第二部
第四十話 生徒会
「俺が、学年1位……学園全体で3位って……」
学年1位というのも急激に上がりすぎて実感が湧かないが、二年生と三年生をさしおいて一気に全体三位になるというのは、どんな評価基準でそうなったのか。
しかし学園長と理事長はその決定で間違いないというように、俺をまっすぐ見て頷いてくる。
「学園全体で3位というのは、君が戦った二体目の魔物がそれだけ特異な存在だったということだ。『生命吸収』を使う魔物は今までにも確認されているが、そのどれもが甚大な被害を出している……三年前北米のダンジョンで発見された個体は、非常に多くの有望な探索者を未帰還としてしまった。今回、ボスコード『ジョーカー』と名付けられたあの魔物は、同等に危険な存在だったといえる」
「被害拡大を未然に防ぎ、実績を作ったあなたは、学園長が言う通り唯一無二の功績を残しました。よって、二つの勲章が授与されます。『
「ありがとうございます。その、勲章っていうのは……」
秋月さんも勲章について話していたが、その意味を知らずに授与されるわけにもいかない――伊賀野先生を見ると、なんとか意図が伝わったようだ。
「『
「俺が倒したのは『ダンジョンボス』……ってことなんですか? ボスっていうのはダンジョンの最深部にいるものじゃないですか」
「はい、多くの場合は最深部にいて、討伐すると一定期間魔物が出なくなるなどの現象が起きるのが『ダンジョンボス』です。それとは別に『徘徊型』の非常に強力な魔物がいて、場合によってはダンジョンボスを上回っている場合があります。『ジョーカー』がそれに該当しますが、出現の経緯を考えると『偶発型』とも言えます……この定義については現在も審議が続いている事項です」
あのピエロのような魔物は『ジョーカー』で、ダンジョンのボスよりも強い――そうなると、やはり気になってくることがある。
(そんな魔物を捕獲したかもしれない、なんて言ったら……いや、あれは何かの間違いだよな。でも間違いだとまた出てきたら敵対するわけで……)
「ん……藤原くん、どうした? 勲章の授与を辞退するというなら、こちらとしては貰っていただきたい、と頭を下げるしかないのだが」
「あ、い、いえ……そうですね……あのダンジョンを数日でいいので、俺一人で調べさせてもらえませんか? あの魔物が確実に出ないと保証するためにも」
「む……そ、そうか、それは確かにな。だが『ジョーカー』が消滅したあと、あのダンジョン内の環境は安定していて、次のボスが出てくる気配はないようだが」
「そう……なんですか。でも、一度調べてみた方がいいとは思います」
俺自身、あのダンジョンをまだ探索しきっていないという心残りがある。あんなモンスターが出てくる召喚の罠が複数あったのなら『3つ目』があってもおかしくないとか――期待しているわけではなくて、あのダンジョンに特殊な事情があるのかが気になる。
「では、しばらく『初心者用2号ダンジョン』については立ち入り禁止としておこう。藤原君が申し出れば入れるように手続きはしておくので、探索は自由に行ってくれ」
「っ……ありがとうございます!」
難色を示されるかとも思ったので、学園長が快諾してくれて良かった。
「……その時は、私も行っていい?」
「ああ、勿論。七宮さんの都合が合うときに一緒に行こう」
「ということは、しばらく藤原くんは他のダンジョンには入らないということですか?」
質問してきたのは副生徒会長だった。優雅な雰囲気ながら、その声には少し緊迫したものがある。
「ま、まあそうなりますかね。授業では別のダンジョンに入るかもしれませんが」
「そうですか。では、放課後の活動では2号ダンジョンに入ると……」
副生徒会長は何か言いたそうに俺を見ている――何だろう、俺には女性の考えというものがまだ良くわかっていない。
(
「あ、あの……藤原くんの実力であれば、こんな申し出は失礼になってしまうかもしれませんが。2号ダンジョンの探索に、生徒会役員が同行してもいいですか?」
副会長の妹さんが手を上げて発言する。役員が同行ということは、戦力的には上昇するが、せっかくの放課後に手を煩わせてしまうことになる。
「いえ、俺の事情に生徒会の人を付き合わせるわけには……」
「あ……そういえば、大事なことを伝え忘れていました」
伊賀野先生が思い出したというように声を上げる。
