷ゼパル村まで行こう。

 そう思い、俺は荷物を背負って歩き出した。兵士の時には街道をゆっくりと歩くことはなかったので、少しだけ楽しく感じた。しかし、次の働き口が見つかるのか不安だった。


 兵士になってまだ1年半だぞ……どうして解雇なんて……まぁ……俺が何もできないのがダメなんだけど……でも、もう少しだけ頑張りたかった……


 そう考えていると、街道から外れた道に差し掛かる。目の前には樹木が生い茂る森林が広がっている。そう、ここからは森を超えていかなければ村へと辿り着くことはできない。幸いにも出現する魔物は最低のFランクモンスターしか出てこないのだが、それを幸いと言えるのはスキルを使える者達にとっての話だ。俺は未だに何のスキルを持っているのかも分からないため、魔物と遭遇した時は自分の技術だけで戦うしかなかった。


 俺はいつでも剣を抜ける状態で森の中へと入って行く。

 遠くでは鳥の甲高い鳴き声や人間ではない者たちの鳴き声が混ざりあって聞こえてくる。上を見上げるが、朝なのに日光が数多ある木々の枝によって遮られ、森の中は全体的に薄暗く不気味だった。

 足元に気をつけながら、更に奥へと進んでいくと近くの草むらから音が聞こえると、俺は咄嗟に剣を抜いて構えた。

 その方向から現れたのは緑色の体をした小さな鬼の様なモンスターである3体のゴブリンが現れた。


「ゴブリン3体か、頑張れば倒せる!」


 ゴブリンは木製の棍棒を持っているが防具は布切れである為、俺の持っているロングソードなら一撃で倒せるレベルである。


「食らえ! たりゃあああ‼︎」


 俺は剣を抜き、一体のゴブリンに向けて剣を振った。


 しかし、単調な攻撃だったのか軽々と俺の攻撃避ける。俺は果敢に剣を振るがゴブリンは俺の攻撃を避け続けた。本当は俺には剣の才能もない。一丁前にフォームは綺麗だが、命中率は兵士の中でワースト1位の実力がある。そんなワースト1位はFランクモンスターのゴブリンにさえも攻撃を命中させることはできない。


「はぁはぁ……」


 そして、とうとう俺は疲れ果ててしまい、その場に跪いてしまった。それを見たゴブリンは俺を馬鹿にした様にゲラゲラと笑っている。


 くそ! ゴブリンにも馬鹿にされて、俺は情けねぇ……畜生……自分を変えたい、変えるんだ‼︎


 俺は歯を食いしばって立ち上がり、ゴブリンに向けて剣を構えた。


「俺は、こんなひ弱な自分を変えるんだ‼︎ うぉおおお‼︎」


 この時、俺は諦めずに一度失敗した"風切り"を試す事にした。一か八か……失敗なんて気の持ち用だ! いっけぇえええええええええ‼︎


 俺は剣を横に振った。しかし、その剣は水平ではなくふにゃふにゃと蛇行する。俺は……何も変わらなかった。ゴブリンに軽々と攻撃を避けられると、俺はゴブリンの棍棒で顔面を殴られる。顎に当たり、大きくその場から吹き飛ばされてしまった。そして、更に不運なことが起きた。飛ばされた場所に大きな穴があったのだ。その穴の奥は闇が広がっており、穴の先に何があるのか分からなかった。俺はなす術もなくその穴の中へと落ちて、森からどんどん離れて行く。


 俺は一体、このままどこへ向かうと言うのだろう……



 ☆☆☆☆☆



 穴に落ちてからどれくらい経ったのだろうか?

 ゆっくりと目を開けて、重たい身体を起き上がらせる。


「ここは……何処だ?」


 周りを見渡すと、そこは何もない真っ暗な闇が広がっている場所だった。地面は恐らく土で出来てるのは分かるが、闇が深すぎて周りの様子が分からない。俺が持っていた荷物は幸いにも近場で散らばっており、急いで鞄の中へと入れる。すると突然、男声と女声が混じり合った様な気持ち悪く悍ましい声がこの空間内に響く。


「貴様……我が誇り高き竜の根城に勝手に入り込むとは良い度胸ではないか?」


「へっ⁉︎ な……何だ⁉︎」


 俺は声に驚いて、周りを再度見渡すがやはり闇が深すぎて何も見えず、声が発せられている物を特定することはできない。


「はっはっは‼︎ 怯えている怯えておるぞ‼︎ 勝手にノコノコと入って来た哀れな人間が‼︎‼︎」


 すると、闇の中から2つの黄色く輝く目が現れる。その目に俺は驚き、思わず尻餅をついてしまった。


 そのままゆっくりとその目から離れようと試みるが身体がまるで石のように動かない。恐怖心から身体が言う事を聞かなくなってしまっている。目を見れば見るほどその眼の中へと吸い込まれていきそうになる。


「怖いかぁ? 怖いだろうなぁちっぽけな人間が我が姿を見て終えば、死んでいるのも同然なのだからなぁ?」


「はぁはぁはぁ……」


 ダメだ怖すぎて、言葉が出なくなって来た。過呼吸気味にもなっている。落ち着け、落ち着いて深呼吸をするんだ……すぅ……げほっげほっ‼︎

 ダメだ! 喉も震えてうまく呼吸ができない!


