第十二話 追加メニュー
「お待ちどうさま。秋月
「硯さんっていうんですね……うわ、めちゃくちゃ美味そうだ」
「ふふふ、他の子たちも私の料理にはメロメロだからねえ」
鉄板の上でジュウジュウと音を立てるステーキ――これほど本格的なものが出てくるとは思わなくて、思わず唾を飲み込む。
「遠慮なくどうぞ。お肉はペレットで温めながら食べてね」
「いただきます。んっ……んぐっ……!」
「慌てなくてもお肉は逃げないからね。あ……
『静波荘』は玄関ホールから入ったところの母屋から、東西に二つの建物があり、俺の部屋は東館になる。七宮さんは西館で、そちらから歩いてやってこようとして――なぜか柱の陰から出てこない。
「あら? どうしたんだろ……ちょっと行ってくるわね」
秋月さんが七宮さんの様子を見に行く。やはり男子と食事をするのは恥ずかしいし、ということになってしまったのか――と思っていると。
「えっと、先にお風呂に入りたいんだって。完全装備で汗かいちゃったから」
「あ、ああ……なるほどですね」
「そういうわけで、私も一緒に入ってくるわね。お風呂の使い方を教えなきゃだし……司くんは一人で大丈夫?」
「はい、まあなんとか……浴場は共用ですよね、さすがに」
「うちのお風呂は温泉を引いてるから気持ちいいわよ。寮生にペンションみたいな寮生活を提供するっていうのが私のテーマだから」
そういうことではなくて、男女共用ならルールを決めておいた方がいいのではと言いたかったのだが――秋月さんはいそいそとお風呂に入りに行ってしまった。
残された俺は、肉をナイフで切って口に運ぶ。溶けるような柔らかさに驚き、だがそれを誰とも共有できないのが少し寂しい。
これから秋月さんと七宮さんが一緒に風呂に入るのかと思うと、それもまた落ち着かなさを加速させる――だがこれから毎日続くことなので、無理矢理にでも落ち着くしかない。
(……どんどん気になってくる……俺はこんなに心が弱い人間だったのか……っ)
今はひたすら食事に集中する――農家の人に感謝して米を頬張り、醤油ベースのシンプルなタレで引き出された肉の風味を堪能する。
(うまい! うまい!)
食べることだけに意識を向け、ひたすら熱を発散する――今の俺はまさに火力発電所だ。
◆◇◆
食洗機の使い方を教えてもらっていたので、食後の片付けは自分でしておいた。秋月さんにお願いすることもできるが、共同生活の要は『できることは自分で』だ。
(前世のパーティじゃ、誰も家事をやらなかったな……ああ、あまり共同生活にはいい思い出が無かったような……)
片付けた自室で畳に布団を敷き、まだ寝るには早いのでテーブルの上に今日の報酬を並べ、日記をつける。
19シルバーと1ゴールド支給され、1シルバーが七宮さんの分で、俺も1シルバーでステーキを追加した。100ブロンズの定期支給については手つかずだ。
「通貨の価値がまだ良く分かってないしな……とりあえず貯めておくに越したことはないか」
シルバーの用途も別にあるのだろうが、ゴールドは何に使えるのだろう。生徒用アプリで調べてみたが、まだ入学したばかりだからか、閲覧できる情報は少なかった。
「……学園の動画チャンネル……『
アプリで目立つところにリンクがあったので、タップしてみると動画サイトに飛んだ。どうやら、この学園の生徒が投稿した動画を見られるらしい。
(学園ランク2位……普通に魔物と戦ってるのか。しかも、圧倒している……!)
動画には人気ランキングがあり、一位のものを開いてみると、ダンジョン内での戦闘とおぼしき動画だった。
『鳳祥先輩、カッコよすぎぃぃぃ!!』
『火力えげつなっ、殲滅力スゴッ!』
『今度一緒にダンジョンアタックしてください!』
3-Aの鳳祥先輩という人が投稿した動画のようだが、とてつもない人気だ――はっちゃけたコメントも許されるあたり、校風の自由さがうかがえる。
この動画投稿はレポート提出と同じ扱いでもあり、評価の高い動画を投稿すると学園におけるランキングに反映されるとのことだった。トップランカーになるには成績だけでなく、動画レポートも必須ということだ。
(……まあ、俺も必要な範囲で投稿はできるといいな。動画映えする場面に遭遇できればだけど)
そろそろ入浴の順番が回ってこないだろうか――と思い始めたとき、スマホに着信が入った。
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