第十五話 激震
朝食を終えて出かける。七宮さんと一緒に玄関から出ると、秋月さんが自転車に跨っていた。
「帰りの登りをなんとかできるなら、自転車で行くとあっという間なのよねー」
「秋月さん、その格好なら車の方がいいんじゃ……」
「自転車の方が小回りが利いていいのよね、この辺りで過ごすなら。車ももちろん運転できるわよ、まだペーパーだけど」
疑っているわけではないのだが、秋月さんはわざわざ免許証を出して見せてくれた。
「そうなんですか……免許の写真、物凄く写りがいいですね」
「っ……あ、あのねえ、大人をからかわないの。それはちょっとは気合いを入れて撮ったけどね? 自分でも自信はあったりするけど?」
照れながらも喜んでいる秋月さん――しかし俺が見ていることに気づくとじっとり睨んでくる。表情が豊かな人だ。
「……自転車が手に入ったら、改造とかはしてもいいの?」
「学園の敷地内なら大丈夫だと思うわ。白ちゃんの場合、エンジンをつけたりとかじゃないんでしょうし」
エンジンつきの自転車というのもあるが、あれは原付の扱いになるんだろうか。七宮さんの改造はそういったアプローチではなさそうだ――『魔工師』のスキルはそういったことにも使えるのだろう。
「それじゃ、気をつけて行ってきてね。自転車もそうだけど、買いたいものがあるときは購買部で聞いてみるか、帰りに街の方に寄ってみるとか、方法は色々あるから。もちろん私もある程度は融通してあげられるし」
「ありがとうございます、ちょっと考えてみます」
「……行ってきます」
静波荘からしばらく歩くと、学校に向かう長い下り坂に入る。ついその辺りの草を見ても納品できそうかと考えてしまうようになったが、やはりそういったものはどこにでもあるわけではない。
「……今日は、ダンジョン実習が半日ある」
「最初に授業の説明が少しあって、昼前から夕方までずっと実習みたいだな」
「……お昼ご飯、一緒に食べる?」
「っ……や、ヤバい、めちゃくちゃ嬉しい……」
「……泣いちゃった?」
「いや、俺の職業ってランクEだし、クラスの扱いもだいぶ厳しいものがあるしさ。基本ソロプレイヤーとしてやっていくしかないのかと思ってて……」
「……そんなことない。昨日、会ってばかりなのに、二人でちゃんとできてた」
七宮さんの言葉の一つ一つが心に染み込むようで、泣いたりはしないが、さっきから感動しすぎて声が震えそうになる。
(一人の人間として見てもらえるって、こんなに嬉しいんだな……)
「……私の職業は……ランクが高いから、もしかしたら他の人に誘われるかもしれない。それでも、私は……」
彼女が何を言おうとしてくれているのかは分かる。それでも、俺は無条件にそれに甘えるわけにはいかなかった。
「良いパーティメンバーが揃ってるなら、ダンジョンの中でも比較的安全だと思うから。俺のことは心配しなくて大丈夫、何とかやってみるよ」
「……分かった、藤原くんがそう言うなら」
七宮さんと胸を張って組むには、自分の評価を相応に上げてからにしたい。あの二人が組むのは不自然じゃないと、皆がそう思うくらいに。
◆◇◆
だが、しかし。
ただ七宮さんと一緒に登校してくるだけでも、俺の想像を遥かに超えるほど、男子生徒たちには動揺が走っていた。
「お、おい……新入生美少女ランキングで現在一位を争ってる七宮白の隣に、男がいるぞ……!」
「誰だあいつは……ラ、ランクEの雑魚だと!?」
「お、
「俺が推すつもりだったのに入学二日目に奪いやがって……憎しみで右手の疼きが抑えきれない……!」
「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」
(男子生徒の方が魔物より怖いんだが……というか、今日無事に帰れるのか?)
「……私も……」
「……え?」
「藤原くんに助けてもらうだけじゃなくて、私も助ける」
七宮さんがそこまで思ってくれている――そうなると俺も、情けないことは言っていられない。
できるだけ最短で周囲に認めてもらう。そのためには、今日の実習で結果を出すことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます