第二十五話 脱出

 ダンジョン内で見回りをしていた先生二人は、まだ残っている生徒たちの保護に回ることになり、俺たちは脱出するようにと言われた。


 転移が終わると、ダンジョンの入り口近くにある魔法陣の上に出た――迷宮内の魔法陣を使うと一方通行でこの魔法陣に転移できるようだ。


「っ……無事だったか……足立あだち先生、真藤しんどう先生とは合流できたか?」


 連条先生がこちらに駆け寄ってくる。先に出てきた日向班から、状況はある程度聞いているのだろう。


「先生たちは生徒の誘導をしてくれています。あんな魔物が出てきたら自由探索というわけにはいかないので……」

「そうか……お前たちも無事で良かった。『聖騎士』の日向でも歯が立たない相手だ、逃げられただけでも幸いと思うべきだろう」

「っ……先生……」

「……ピピッ」

「(七宮さん、サイファー、大丈夫だ)」


 あのピエロを俺たちが倒したというのを、連条先生に言うべきか――ここは言葉を選んだ方がいいだろう。


「先生、あの魔物については俺たちがしました。よほどのことがなければしばらくは出てこない……と思います」

「そ、そうか……良くやってくれた。何かしらの方法で撤退させたのか……しかしこの初心者ダンジョンはしばらくは……」

「それも大丈夫だと思います。別のダンジョンで実習できるなら、それでもいいと思いますが」

「……分かった、検討しておく。藤原、報告に感謝する」


 連条先生が深く頭を下げる――俺の名前については名簿で確認してから言ってくれたが。明確に評価が変わったと前向きにとらえておく。


「日向の班員が、魔物は『召喚の罠』から出てきたと言ったが。日向は罠を利用したのか」

「はい。連条先生が言う通り、召喚の罠は危険なものでした」


 事前に警告していた連条先生に非はない――だが、それでも責任を感じているのか、彼は悔いるように目頭を抑える。


「……日向は無事なんですか?」

「ああ、しかし危険な状態だった。今は学園内の病院に入っている……班員の生徒二人もパニックに陥っていたため、病院で治療を受けさせることになった」

「教えてくれてありがとうございます」

「藤原、お前も少し顔色が悪いようだが……」

「いえ、俺は大丈夫です。七宮さん、班の人たちは大丈夫かな」

「……さっきから起きてる」

「っ……そ、それならそうと言ってくれれば……二人とも、大丈夫?」


 七宮さんに言われて振り返ると、女子二人が不安そうな表情をして立っていた。なるべく安心させようと心がけるが、女子の一人は泣き出してしまう。


「ふぅっ……ひぐっ……わ、私達、あんなに藤原君のことをばかにしてたのに……助けてもらう資格なんて……っ」

「あ、ああいや……俺は気にしてないよ。いや、気にしてないってこともないけど、無事で良かったっていうことで……だから、泣かなくていいよ」

「……ありがとう……ごめんなさいっ、うぐっ……」


 どうも女の子に泣かれるのは弱い――よくも侮ってくれた、という気持ちもそこまでではないし、今後普通に接してくれたらそれでいい。


 先に脱出した他の生徒は――と見てみると、日向たちが病院に運ばれるところを見たからか、何が起きたのかとこちらを見ている。


「っ……お、おい、鹿山、やべえって……っ」

「あ、あいつ……対処したって言ったよな……日向が負けるような魔物を……」

「や、やばい……俺死んだ……荷物持ちくんとか散々言っちゃって、七宮さんナンパして……ははっ、あはははっ……」


 ガラの悪い三人組については、もうケンカを売ってくることはなさそうだ。長倉についてはちょっと壊れた感じで笑っている――逆に心配になるが、自業自得といえばそうだ。


「……どうする?」

「ま、まあ……いいんじゃないかな。十分懲りてるみたいだし」

「あの人たちは藤原くんにちゃんと謝るべき……許せない」


 俺よりも七宮さんの方が怒ってくれている――それを申し訳ないと思いながら、三人にケジメをつけさせることも必要かと考える。

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