第5話 FF外から失礼でござる。視点.野崎太一
「こほん……気を取り直して、それでは教えてください野崎さん」
宮辻さんは取り乱した姿からは落ち着いたものの、薄らと頰はまだ赤くなっていた。だがこれ以上観察しているとキモがられるかもしれないので、俺も切り替える。
「まぁそんな教えることはないんですけとね。危ないので、口に含むのではなくコーラに直接入れてみては?」
そういうと、宮辻さんは小首を傾げた。
「あの芸は、口に含まなくてもできるんですか?」
「うん。でも気をつけて、ボンって吹き出すから」
「ボン……ですか。怖いですね」
お、床に置いた。まぁビックリして落としたら危険だしな。でもメントスコーラ初めての人の反応って、何気に珍し……!?
「宮辻さん! メントス全部はダメ!」
「ふぇ?」
宮辻さんは床に置いたコーラのペットボトルに、メントスを全てぶち込もうとしていた。咄嗟に危ないと声をかけたのだが、それに驚いたのか彼女はペットボトルを倒してしまう。
「きゃあ。だ、ダメ……そこはダメぇ!」
メントスを入れたコーラのペットボトルは倒れる寸前、何とまぁ都合が良く勢いよく噴射した。射角もまた何と都合が良いのか、その……宮辻さんのお股に直撃だ。
「大丈夫ですか!」
俺は心配する気持ちもあったが、その艶かしい声を聞いたのもあって食い入るようにレンズに目を押し付けた。レンズの中には白いレースの寝巻きが濡れて透け透けになって、水たまりの上に女の子座りをする宮辻さんがいた。な、なんかおしっこ漏らしているみたいでエッチだ。
「……野崎さん」
あ、でも初めに言わなかったのはダメだよな。宮辻さん、怒ってるのか。俺は恐る恐るトランシーバーを耳に近づけ、返事をした。
「すごいですね!」
「えっ?」
「コーラとメントスで、こんな吹き出すなんて面白いです! 野崎さん、教えていただいてありがとうございます! くしゅん」
宮辻さんは笑顔でそう言い、服の裾をギュッと絞ってベランダに水を落としていた。服ビシャビシャだけど、面白いなら一安心……かな。
「宮辻さん、じゃあこのトランシーバー返した方がいいですよね。どうしましょうか?」
これで俺と彼女の関係は終わり。短い間だけど、楽しい時間をありがとうございます。そう心で噛み締めていると、彼女はまた「なんで?」という表情を浮かべる。
「せっかくこうして話せるようになったんですよ。私、もっと野崎さんとお話ししたいです。それとも野崎さんは嫌……ですか?」
なな、何でそんな悲しい顔するんだよ。もしかして俺のこと……アホ!童貞の楽観的考察はやめろ!暇つぶしだよ暇つぶし。宮辻さんて確か、昼間は習い事で遊べなくて、夜も外出禁止で退屈しているんだ。大体、暇つぶしじゃなきゃこんな引きこもり相手する訳ないだろ。
「……」
あ、しまった。考え込んでいたら、宮辻さん更に悲しそうな顔してる!
「嫌じゃないです! はい、また明日も話しましょう! 俺、他にも色々こういう系詳しいんで!」
「本当ですか! それじゃあ野崎さん、また明日もお願いします。私もう一度、お風呂に行かないと行けないので」
うわぁ、めっちゃ笑顔になった可愛い〜。てかやべ、励ますためとはいえ色々詳しいって……まぁYouTubeで調べてば似たのあるか。いやはや、それにしても……。
「……可愛いなぁ」
「いやぁ最高でござったなぁ。私も2次元にしかときめかないと思っていましたが、まさかこんな推しカプが近くにいたとは」
「ちょっ、河見さん!? 何してんだよ!」
突如、ベランダの上から生足とパンツが。喋り声で河見さんとすぐにわかったが、何故そんな登場の仕方を。彼女は危なっかしい足取りでベランダの手すりに足をつけた。そしてヒョイッと手すりから降り、「やれやれ、いい汗かいたぜ」と呟いて前髪を手で払っていた。何がしたいのかわからずジト目で見ていると、彼女も気づいた。
「あ、FF外から失礼でござる。それにしても野崎氏、なんてロマンティックなことしているんでござるか!」
河見さん……聞いていたのか。うわぁ……うわぁ......最悪だ。学校のクラスメイトにあんな恥ずかしい会話聞かれていたなんて。どう釈明しても学校で変な噂が立ちそうだ。かくなる上は、噂される前にこの人を!俺が素早くスマホを取り出すと、彼女は慌てて腕を掴んできた。
「ちょっ、何すかそれ」
「何って……不法侵入で通報するんですよ。そうすれば河見さんは捕まって、学校で変な噂立てられないじゃん!」
「私はそんなことしないですぞ! 落ち着いてくだされ」
それから数分後、俺も取り乱したのは悪いとなって一旦彼女を部屋にあげた。女の子を部屋に上げたこともないから妙に緊張してきたが、お茶とか出すべきだよな。
「……粗茶ですが」
「あ、お構いなく」
河見さんはそう言ったもののテーブルに置いた麦茶をすぐ手に取り、ごくごくと一瞬で飲み干した。ぷはぁと息を吐き、飲む前とは反対に空になったコップをゆっくりと置く。
「で、話というのはですな。先ほどの野崎氏と宮辻氏でしたか? の会話を偶然聞いてしまいましてな。オタクの私には、それはもう刺さりまくったのでござる」
うん、なるほどね。河見さんの琴線にまた刺さってしまった訳か。噂はしないのだろうけど、やっぱりめんどくさいことになりそうだ。
「それで私、拙作ながら趣味で漫画を描いていまして、ぜひこのロマンティックな恋愛を題材にさせていただきたいのでござる」
「あのさ、河見さん勘違いしてない?」
「はにゃ?」
「俺と宮辻さんはその、恋愛してない」
そう、彼女にとってはただの暇つぶしの相手。俺なんかが彼女に好かれるわけがない。でも自分でこう、口にするのはなんかくるな。
__バン!
落ち込んでいると、河見さんは突然台パンしてきた。
「何アホなこと抜かしてんすか! これは女の勘でござるが、脈は確実にありますぞ!」
女の勘……ねぇ。河見さんは目をギューっとして、妙に興奮していた。
「河見さん言いたくないけど、別にモテるってタイプじゃ……」
「野崎氏、私も女の子ですぞ。その発言は流石に傷つくでござる」
河見さんは傷ついたのか、テーブルに突っ伏してシクシクと泣いているような声を発していた。
「ご、ごめん河見さん。確かにちょっと言いす」
「アハハ! 冗談でござるよ。慣れてますから安心してくだされ」
慣れてるって、本当に冗談なのか?そう疑っていると、河見さんはチッチッチッと舌打ちをする。
「ですがぁ、私の本気モードを知ってからその発言をしてもらいたいですなぁ」
河見さんはメラメラとした炎のようなオーラを放ちながら、鋭い目つきで見てきた。
「や、やっぱり怒ってるよね?」
「ふふふ......フハハハハハ! 野崎氏、明日もお邪魔させていただきますぞ。宮辻氏の脈があるかどうか、確かめましょう! この私を使って!」
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