SIDE2・1 第一リスナー

   ◆◇◆


 初めは、全然気乗りはしませんでした。


 随伴用自動人形。ドールと呼ばれているけど、それは探索者を補助するために作られたものです。簡単な命令を聞いて攻撃したり、回復薬を使ったりっていうことができます。機種によっては鍵を開けたり、初歩的な魔法を使ったりもできます。


 完全に機械で作ることもできますが、特別な職業の『人形遣い』――ドールマスターの人が制作過程に関わると、自動人形をより精密に、臨機応変にすることができます。


 私はその選ばれた職業の『ドールマスター』なので、超凄いです。でも小さい頃から身体が弱いので、空気がきれいなところから出られません。


 そんな超凄い私だから、ドールの開発に六歳から参加しているわけなのでした。今は十二歳なので、もうベテランですね。


 最新型の『参式』シリーズには、今までより進化した人工知能が搭載される予定になっています。そのテストケースとして、私が教育した人工知能が使われることになりました。


 でも『サイファー参式』の試験機一体にしか乗せるつもりはありません。自分が育てた子に愛着が出ちゃったんですね。この子をコピーするとか、それは魂の複製と言わざるをえません――って、めんどくさいって言われそうですね。


 そんな特別なタイプの参式が、今回テストに出されることになりました。学園の1年生についていって欲しいというのが今回のテストケースです。


 カメラチェックで最初に映ったのは、ちょっとおどおどしている男の子でした。私より年上ですけどね、私は超凄いので年齢とか関係ありません。


 しろさんがいるクラスと聞いていたので、ついていけたらいいかなと思ってましたが、私は班決めで一人だけ残ってしまった人と組むことになりました。


「あはは、このお兄さん、めっちゃざこじゃないですかー。おもしろーい」


 VRの画面を通して見たお兄さんの職業を検索してみたら、数は少ないけど後方サポートしかできないのでランクEとされていました。


 藤原司というその人の名前を、私はこのテストが終わったら忘れちゃうんじゃないかなと思いました。


『今日はよろしくな』

『ヨロシクオネガイイタシマス、マスター』


 個別の名前はまだつけられないので『サイファー』と呼びますが、この子はまだ猫をかぶっているなと思いました。私が育てたAIなので、私に似た性格をしてるんです。


 それにしても、何だか『違う』と思ってはいました。ドールの視点に入ってテストに参加することはこれまでにもありましたが、お兄さんは『よろしく』と言ってくれました。これ、地味に初めてのことだったんです。


 それですごくいい人なのかな、いい人は早死にするって言うけどと思っていたら、ダンジョンに入ってしばらくして、デリカシーのない発言が飛んできました。


『普通に俺より強いな……小さいボディなのに』


 「は?」と言いそうになりました。私――じゃなくてサイファーのステータスを見せた直後にこれですよ? お兄さんより強いんですよ? 小さいとか関係なくないですか?


 さすがにムカッとしたので、私は自分で喋ってしまいました。ドールマスターだからできることなんですけど、離れてても音声入力ができちゃうんです。


『……チッサクナイ』

『えっ……』


 お兄さんは何かごにょごにょ言ってましたけど、驚いた顔してて少しだけスッキリしました。


 ほんとは喋っちゃだめなので、私はあまり入れ込まないようにしようと思いました。


 あくまでテストなので、データを取らないといけないんです。お兄さんは気付きませんでしたけど、『光学迷彩』と『レコード』は姿を隠してデータを取るための機能なんですね。それを特性の項目に表示しているわけなのでした。


「(……あ。魔物出てきちゃった……どうしよう。お兄さん勝てるかな?)」


 サイファーの『ノーマルバレット』で十分倒せるくらいの雑魚モンだと思っていたんですけど、スピードが速すぎてターゲットできなくて、手動に切り替えちゃおうかとも思いました。FPSは得意なので、当てる自信はあったんです。


 でも――私がFPS用のマウスを握る前に、サイファーのカメラは信じられないものを収めていました。はい、衝撃映像です。


「(敵が止まってる……録画ミス?)」


 サイファーのカメラに映った『グリーンバルン』は、お兄さんを後ろから攻撃しようとしたところで止まっていました。時間停止ものって実在するって本当ですか? まだ十二歳なので自重した方がいいですね。


 それでどうやら、これはお兄さんがスキルでやったことみたいと分かりました。


 気がつくと胸がドキドキしていました。一分間の脈拍が一定の数を超えると専属の看護師さんが来ちゃうので、ほんとはドキドキしちゃ駄目なんですよ。危険域レッドラインを超える前の、何とかイエローでいてくれたので良かったんですけど。


「ざ、ざこのくせにやるじゃないですかー。私を緊張させるなんて生意気だぞー?」


 誰も聞いてないのにひとりで怒ったりもしましたが、もうその時には引き込まれてしまっていたんだと思います。『荷物持ち』の頼りなさそうなマスターが見せてくれる、目が離せないような世界に。



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