第7話 久しぶりの帰宅①

 俺の故郷であるゼパル村は大きく目立った建物などは無く、物静かな村だ。それだが、村人一人一人の労働力の甲斐あってか村は賑わいを見せていた。住宅地と店屋が混ざって立ち並ぶその場所は他の土地から訪れる行商人から商品を輸入し、それを村で売る。また、ゼパル村は農業が盛んであり、村周辺には多くの田畑が立ち並んでいる。勿論、採れたて新鮮な状態で売られる為、時折市場の様に出店を開いている時もある。丁度今日がその日で村の通りには多くの野菜や雑貨を売る出店が並んでいた。

 この光景がやはり珍しいのか、ヴィルヘリアは俺の側でキョロキョロと周りを見ながら歩いてた。その目は珍しい物を見て目を輝かせる子供の様だった。


「楽しいか? ヴィルヘリア?」


 俺が竜族語で話すとヴィルヘリアは笑顔で振り返った。


「人間の村を静かに歩くのは初めてなのだ!お祭りみたいで、まるで妾がもてなされている様じゃ!」


「はは……それはよかった」


 人間とは少し受け取り方が異なるヴィルヘリアに苦笑しながら、歩いていると仕事で荷物を運ぶ村人や市場を楽しむ人々が増え始めてくるのが見えた。


「ヴィルヘリア、離れちゃダメだぞ」


 俺は離れない様に自然とヴィルヘリアの手を握る。


「うむ!」


 ヴィルヘリアは嬉しそうに俺の手をぎゅっと力強く握ってきた。


「いっ⁉︎」


 俺は痛みで声をあげそうになるが、ぐっと堪えて歩き続ける。その一方でヴィルヘリアは子供の様に目を輝かせて楽しそうにしている。全く……どれだけ力が強いんだ……

 そんなこんなで人の多い場所を抜けて数分歩いたところで俺は一軒の家の前で歩みを止めた。


「むぅ? どうしたレイク? ここはなんじゃ?」


「ここは俺が1番お世話になってる人の家だ」


「そうなのか! ならば、妾もしっかりせんとな!」


 どうやら、俺が言おうとしていた事は既にヴィルヘリアは心得ていたようで一安心する。早速、俺はその家の扉をノックする。


「はーーい」


 扉の奥から女性の声が聞こえてくると、すぐに扉が開かれる。出迎えてくれたのは金髪ポニーテールで碧眼、健康的な肌艶をした美人といって良いほどの女性だった。その女性は俺を見ると驚いたように俺の名を呼ぶ。


「レイク? レイクなの⁉︎」


「やぁソフィー、久しぶり」


「もう! 突然現れるなんてびっくりよ! 1年ぶりじゃない!」


 この女性は俺の幼馴染のソフィー、俺が小さかった頃、このソフィーの家で育てられた。俺の父と母は俺が産まれてすぐにこの世を去ってしまい、母の友人であるソフィーの母親に引き取られて、俺が兵士として独り立ちするまで家族の様に育ててくれたのだ。ソフィーは俺と同時期にこの家で生まれた娘で、ソフィーと一緒に育った。その為、俺とソフィーは仲が良い姉弟と村で評判もあったとか無いとか。


「イブニクル王国の宮廷兵士になってから全然帰って来てくれないんだから、元気かどうか心配してたのよ?」


「あはは……ぼちぼちだよ」


 本当は解雇されて、王宮から追放されたなんていえないよなぁ……


「あれ? レイク、その隣の素敵な子は誰かしら?」


「ああ、この子は異国から来た友人の娘さんなんだ。異国の言葉を話すからソフィーの言葉とか分からないけど仲良くして欲しい。因みに俺は異国の言葉は友人から教わったから俺が通訳者としてこの子を預かってるってわけだ」


 と言う、ありそうな嘘をついてみる。


「へぇーー! そうなのねーー!」


 俺はまた竜族語に切り替えて、ヴィルヘリアに耳打ちする。


「この子は俺の幼馴染のソフィーだ。ほら、挨拶挨拶」


「うむ! 妾の名はヴィルヘリア! レイクとはオトモダチなのだ! よろしく頼むぞソフィーとやら!」


「えっ⁉︎ レイク! なんて言ってるのこの子?」


「私はヴィルヘリアです。よろしく頼むぞソフィーだそうです」


 そう聞くと、ソフィーは嬉しそうな顔をするとヴィルヘリアへとハグをした。


「お人形さんみたいで可愛い♡ よろしくねヴィルヘリアちゃん!」


 突然、ハグをされて頭を撫でられるヴィルヘリアは驚き戸惑って俺に声をかけてくる。


「はわわ! なんじゃなんじゃ⁉︎ 此奴、妾を恐れてないだと⁉︎ レイク! 此奴になんと言ったんじゃ⁉︎」


「え? 普通にそのまま言ったことを伝えたけど?」


「てことは……これが人間のする敬いであるな! 頭を撫でられるのも悪くは無いし……うむ、それなら仕方あるまい。少々距離が近い気もするが、さぁ! 妾を愛でるのじゃ人間!」


 うーーん、お馬鹿……



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