「藤原くんの学年ランキングは1位になりましたので、一年生の学年代表になったということで……本日から生徒会の一員という扱いになります」
「えっ……役員って、選挙とかで決まるわけじゃないんですね」
「探索者学校の生徒会は、実力者で構成されるものです。もちろん、探索や鍛錬に集中したいからと辞退する生徒もいますが。特に拘束はないので、籍だけでも置いていただけると良いのではないですか?」
副会長はつらつらと言ったあと、胸に手を当てて『どやっ』と俺を見る――言い返せないだろうということだろうか。
学園長と理事長は話を聞いてくれているが、本題が終わっているのに二人に時間を取らせるのもそろそろ申し訳なくなってきた。
「……分かりました、拘束がないのであれば」
「おお、生徒会にも入ってくれるのか。ますます学園も安泰だな」
「そうですね。藤原さん、あなたの活躍には今後も期待しています……どうか、七宮さんのこともよろしくお願いします」
「は、はい、俺にできる限りのことは……」
七宮さんとどういう関係なのかを聞きたかったが、質問する前に理事長は出ていってしまった。学園長と伊賀野先生もその後に続く。
「さて……新たな生徒会役員が増えたことだし、これから食事会でも……」
「副会長、今日のところはもう余計なことはしないで大人しくしてください」
「双葉……そうね、あなたの気持ちを考えると、ここは仕切り直すしかないわね」
「あ、あの。一つ気になってたんですが……俺が全体で3位ということは、1位と2位は会長と副会長っていうことですか?」
「ふふっ……なかなか鋭いわね。そう、私は全体ランキング2位。二年生で2位になっているのだから、探索者の世界は時間よりも成果がものを言うのよ」
「ということは、天翼勲章を持っている二人も……」
「そのうちの一人が私ということになるわ。けれど私は、あなたほど強敵を倒したわけでも、一人で魔物を圧倒したわけでもないの。会長とパーティを組まなければ勝てていなかったでしょうね」
会長と副会長のパーティ――学年が違っても組むことがあるのか。そしてその二人が、この学園のトップにいる。
「私はあなたを認めているけれど、あなたにランキングを抜かれた人たちの中には、『荷物持ち』のことを理解しようとしない人もいる。だから、あなたにはできるなら継続して結果を出してほしい……」
「それは俺も思ってました。今回上手く行ったからといって、次が駄目なら不安定に見られるでしょうし」
「……藤原くんなら大丈夫。不安定なんてことない」
「七宮さんも一年生の中では五本の指に入っているわね。あなたの職業はそれだけ需要があり、強く、汎用性もある。そのあなたが頼りにする藤原くんには、やはり1位がふさわしいということよ」
「それも、今後証明していく……ってことになるんですかね。ダンジョンに潜るのは好きだし、戦闘もできなくはないと分かったし」
「……とても興味深いです。一緒にダンジョンに入ってあなたを見ていたら、どんなことが起こるのかと……」
恍惚とした表情に変わっていく副会長――だが。
ぐぎゅぅぅぅぅ、と音が鳴る。妹さんも顔が真っ赤だが、お腹が空いているらしいのは副会長だった。
「……今日のところはこれで失礼するわね」
「え、えーと……『性欲と食欲は相関している』でしたっけ。やっぱりさっき会ったのは……」
「そんなフロイトみたいなことを言う趣味は私にはないけれど……」
「ふ、藤原くん、どうか誤解しないでくださいね。いつもはお姉様も落ち着いてるんです、藤原くんと出会ってテンションが変になってるみたいで……」
「そ、そうなんですか。それは光栄……って言うんですかね」
「ふふ……もしかすると、もしかするかもしれないわね」
「ほんと何言ってるんですか、もぉ……藤原くん、こんな人ですけど邪険にしないであげてください」
副会長と妹さんも生徒会室を出ていく。残された俺は長く息を吐く――そして。
「……副会長と、エッチな話してた?」
「っ……い、いや、してないよ。してないと思うんだけど……」
「……ほんとに? もしかすると、って何?」
副会長が少し変わった人であるということを説明すると、七宮さんはなんとか納得してくれた――やたらと思わせぶりな副会長の言動には、今後も振り回されてしまいそうだが。
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