第三十五話 クラスの変化

「はい、皆さん静粛に……といっても、そわそわしてしまいますよね」

「あ、あの……先生、日向君がまだ来てないみたいですけど……」

「え、ええと……彼はですね、まだ決定ではないんですが、転校をするか、少人数指導のクラスに移るかもしれません。その場合はうちのクラスに所属しながら、別のところで勉強をする、ということになります」


 クラスがざわつく――さっき先生は『教室に来られない』と言っていたが、そんなことになっていたとは。


「彼はランクの高い職業で、クラスでリーダーシップを取ろうとしてくれていました。そんな彼がいなくなってしまうと、それは痛手なのですが……」

「あ、あの、先生っ……」


 声を上げたのは、七宮さんと班を組んでいた冴島さん、芹沢さんだった。


「昨日、私たちは……藤原くんに助けてもらいました。藤原くんがいなかったら、私たちも無事じゃなかったと思います」

「Sチャンネルの動画がすごく話題になっていますが、本当にその通りの活躍でした……私たち、その、気絶しちゃってたんですけど、助けてもらったのは確かです」

「二人とも、昨日結構ウェーイな感じだったのに、揃って気絶しちゃったんだ? 可愛いんですけど」

「ちょっ……ウェーイって何、そっちだって騎斗様騎斗様って言ってたのにっ」


 クラスの女子たちのじゃれ合いが始まってしまう――というかリアルファイトになりかねないので止めた方がいいんじゃないだろうか。


「あの場にいたら俺らも普通に気を失いそうだわ……あれはヤバいっていうか、藤原くん強すぎじゃん。スキルのスケールが違うじゃん」

「『荷物持ち』だからって馬鹿にしてサーセン! 自分の知識不足でした!」

「昨日はごめんなさい! 私達がバカでした!」

「藤原くんに言ったことを思うと、生きてて恥ずかしいです!」

「あっ、よ、よかったら後でサインください!」

「え、えーと……特に謝ることなんてないし、サインも作ってないよ」

「がーん! じゃあ名前だけでもいいですから! ちょっとだけ、ちょっとだけでいいですから! ハァハァ……」


 サインを欲しがる女子――名前をまだ覚えられてないのだが、目が普通に据わっている。


「…………」

「(い、いや、浮かれてないよ七宮さん)」


 無言でこちらを見てくる七宮さん――牽制されているのかと思ったが、そうでもなくて、ふわっと微笑んでくれる。あの顔は「藤原くんが褒められてて良かった」とかそういう系の、平和そのものなことを考えてる顔だ。


「……こうして見ていると、もう、藤原くんはクラスの中心人物ですね」

「……藤原くんは目立ちすぎるのは好きじゃないと思うので、そっとしておいてください」


 七宮さんが俺の思っていたことに近いことを代弁してくれる。まだ出会ってから時間が経っていないのに、理解してもらえていることが素直に嬉しい。


「あっ……そ、そうですね、それはそうです。皆さんにも言っておきたかったのは、藤原くんはとても凄くて、すでに外部的にも有望な探索者候補生ですが、今朝のような騒ぎが続いてしまうと普通の学園生活もままならなくなってしまいます……ですから、皆さんも藤原くんのために協力して欲しいんです」

「あ……ま、まあその、この騒ぎもそう続くものではないんで、あまり気にしなくても……」

「うちらも他のクラスの子にちゃんと言います! 藤原くんをできるだけそっとしておいてって!」


 まったく話したことのないギャル系の女子が率先してそんなことを言ってくれる――クラスメイトが俺の状況に理解を示してくれるだけでもありがたいし、あとは俺自身が気をつければ状況は改善しそうだ。


「というわけで……来るのが遅くなってしまったので、もう時間がギリギリになっちゃいましたけど、今日の午前中は体力測定なので、着替えて体育館に集合してください」


 学年の半分ずつが同じ時間に体力測定をすることになっている――ということはまた大勢の生徒がいるところに行くことになるわけで。


 心配そうに見ている七宮さんだが、なんとか乗り切りたい。といってもみんな体力測定に集中しているだろうし、騒ぎは起こらないと思いたいところだ。

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