第十六話 ソロプレイヤー+1
玄関ホールから1年D組の教室まで歩く間に、本気の殺意がこもった視線を受けたり、舌打ちをされたり、これ見よがしに親指を下に向けられたりと色々あったが――とりあえず、この空気ではまともに学園生活を送れないので、何とかしないといけない。
痛感しているのは俺が『荷物持ち』――ランクが低い職業ということは普通に知られていて、それでさらに状況が悪くなっているということだ。
職業自体は変えられないので、変えるべきはやはり『学内ランキング』の方だ。一限目のカリキュラム説明で、担任の伊賀野先生がランキングについて教えてくれた。
「今日の始業時間の段階で、皆さんの生徒データに基づいてランキングが見られるようになっています。生徒カードを見てみてください」
総合ランキング:2960/2964
一年ランキング:998/1000
最下位ではないが、これはもう同率で最下位みたいなものなんじゃないだろうか。同じ学年には俺より下に二人しかいないが、どんな職業なのだろう。
「このクラスで一番順位が高いのは
伊賀野先生がそう説明するとクラスがざわつく――特に女子の一部は、もはや日向の親衛隊みたいになっている。
「やっぱりナイト様は違うのね……」
「初手から違いを見せちゃう人よね……」
「最初は職業のアドバンテージがあるだけだよ。そうですよね、先生」
「それもありますけど、職業もその人の才能ですからね。日向君が優秀であることは間違いありません」
伊賀野先生まですでに日向に心酔しているような、大袈裟でなくそんな空気がある。
廊下側の前の方に座っている七宮さんの横顔には、どんな感情も見えない。日向のようなクラスメイトをどう思っているのだろう――そう思うのも嫉妬だろうか。
「皆さんは、ダンジョン内での成果で評価点を得ることができます。これはランキングに直結する点数ですし、評価点に応じて追加で専門授業を行うことができます」
専門授業とは、自分の職業で得られるスキル以外の『副職業スキル』を得るための授業らしい。
評価点が高ければ、荷物持ちとして以外のスキルを習得できる可能性がある――つまり戦闘技能などを得られるかもしれない。
「先生、それだと『荷物持ち』みたいな職業でも魔法使えたりするんすか?」
初日から煽ってきている男子――
「はい、専門授業を進めれば使えるようになる場合もあります。ただ『副職業スキル』と言われているとおり、『主職業』と違って熟練度の限界は低くなります」
「へー、じゃあ弱いやつは弱いままなんですね」
「鹿山君、そんなことを言ってはいけませんよ。皆さん今は新入生で、可能性の塊みたいなものなんですから」
「そんなこと言って、先生だって日向君の凄さを認めてるじゃないですかー」
「それは……」
伊賀野先生が押されている――そこに割って入ったのは日向だった。
「僕も専門授業には興味があります。評価点を取れば授業を受けられるんですね。今日の実習から評価されるんですか?」
「はい。今日は簡単な課題をこなしてもらいますが、そこでも評価点はつきます」
「ありがとうございます。じゃあ、そろそろダンジョン実習のメンバーを決めませんか?」
「そうですね、今日は三人組ずつでダンジョンに入ってもらいますので、今からグループを……」
「はーい、ナイト様と組みたいでーす」
「じゃあジャンケンで決めないと、組みたい人二人以上いるんだし」
日向のパーティメンバーを巡っての女子たちのジャンケンが始まる――そしてこのクラスの人数はというと、32人で1人は病欠だ。
「あー、負けちゃった。もう一人誘わなきゃ……七宮さんまだ決まってない?」
「……私は……」
「私達と組もうよ。それとも七宮さん、組みたい人いるの?」
何となくこういう展開になるのは分かっていた――クラスの人数的にどのみち1人足りないグループができるところを、さらに一人休んだというだけだ。
「うわー……さすがにこうなるとは思ってなかったわ。荷物持ちくん一人とか」
「では、特別に四人一組のグループを……」
その言葉に甘えるというのも選択肢として無くはない。無くはないが――。
「俺は一人で大丈夫です」
その選択には意図があった。ソロプレイヤーになることも覚悟しているというのは、俺のスキルを容易に他者に見せられないという意味でもある。
俺の言葉を、クラスの皆がどう受け取るかといえば――まず最初に、驚き。みんな信じられないものを見る目でこちらを見ている。
七宮さんには心配をかけてしまうが、俺も考えなしでやっているわけではない。追い詰められてそうしているわけでもない――だから真っ直ぐに先生を見つめる。
「……わ、分かりました。ですが、完全に単独で行ってもらうのは危険ですから、同行者をつけますね。自立型自動人形の『ドール』です」
「ドール……そんなんつけてもらえるのズルくないすか?」
鹿山は不平を言うが、先生は今回は取り合わず、いったん教室の外に出た――そして戻ってきた先生の後ろには、ふよふよと浮いて移動する人形のようなものがついてきていた。
「――だははははっ! な、なんすかそれ、ロボットっすか!?」
「ダンジョン随伴用の自動人形です。このタイプは『サイファー』と言って、弱い魔物なら単独でも退治できますし、簡単な命令なら実行させることができるんですよ」
「へえ……そのサイファーがいれば、藤原君も心強そうですね」
日向は本当にそう思っているように見えるが、やはり皮肉に聞こえる部分はある。
人間と組めないので自動人形と、なんてどうかと思いはするが、先生の言う通り単独よりは良いんだろうか。そうだと思いたい。
サイファーがふよふよと俺の席の後ろまで移動してくる。高さは俺が立ったときの胸に届くくらいか――近くで見ると思った以上に精緻な造りをしている。
「自動人形を同行させてもらうだけでも評価点はつきますし、もし壊れてしまっても修理などはこちらで行いますので、藤原くんはとにかく無事に戻ってくることを最優先にしてくださいね」
「なんとかやってみます」
サイファーの頭部分が動き、こちらを向く。人形といっても顔の部分には、
(銃みたいなのもついてるが……これが武器か。魔力を感じるし、動力は魔力と……)
「…………」
この展開は七宮さんにも予想できなかったようだが――サイファーに興味があるようで、彼女はじっとこちらを見ている。俺と目が合うとすぐには逸らさず、何か訴えかけるように見てくる。
「それでは次の時間からは実際にダンジョンに入りますので、皆さん準備をしてください。制服でもいいですし、ジャージでもかまいません。破損した場合は一定回数までは無料で支給されます」
制服でもいいのなら、今日のところは着替えずにおく。クラス全員考えは同じで、俺たちは制服姿のまま、ダンジョンのある区画に向かう。
「今日はよろしくな」
「ハイ、マスター」
「っ……喋れるのか。凄い技術だな……」
クラスメイトたちから遅れて最後方にいるので、サイファーとのやりとりは見咎められなかった。この相棒はどんな力を持っているんだろう――自分のスキルを試す以外にも、今回のダンジョンでは良い経験が積めそうだ。
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