第二十話 成長
『グリーンバルン』をサイファーとのコンビネーションで仕留めると、やはりコアが確実に魔石に変化する。
《スキル『圧縮』を発動 対象物をチップに変換します》
10体ほど狩るあいだに、徐々に最大魔力が上がる変化とは別の、身体が熱を持つような感覚があった。不快というわけではなく、むしろ心地よい。
「マスター、レベルアップシテイマスカ?」
名前:藤原司 15歳 男
学籍番号 013942
職業:荷物持ち ランクE
レベル:5
生命力:50/50 魔力:25/25
筋力:20(F)
精神:23(F)
知力:15(F)
敏捷:18(F)
幸運:13(F)
スキル:重量挙げ1 !
「っ……本当だ。レベルが上がってるな」
サイファーに言われた通り、生徒カードを見てみるとレベルが2上昇している。全体的に能力値が増えているが、最大魔力は少しずつ伸ばしていた分に加えて、レベルアップによる上昇分が10ほど増えていた。
「そしてこれが『荷物持ち』として覚えたスキルか」
スキル名:重量挙げ1
説明:重量過多で行動阻害が起きる場合、それを数秒間だけ無視できる。
(……『ベック』が最初に覚えたスキルもこれか。なんか、妙な懐かしさがあるな)
これが存在しない記憶というやつか――俺の中ではあの夢はただの夢ではないが、前世のことを全て思い出せるわけじゃなく、こうやって断片的に想起されるくらいだ。
「サイファーって重さはどれくらいある?」
「武装重量ヲ含メテ30キログラムホドデス」
「そうか。もし危ないときは、俺がちょっとだけ担いで逃げられるからな」
「…………」
「ど、どうした? フリーズしてないか?」
しばらくサイファーが返事をしてくれなくて焦ってしまうが、しばらくしてキュイン、とカメラがこちらを向いた。
「
「俺にとっては完全にパーティの仲間だからな……」
「……ソレは、ただの『お人好し』……デス」
「ん……? 今、ちょっと声が変にならなかったか?」
「ワカリマセン、記憶ニゴザイマセン」
サイファーは『誤魔化す』という行為を理解しているようだ――連条先生が感心していたが、俺も技術の進歩に感心しきりだ。
「マスター、二時ノ方向カラ魔物ガ出現シテイマス」
「そうなんだよな。もしかして、魔物の巣が向こうにあるんじゃないか?」
『グリーンバルン』が出てきているところは行き止まり――に見えたが、どうやら通路に大きな岩があって塞がれているようだ。岩の上の隙間から『グリーンバルン』が出てきたが、それなりの数を倒したせいかあちらからは攻撃してこない。
「『重量挙げ』でもこの岩はさすがに無理だしな……ああ、そうか」
「イカガシマスカ?」
「ちょっとこの岩をどけてみるよ。サイファー、下がっててくれ」
サイファーが俺の後ろに回ったところで、両手を大岩に向けてかざす。そして『圧縮』を発動させた。
《スキル『圧縮』を発動 対象物をチップに変換します》
両手の間にギュッと大岩が圧縮される――俺の背丈の数倍はある岩に通用するのかという懸念はあったが、上手く行った。
《チップの内容:花崗岩の巨岩塊×1》
大岩の向こうには空洞があり、やはり奥にまだ続いている。
「……こういうこともあるかと思ってたが、そういうことか……サイファー、向こうが見えるか? ……サイファー?」
「ハ、ハイ。アレハ『召喚ノ罠』デスネ」
「そう……それが、壁の向こうで勝手に起動して『バルン』が出てきてたんだ。俺、このタイプの罠には覚えがあってさ」
「見タコトガアルノデスカ?」
正確には『ベック』の記憶だが、ダンジョンにおいて『召喚の罠』はつきもので、探索者にとっては危険の塊でもあり、逆にチャンスであったりもする。
『召喚の罠』を何度も発動させて魔物を呼び出し、倒す。魔物を探し歩く必要がないので効率がいいのだが、その方法にはひとつリスクがあった――『召喚の罠』が常に同じ魔物を呼ぶと安心していると、急に上位個体が出現するというものだ。
(いる……よな。どう見ても『グリーンバルン』じゃないのがいる)
冷たい汗が背中を流れる。まるで倒されたバルンの恨みを体現したような紫色の個体が、召喚の魔法陣の上にいる。
「――判別不能ノ攻撃ヲ検知」
「っ……!?」
サイファーの声が聞こえると同時に、突き飛ばされる――何が起きたのか理解できないうちに、衝撃音とともにサイファーの腕が破壊され、折れて飛んでいく。
衝撃はサイファーの本体にも及び、地面をバウンドしながら転がっていく。
「……マスター……撤退ヲ……スクロール……」
離脱のスクロールは発動しない。班員が危機に陥れば自動的に発動する――それは随伴する
甘く見ていたつもりはなかった。姿が見えると同時に逃げ出さなければならなかったのか――サイファーが俺を庇ってくれなければ、もう終わっていたかもしれない。
紫色のバルンの上位体。目も何もないその魔物でも、こちらを狙っていることだけは分かる。
それを受ければ今度こそ離脱のスクロールが発動する。その前に自分で発動させなければならないと分かっていても、俺はそれを選べない。
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