第八話 魔力切れ
「普通はこんなスキルを使える人はいない。あなたのことを調べたいっていう人がいっぱいいると思う……気をつけないと」
「そういう話になってくるのか……分かった、気をつけるよ。忠告ありがとう」
「……それって、そのままの形に戻せるの?」
「ああ、戻せると思うよ。ちょっと離れててもらえるかな」
チップを取り出し、『復元』と念じる――すると、チップは一瞬で元の大きさの薬草に戻る。
「しおれてたりもしないし大丈夫そうだ。こうやって小さくして集めれば、一度にたくさん……」
持って帰れそうだ、と言いかけたどころで視界がぼやけ、目の焦点が合わなくなる。
(やばい――魔力切れだ)
天地がどちらかもわからなくなる。その場に倒れかけたところを、七宮さんが支えてくれた。
「っ……大丈夫? 気分が悪いの?」
「……魔力を……使いすぎた……ちょっと休めば良くなるから……」
「……っ、待ってて。私もそのために来たから、このあたりにあるって聞いた」
そう言って、彼女は俺の身体をどこかに寄りかからせてくれる。近くにあった太めの樹木、そこに背中を預けて、脱力感と吐き気に耐える。
魔力を使いすぎると代わりに生命力を消費できるのだが、ペナルティとしてこういった状態になる。最大生命力が多ければこの症状は軽減するが、今は望むべくもない。
あまり長くは待たなかったと思う。意識が朦朧とする中で、七宮さんが戻ってくる――そして、俺に何かを嗅がせてくれた。
「……マホロバ草は、夜中に香りを発する。それを吸うと魔力が回復する」
「……ありがとう、七宮さん」
辛うじて答える。酩酊してるみたいな声で情けない――だが嗅がせてもらった香りのおかげで、魔力が回復するのがわかる。
「……気持ち悪い? 魔力切れは辛いから……吐きたかったら言って」
頭を抱えられて、ぽんぽんと背中を叩かれる。魔力が回復していることもあって、辛うじて症状のピークは過ぎた――それよりも、物凄く安心する。
七宮さんの腕にそっと触れて、もう大丈夫だとアピールする。なんとか笑って見せるが、それでも心配してくれているようだ。
「あー、お恥ずかしいところを……もう少し持つと思ったんだけど、魔力切れは情けないな」
「……そんなことない。そんなにすごい効果のスキルを使ったら、魔力がなくなっても仕方ない。でも、よかった」
七宮さんはバイザーの上から手で拭うような仕草を見せる――もしかして泣いているのだろうか。重ねて謝りたくなるが、優しい人だ。
状況を確認するために、生徒カードを取り出して魔力を確認してみる。
魔力 5/11
「最大魔力が少し増えてる……」
「魔力切れを起こすと反動があるからだと思う。でも、みんなその方法では魔力を上げたがらないし、普通はできない」
「生きるか死ぬかって感じだしね。俺も七宮さんがいなかったら危なかったよ、本当にありがとう」
「……どういたしまして。私は自分のことで必要だから、このあたりの植物の分布を調べにきた。『マホロバ草』はこの地域の珍しい草で、魔工師にとって必要なもの」
「そんな貴重なものを使わせて……」
「ううん、決まった時間しか魔力回復できないから、ダンジョンの授業では使えない」
饒舌にいろいろ話してくれる七宮さんだが、途中ではっとしたように口に手を当てる。防護服の上からだが。
そして彼女はある方向をそっと指差す。俺も身体を起こして見てみると、何か草むらにうごめいているものがいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます