第7話 河見ゆゆの侵略!視点.野崎太一

__これは、宮辻さんにとあるギャルに押し倒される場面を目撃された1時間前


 河見さんに明日の夜も来ると言われて、とうとうその時間が来てしまった。あの人面倒くさいし、居留守でもしようかな。あーでも、宮辻さんに脈があるのか気になる!


__ピンポーン!


「野崎氏、いるでござるか? ゆゆでござるよー。おーい」


__ピンポーン!ピンポンピンポンピンポン!


 うるせぇ!河見さん、ピンポンダッシュみたいに連打してくるじゃん。やっぱり、あの人を部屋に入れると面倒そうだ。俺はやはり居留守を決め込み、座して彼女が去るのを待った。数分後、高橋名人の16連打ぐらいうるさかった呼び鈴がパタりと消えた。玄関に近づき、扉に耳を当てたが人の気配がない。


「いない......か」


 扉を開けて誰もいない通路を確認し、俺は一息ついた。よし、一件落着したしゲームでも......!?


「ふぅ寒い。野崎氏~、いないでござるかぁ」


 カーテンを閉めているから人影ではあるが、この声は間違いなく河見さんだ。あの人、不法侵入を躊躇いなくするな。でも、ちゃんと窓をロックしていてよかった。ベランダに降り立った人影は、コンコンと窓をノックしていた。


「いないでござるか? ねぇ、野崎氏!」

「......」


 絶対に声は出さない。河見さんには悪いが、丁重にお引き取り願おう。


__シーン。


 ノック、しなくなったな。ん、なんか変な声がする。俺はカーテン越しにまた耳を傾け、何の声か確かめた。


「ぐすん。部屋に戻れないし、野崎氏がいないから出られないでござるよ〜」


 と、河見さんのすすり泣く声がした。降りてきたのだから帰れるだろうと思ったが、確かに登れないかも。


 ……はぁ、しょうがないなぁもう!


「はいはい……いますよ河見さん!」


 カーテンを開くと、そこにはあの丸眼鏡にお下げのオタク女子河見ゆゆが……居ない!?


「あぁ、野崎氏いたのでござるか! お願いでござる、中に入れてくだされ!」


 ベランダにいる女の子は、ぺたんと女の子座りで泣いていた。カーテンが開いたのに気づくと、見返り美人ならぬ見返りギャルがいて潤んだ目で迫ってきた。窓にぺたっと頰をつけ、ガラス越しに籠った「お願いでござるぅ!」が聞こえる。やっぱりこの人、河見ゆゆさんなんだよな?


 でも、別人にしか見えない。ツルツルした生足が見えるパンツみたいなジーパンに、おへそが見えるTシャツ……そして、栗色のウェーブがかった下ろした髪。どこからどう見ても、eggの表紙にいてもおかしくない美少女ギャルだ。俺が呆気に取られながらも窓のロックを解除すると、彼女は涙目のまま部屋へ入ってきた。


「うぅ、酷いでござるよー。でも、入れてくれて助かったでござるぅ」

「ちょっ、河見さん!?」


 やべぇ、抱きついてきた!いい匂いする。香水の香りに混じって、彼女の匂いがきてクラクラしてくる。いかん、正気を保て俺!俺は何とか理性を取り戻し、彼女の肩を掴んで引き離した。


「河見さん、靴脱いでください」

「あっ、これは失敬。待っててくだされ!」


 そう言って彼女はタタタと走りながら靴を脱ぎ、こけそうになりながら玄関に行った。はぁ、危うく鼻血が出るところだったぜ。


__1分後。


「……粗茶ですが」

「あぁ、どうもでござる」


 河見さんと俺は、また一旦テーブルを囲って座っていた。彼女は遠慮なくまた一飲みで麦茶を飲み干して、バッと立ち上がる。


「では、ストファイしますか野崎氏!」

「はぁ!? 結局それしたかっただけ?」


 彼女は許可なくテレビを弄り出し、ストファイ5を起動した。5はテレビでもできるようにアーケードスティックを買っていたのだが、まさかこんな展開で使うことになるとは。


「てか、使わないよ! ゲームして何で脈があるかわかるんだよ!」


 そういうと、河見さんは呆れたようなため息をした。なんか少しイラっとする。


「はぁ、わかってないでござるな。部屋に女性を上げてイチャイチャとゲームをしていたら、宮辻氏は嫉妬の炎をたぎらせるのでござるよ。さ、早くやりますぞ」


 ……これが作戦かぁ。てか、この人本当に宮辻さんの脈を確かめようとしているのか?ただストファイしてくれる相手欲しかっただけなんじゃ。


「何しり込みしてるでござるか? 野崎氏は宮辻氏に脈があるか知りたいんでござろう? あっそれとも、私に負けるのが怖いんでござるか?」


 ムカムカ!


 ハハハ、もうこうなれば焼けだ。脈があるかは気になるし、河見さんの横暴には前から少し腹が立っていた。ここで圧倒的な強さを見せつけ、もう一度泣かせてやる!


「わかりました! でも、一回も勝てなくても弱音吐かないでくださいね。……って、近い!」


 そう言って畳の上に座ると、河見さんはニシシといった笑みをこぼして肩をくっつけてきた。


「ふふふ、イチャイチャしてるように見えないと意味がありませんからな。でも野崎氏は、私がモテないと思っているのですから平気でござろう?」


 この人、マジでどこまでぐいぐい来るんだ!嫉妬させる作戦とはいえ、付き合ってもない男に肩を寄せるとか。てか、パンツみたいなジーパンであぐらかくなよ!え、えっちすぎる!こ、こんなえっちな状況で勝てるのか?


 いや、勝つんだ!河見さんの手のひらで転がされ続けるのは嫌だ!み、見てろよぉ!ゲームでボコボコにして、立場逆転してやる!

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