「……哀れだ、哀れだぞ人間……我が目だけでその様になっているのならばこの姿を見れば、貴様は失神してしまうだろう」


 く……くそっ‼︎ 王宮から追放されて、ゴブリンにボコボコにされた挙句、やばい魔物の住処に迷い込んでしまったなんて、ついてない日だぜ畜生‼︎


 こんな人生……最後になるなら最後なりに……抵抗してやる‼︎


 俺は近くにあったロングソードを掴み、鞘から抜いてゆっくりと立ち上がる。震える身体を手で叩きながら、闇の中の"それ"に向けて剣を構える。


「ほう? 我に立ち向かうか? 面白い……人の子よ、ならばその勇ましき最後に見合うよう、我が身を見せようではないか‼︎」


 そして、闇の中のそれが大きく鳴き声をあげると、宙に無数の青白い火の玉が生まれ、この空間を照らす。


 そして遂に、"それ"が正体を現した。


 全身が闇の様に黒く染められた皮膚に広がった紫色に発光する血管、まるで大陸1つ分の広さがあるのではないかと思われるほど大きな翼、そして人間が数百人居ても足りないくらいの大きな頭にゴツゴツとした皮膚……まさしく"ドラゴン"と呼ばれる、この世界最強クラスのモンスターだった。


「あ……あぁ……」


 俺は驚きを通り越して、最早言葉が勝手に漏れているだけだった。見上げた先に巨大な竜の顔があり、人間など簡単に丸呑みできてしまうほどの大きな口に恐怖を感じすぎてしまい、最早言葉が出ない。


 それでもなお、正気を保つことができている自分に怖くなった。このまま倒れていれば楽に死ぬことができたかもしれない。それなのに正気を保ってしまったのだ。


「どうだ? 怖いだろぅ?」


 俺は竜のその言葉に応える様に言い返した。


 この時、何故か自然と自分がいつも話している常用語ではない"別の何かを"をしゃべっている様な気がしたが、そんな事を疑問に思う余裕など無かった。


「こ、こ、怖くなんかない‼︎ お、俺は確かに哀れだ! スキルも戦闘も魔法も……そして、運もなぁ‼︎ でも、死ぬならせめて……最後は立ち向かって死んでやらぁあああああ!!


「‼︎」


「うぉおおおおおおおお‼︎」


 俺は一心不乱にそのドラゴンに向けて剣を奮った。その時、まるで風が切れる様なブンッ! と言う音が聞こえたかと思うと、水平に振った剣が蛇行せずに真っ直ぐに振られる。


 この時、初めて俺はコモンスキル"風切り"を成功させたのである。


「やった!」


 しかし、そのロングソードがドラゴンの足へと当たった時、刃が軽々と折れてしまった。俺はその剣を見て絶望するしか無かったのである。


 唯一の武器を失ってしまった事でもう抗う事はできない。


 死んだ……


 俺は地に膝をついて、ガックリと肩を落として項垂れた。


 一方でドラゴンは自分の手の甲を見ていた。何故ならばこの人間が持っていたロングソードの刃が硬い鱗を破り、突き刺さっていたからだ。


 ドラゴンの鱗は人間の作る武器や兵器では太刀打ちできないほど強靭で硬いので、ロングソード如きの武器でこの鱗を突破する事などあり得ないのだ。それにドラゴンはもう一つ、疑問に思っていることがあった。


 それは、この人間の発する言葉の意味を理解できた事。普通、ドラゴンも人間と同じ様に意思疎通を図るための"言語"が存在する。勿論、それが違えば何を言っているのかも互いに分からないはずだ。ドラゴンだって"人族語"を喋ることなどできない。今の今まで、沢山の人間に出会って来たが、人間の話す言葉も知らずに生きてきた。無論、人間側もそうだろう。ドラゴンは自身の使う常用語でしか話をしてきていないのだ。勿論、人間がドラゴンの言葉など知らないし、話せることなどできないのも知っている。だからこそ、言いたい放題言える……そう思っていた、この人間に出会うまでは……


「ぬぅ……」


 ドラゴンは自分の手の甲に刺さった剣の破片を抜いて、地面に落とすと、ゆっくりと俺の方へとにじり寄って来た。


 俺は死を覚悟した。


 食べられる……


 奴の口が開いた時、俺は怖くなって瞼を閉じた。


 しかし、いつまで経っても痛みを感じない。俺はまたゆっくりと目を開けると目の前にドラゴンの大きな頭があった。


「うわぁ⁉︎」


 俺はまた驚いて、後退りするがドラゴンは冷静に俺に向かって話しかけて来た。


「貴様、【竜族ドラゴン語】が話せるのじゃ?」



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