第十八話 分かれ道


「……その自動人形ドールだが、担任から説明は受けているか?」


 俺もサイファーを連れて階段を降りようとしたところで、先生に呼び止められた。


「説明ってほどの話はされてないですが、命令は聞いてくれるみたいですね」

「そうか……伊賀野のやつ、新年度だというのに気が抜けているな。そのドールだが、迷宮内では瘴気を動力に変換できるから、完全に停止するということはない。だが攻撃の際には魔力が必要だ。お前は魔法を使えるか?」

「いえ、今のところは何も……」

「そうか、それなら通常弾のみになるが、この装填口に触れることで魔力弾を充填できる。装填できる弾は他にも色々あるが……まあ、今回は特殊弾は使えないな」

「はい、分かりました。ありがとうございます、連条先生」

「……今どき珍しいくらい純朴な奴だな。一人でも腐らず頑張れよ」


 先生が俺を気にかけたのは、俺だけ単独ソロだからだったということか。


「マスター、ワタシモイマスノデ、フタリデアリマス」

「……このドール、後期型か。俺が学生の頃は単語くらいしか喋れなかったもんだが、時代も変わるもんだな」


 昔を懐かしむモードに入った連条先生を置いて、俺もダンジョンに入る――階段を降りていく途中で視界が真の闇に覆われ、その後には、いかにも迷宮という広い岩窟の中にいた。


「じゃあ、提案した作戦通りに進めていこう……ああ、藤原くんがまだだったんだね」

「おっそーい。もうナイト様が方針を決めてくれたから、その通りにしなさいよ」

「少し先生と話してたんだ。作戦っていうのは?」

「てめっ、遅れて悪いってのが……っ」

「はいはい、話が進まないから鹿山くんはステイね」

「……チッ」


 虎刈りのガラが悪い斧持ちが鹿山、彼をなだめているのが長倉ながくら、舌打ちをしているクロスボウ持ちの生徒が猪里いのさと。元からの知り合いかもしれないが、そうでないならよほどこの三人は波長が合ったのだろうか。


「見ての通り、この場所は広い空洞だが、いくつも別方向に道がある。迷宮の難易度も初めから高いわけではないと思うし、全員で一緒に行動するよりは分散した方が効率的だ」


 日向の言うことは筋が通っている――仮定が含まれている以上、全て彼の言う通りとも限らないが。


(……日向はすでにクラスの主導権を握っている。そしてダンジョン攻略にも確固たる自信があるみたいだが……)


「藤原くんも同意してくれているようだし、行動開始だ。みんな、無事に外で会おう」

「ナイト様、他の班についていってもいいんですか?」

「ああ、構わないよ。ただ一つの方面に大人数が集中すると、効率が悪くなるかもしれない。一緒に行動するのはまでにしておこう」


 日向の班についていくことを提案したのは、ジャンケンに負けて日向と組めなかった女子の班――つまり、七宮さんも同行することになる。


「日向君と女子五人一緒って、やっぱあの人はすげえな……」

「七宮さん持ってかれちゃったね。あくまでも偶然って感じで」

「そりゃ偶然だろうよ。誰がどう見てもこの流れならな」


(……そういうこと、なのか?)


 七宮さんが振り返ってこちらを見た――彼女が示したのは、同じ方面の分かれ道。


「荷物持ちくん、そっち行っても七宮は帰ってこねーぞ? いい気になってたツケが回ってきたな」


 鹿山が挑発してくることは予想できていた。何を言われるのかという内容もだいたい想像どおりだ――だが。


「っ……て、てめえ、なんだその目は……っ」

「こっちの方向は、先のほうで道が分かれてる。日向君たちとは違う道に行くつもりだよ」

「そ、そうかよ……」

「えっ、鹿山きゅんどうしたの? なんで荷物持ちくんにビビってんの?」

「ビ、ビビってねえよ。クソが……魔物でも何でも出てこいよ、ぶっ飛ばしてやるよ」


 他の班も行動を始めるが、日向の指示通りに最大でも一つの方面に行くのは二班までになっている。日向の目が届かないところでも言うことを聞くほど統率されているということだ。


(まあ、俺の場合はどのみち単独だろうからな……予想どおり他の班はこっちには来ない、と)


「マスター、ゴメイレイヲ」

「よし、行こうか。こういう地形でも問題なく進めるのかな?」

「ワタシハ『浮遊』トクセイガアリマス。問題なしノープロデス」


 作った人の語彙が反映されているのだろうか――心がささくれてしまっている今、サイファーの反応には救われるものがあった。

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