第9話 巡る想い、震える肩。

まただ。


「おーいまだかい?お姉さん待ちくたびれちゃうぞ?」



南野さんでは飽きたらず、先輩にまで手を出しているなんて。


しかもまた私とは真逆のような女の人。


やはり中原くんはああいうのがタイプなんだ。


やっぱり私なんかじゃ…



ん?


何でこんなにも考えてるんだろう。

別に私には関係ないはず。

中原くんはただの同じ委員会。

それにあの先輩だって自分の事を「お姉さん」だと名乗っている。

まだ本当の姉である可能性だってあるではないか。


そうやって考えをいくら巡らせても答えにたどり着くことはなかった。



時は流れ…



最大のイベントが幕を開けた。


「はーいじゃあとりあえず…適当に班作れるかー?5人くらいがベストなんだが」


出来るわけないでしょ!?

なんなのこの悪魔的な風習は!?

中学で三年間過ごしても友達が誰一人出来なかったのよ!?

中学の林間学校、そして修学旅行といい、私をどれだけ苦しめれば気が済むの!?


しかも他のクラスと合同なんてそれじゃあ…


南野さんがいるじゃん……


自分たちのクラスだけだったらまだ良かった。


最悪中原くんに

「私たち同じ委員なのでー」とかなんとかいえばきっと受け入れてくれただろう。


彼は優しいから。


でも彼女がいるこの場では話が違う。


きっと中原くん達は一緒に行動するだろう。


そうなってくればまずは2人、恐らく梅原くんも入るから3人、南野さんに友達がいないとは考えられないから最低でも4人…もしくはこの時点で決まってしまう可能性だってある。


まずい。

非常にまずい。


なんならいっそ自分から声をかけてしまおうか


そう思い中原くんを探すのだが


目についたのは楽しそうに話している南野さんだった。


(あぁ…やっぱりそうなるのよね)


行動力ですら私は負けてしまう。


目の前で2人を眺められるほどの胆力は私にはない。


あの中に入ってしまっては完全なお邪魔虫だろう。私はきっと口うるさく当たってしまうし、運動だってあまりしてこなかったから登山でも迷惑をかけてしまう。



どうしよう


まずい


このままだと


また一人に




「東城さん」


「え、あ、はい!?」


自分でもビックリするくらいの高い声。

少し恥ずかしいが今はそれどころではない。


「えっと、うちの班あと一人なんだけど…一緒にどうかな?あ、もしかして誰か予定あったり…する?」


いつの間にか私の隣に立っていた中原くんからの思いもよらない提案された。

まさか気を遣ってくれたのだろうか。

私がこういうことに慣れてなく、未だに一人で座っていたから。


(………優しい人だなぁ)



だけどここは断るべきだ。

私がいては邪魔になってしまう。

2人の邪魔に…


「いや…その、まだです」

「中原くんたちが宜しいのでしたら、是非、同行させてください」


あれ?


どうして受け入れてるの?


断ろうとしていたはずなのに、

頭ではそう考えていたはずなのに、

舞い上がった心はそれを許してはくれなかった。


あまりの出来事に処理が追い付かず、中原くんが何かを言っているが全く頭に入ってこなかった。


「ついてきて」


その言葉だけ聞き取れた私は、おずおずと立ち上がり中原くんの後を追う。


無駄に広い体育館で、

また一人になろうとしていた私を助けてくれた


やっぱり



この人は、とても優しい人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る