第二十八話 結成

 リビングに出てくると、しばらくして七宮さんがやってきた。お茶を淹れてくれるというので、淹れ方を見学させてもらう。


「……座ってていいのに」

「七宮さん、何ていうか淹れるの慣れてるね」

「お作法で習っただけ。でも、役に立った」


 日向が言っていたことを思い出す――「君が七宮であるなら」という言葉。


 確か日向のことを『三大名家』と言っているクラスメイトがいた。その日向が七宮さんを勧誘しようとしていたのは、七宮さんの家のことに関係があるのだろうか。


 リビングのテーブルに移動し、俺たちはソファに座る。七宮さんは隣に座って、俺が紅茶を飲むところを見ていた。


「……どう?」

「うわ、美味しい。紅茶がこんなに美味しいと思ったのは初めてだよ」

「コーヒーも淹れられる。すずり先輩がなんでも飲んでいいって言ってた」


 七宮さんは秋月さんのことを下の名前で呼ぶ――そして『先輩』ということは。


「七宮さんって、秋月さんとは前から知り合いなのかな」

「……そう。家の付き合いがあるから」

「家の付き合い……それって幼馴染み?」

「ううん、時々集まりのときに話したりっていうくらい。硯先輩は、よく声をかけてくれてた」


 あの人懐っこい感じだと、七宮さんにも積極的に話しかけられそうではある。


「……どうしたの?」

「二人が昔どんな感じだったのかって、ちょっと想像したんだ」

「……身長が、中学生の時に伸びたから。それより前は、内緒」


 七宮さんがスマホに入れてある写真を見せてくれる――秋月さんが制服を着ていて、今より少しあどけない七宮さんと一緒に写っていた。


「……じっくり見すぎ」

「あ……ご、ごめん。つい見入っちゃって」

「硯先輩のことはあまり見ちゃだめ。昔から……だから」


 昔からというのは――と聞かなくても、写真を見ればわかる。七宮さんの肩に手を回して自撮りをしているが、二人とも胸が大きいので密度が凄いことになっている。


(……この時の七宮さんって中学生……いや、考えないでおこう)


「……あっ」


 何か気づいたように七宮さんが足元を見る。すると、猫のリンがすり寄っていた。


「飼い主の魔力をもらえば、お腹はすかないみたい。全然食べないわけじゃないみたいだけど」

「じゃあ俺からも魔力をあげたほうがいいのかな」

「うん。藤原くんは、猫は好き?」

「動物は何でも好きかな」

「……私は猫が一番好き」


 そう言って七宮さんはリンを抱っこする――猫だから許されるとはいえ、七宮さんの胸を前足で踏み踏みしている。


「……可愛い。藤原くんがいなかったら飼えてなかった」

「ま、まあめぐり合わせっていうことで……他の人たちは、猫を飼うのはどう思ってるのかな」

「二年生の先輩はいるけど、三年生の先輩たちは『ダンジョン合宿』に行ってる」

「ダンジョン合宿……そういうのもあるのか」

「私もよく知らないけど、三年になったら行けると思う」


 七宮さんは紅茶のカップに口をつける――軽く髪をかき上げる仕草に思わず見とれてしまう。


「……一緒に行きたい。それまで仲良くできてるといい」

「えっ……い、いや、俺としては、土下座をしてでも関係を維持できればと……」

「こうやって時々ゆっくりできてたら、大丈夫だと思う」


 勝手に焦る俺だが、七宮さんの中ではゆっくり時間が流れているようだ。俺も彼女みたいに穏やかになれればと思う。


 そんなことを考えていると、不意に七宮さんが真剣な瞳を向けてくる。


「今日みたいなことがあったときに、藤原くんを守れるようになりたい。三年生までずっと」

「……ありがとう。じゃあ、力を合わせていけたらいいな」


 どちらが守られるとか、守るとかじゃない。


 一緒にダンジョンに挑んでいく。それが意味することは――。


「私を、藤原くんの仲間にしてくれますか?」


 正式なやりとりは確かにしていなかった。七宮さんのそんな律儀さが好ましくてならない。


「こちらこそ。俺と一緒に、パーティを組もう」


 乾杯の代わりに、紅茶を口にする。リンが不思議そうに見上げていたので、俺たちは顔を見合わせて笑いあった。

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