第九話 捕獲条件

「……さっきの魔物がマホロバ草を食べてる」

「あれがそうなのか……」

「あの向こうに薬草があるから、魔物の近くを通らないといけない。『サーチ眼鏡』が反応してる」


 七宮さんはいったん俺から離れると、背中を向けて何かゴソゴソしている――防護服の頭の部分を外して、何かを取り出すと、また被り直した。


「これ。私が作った眼鏡で、登録してあるものが光って見える」

「え……かけていいの?」

「かけなくても、レンズを通して見るだけでもいい」


 言われた通りにしてみると、前方に進んでいった先が確かに光っている。薬草が数本――どころか、両手の指で足りないくらい生えているようだ。


「……どう?」

「めちゃくちゃ便利で驚いてるんだけど……『魔工師』ってこんなものも作れるの?」

「いろいろ作れる。材料さえあれば」


 得意そうな七宮さんだが、彼女の技術もなかなか異次元というか、魔道具的なものが作れる高校一年なんてそんなにいるんだろうか。


「――ミャッ!」

「あっ……!」


 小さな鳴き声が聞こえる――七宮さんも思わず声を出してしまうが、小さな影がマホロバ草から離れ、目にも止まらぬスピードで近くの茂みを移動し始める。


(攻撃してくるか……それにしても速い……!)


「――危ないっ!」


 飛び出してきた影が七宮さんに飛びかかる――何とか反応して庇うが、腕をかすられてしまった。


 生命力 26/30


 生徒カードに視線を流すと、思った以上にダメージを受けている。


(何回か喰らったら普通にヤバい……このままだと秋月さんの介入が入りかねない。だが……!)


「七宮さん、少し伏せてて!」

「っ……藤原……!」

「俺は大丈夫!」


 敵が俺を狙ってきてくれるのなら、上手く行くはず――どこから来てもいいように神経を集中する。


「――ミューッ!!」


 背後から鳴き声が聞こえる。俺は振り返らない――その必要はない。


《スキル『固定』を発動 対象物の空間座標が固定されます》


 迫っていた気配が『止まる』。


 振り返ると、そこには空中でピタリと静止した魔物――いや、魔物なのかどうか分からないが、小さな猫のような動物がいた。


(嘘だろ……何も土台がなくても固定できるとか。いや、『空気』が土台になってるってことなのか?)


「……止まってる……これも、空間魔法? それとも時間停止……?」

「これも一応『荷物持ち』の延長上にあるスキルというか、そういうものかな」

「……とにかく、藤原が凄いっていうことは分かった」


 どんどん七宮さんの評価が上がっていく気がする――声に熱を感じるというか。


「触ってもいいの?」

「ああ、いいよ。俺が解除しようと思わない限りは止まってるから」


 空中に止まった猫を七宮さんが捕まえる。すると――。


「な、なんか光ってる……?」

「……平気。攻撃とかじゃないみたい」


 猫の身体が発光を始めて慌ててしまうが、光はすぐに落ち着く――そして。


《魔獣の捕獲条件を満たしました》


「あ……『捕獲』ってのができたみたいだけど、もう安全ってことかな」

「……? どうしてわかるの?」


 この頭の中に流れてくる情報みたいなものは、どうやら俺にしか感じ取れていないらしい――この情報にも助けられているし、スキル以外にも何か与えられてるってことなんだろうか。


「何となく分かるというか……このまま固定したままにもしておけないし、いったん解除してみてもいいかな」

「分かった」

「もし危なそうならまた『固定』するしかないけどね」

「魔力切れは危ないから、気をつけて」


 猫を地面に下ろしてもらい、固定を解除してみる――猫は暴れたりはしない。顔を洗うように擦ってから、こちらを見上げている。


 七宮さんが抱っこをすると、猫はされるがまま身を預けている。彼女が手を差し出すとペロペロと舐めていた。


「…………」


 無言で見られても、俺には何とも言えない。静波荘がペット禁止でなければいいが――そして危険はなくなったので、薬草採取もいよいよ大詰めだ。

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