第五話 初めての依頼
もっと試してみたいが、最大魔力が低いので魔力は非常に貴重だ。休んでいれば回復しそうだが、できれば他の回復手段も確保したいところではある。
とりあえず押入れは開放できたので、空いているスペースを有効利用して片付けを進めていく――整頓をしていると楽しくなってきてしまうが、中には思わず困惑してしまうようなものもあった。
「……電動マッサージ機、初めて見たな」
充電が切れているので動かないが、この寮には肩こりに悩んでいる人でもいるのだろう。
これは小型家電に分類して、同じカテゴリーのものは全部一つにまとめておく。後で必要と言われたときにすぐに出せるようにしておく必要がある。
次に見つけたのは懐中電灯で、これは電池が入っていてすぐ使える。スマホもライトは点けられるが、取り回しという点で懐中電灯もあると便利だろう。
「……おっ、流しそうめんができるやつだ」
自分ではなかなか買わなそうなものも見つけて、思わずテンションが上がる。もちろん俺が使わせてもらえるかは別問題なのだが。
◆◇◆
すっかり集中してしまった――部屋から出てきてリビングに行くと、夕食らしき香りがしている。
「あ、お疲れー。本当にごめんね、疲れてるのに掃除させちゃって。大変だったら続きはゆっくりでいいからね」
「こちらこそお疲れ様です。もう一人の新入生の人は……」
「うん、さっきまでいたんだけどね。ちょっと調べたいことがあるからって、また出かけちゃった。まあうちの寮の敷地内だから、暗くても大丈夫でしょ」
「今の時間からですか? 凄いですね」
「本当にね、私も後で様子は見に行くんだけど。司くん、食事のことについては聞いてる?」
「すみません、事前に聞いたかもしれないんですが、失念してしまって」
今日の帰りのホームルームまでの記憶は、ところどころ曖昧になっている。秋月さんはそれでも訝しげにしたりはせず、リビングに置いてあるホワイトボードにマーカーで何か書き始めた。
「この学園では、外でのお金を専用の通貨に交換して使うのね。それがこのコインで、ブロンズ、シルバー、ゴールドの順に価値が上がるの。生徒はブロンズコインを月に百枚支給されて、それは一枚で食事一回の支払いができるの。コインそのものを持ち歩いてもいいけど、スマホにチャージしておいても使えるわよ」
「なるほど……ブロンズコイン百枚だと、三十日の月の場合は十枚残りますよね。それはどうなるんですか?」
「コインは他の用途にも使えるから、むしろ余りが十枚だけじゃ足りないくらいね。それに、ブロンズコインでできる食事は『一般食A』っていうんだけど、これが結構シンプルなメニューで……こんな感じね」
秋月さんがマーカーで食事の内容を書いてくれる。『一般食A』は白米に味噌汁、そしておかずが納豆、卵、めざしの中から一つというものだった。
「これと栄養管理のためにサプリメントかジュースを摂ることはできるけど、みんなたまにはお肉とか食べたいわよね。そういうときはブロンズじゃなくて、シルバーコインを使う必要があるの」
「なるほど……」
「シルバー以上のコインは『依頼』を達成したり、常に出てる『納品』『配達』なんかのお仕事をこなしたときの報酬として貰えるわ。これも探索者を育成するためのカリキュラムってわけ……実際、探索者のお仕事と内容は同じだからね」
「バイトが公式に許されてるって感じですね」
「そうそう、そゆこと。もちろん大変だったらバイトしなくてもご飯は食べられるけど、余裕があったらした方がいいってことね。コインで買えるものは学園の外とほとんど変わらないし」
「秋月さん、今って何か受けられる依頼ってありますか?」
「あ、今夜から食事のグレードアップがしたいとか? そうよね、育ち盛りだもんね。お姉さんはいいと思うよ、どんどんやって行こ」
秋月さんがホワイトボードに地図を描く――静波荘の周りを描いたもののようだ。
「ここがこの寮で、このあたりも敷地内なんだけど、ここに薬草が群生してるのね。一本あたり薬局に5ブロンズで売れるんだけど、それを1シルバーで買い取ってあげる」
薬草の納品依頼――何というか、とても懐かしい感じがする。
『荷物持ち』として駆け出しの頃は、こういう依頼で実績を少しずつ作っていったものだった。
「それじゃ、ちょっと行ってきます」
「気をつけてね。暗くなってきてるけど、地図のこのあたりならまばらだけど街灯もあるから」
「さっき懐中電灯を見つけたので、それも使ってやってみます」
この時間帯でも外に出たいというのは、一つ理由があった――俺はまだ、もう一つのスキルを試せていない。
『固定』だけでなく、もう一つのスキルについても知っておくことで、明日の実習で助けになるかもしれない。それで同時に依頼をこなせるのなら言うことなしだ。
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