第四話 1つ目のスキル
廊下に物を出して掃除するわけにもいかないので、整頓のカギとなるのは押入れだ。
不要なものは捨てられるように区分しつつ、ひとまず畳が見えるようにする。
「……ダンボールの中身も全部違う……って」
なにげなく半開きの箱の中を覗いて、神速で閉じる。見えていたのはまだ袋に入った新品の下着――それも女性もの。
秋月さんがこれを置いていったということなのか。良く分からないが、この部屋に置いたままにはしておけないので後で聞いてみるしかない。
(普通にタンスに入れたりしないのか……ストックだからか。いや、こんなことで心を乱してる場合じゃないぞ)
軽く部屋全体を箒で掃き、支給されたゴミ袋にホコリを集めて入れる。やはりあまり汚れていない――複数人に使われている部屋だからか。
窓はしばらく開けられた形跡がない。だが普通にカギは開く――開けてみると、何か竹に囲まれている小屋のようなものがある。
(何だ、あれ……気になることばかり増えていくな)
見ていても仕方ないので窓を閉め、次は押入れに向き合う。開けようとしてみると――何かが引っかかっているのか開かない。
「ぐぬ……ぬぉぉっ……!」
思わず声が出てしまう――こんな力任せで戸が壊れたりしないか、と心配になりかけたとき。
ガラッ、と一気に戸が開く。そして俺の頭上に、中に入っていたものが一気に落下してくる。
(ヤバいっ……!!)
布団が詰まっているのかと思ったが、そうではない。押入れは上下二段に分かれていて、上の段に入っていたのは、重そうな段ボール箱の山だった。
さすがに身体を張って止めるのは厳しい――だがどうしようもない、このまま甘んじて荷物の雪崩に身を任せるしかないのか。
(…………?)
防御態勢を取っていた俺だが、いつまで経っても何も落ちてこない。
目を開けてみると――明らかに不自然なバランスで、落ちてこようとしていた大きな段ボールが止まっていた。
《スキル『固定』を発動 対象物の空間座標が固定されます》
頭の中に響いてきたのはそんな声。そして理解ののちに実感が生まれる。
「……これが1つ目のスキル……『固定』ってことか……!」
荷物を運ぶとき、いつも平坦な道というわけではなく、道なき道を進まなければならないことも多々ある。そんなとき、荷物をしっかり固定しておかないと、荷崩れを起こして使い物にならなくなることがある。
普通なら紐などを使ったりするが、俺が与えられた『固定』というスキルはその必要がない。触らなくても任意の物体を固定できるという能力だった。
(これは色々と使えそうだな……まだ検証は必要だけど)
こちらに傾いたまま固定された段ボール箱を触ってみる。それだけでは固定は解除されない――だが『動かしたい』と念じて触ると動かせる。
箱を一つずつ床に下ろして、押入れをどう整理するかを考える。段ボールの代わりに収納ボックスを入れるなどしたいところだ。
魔力 8/10
生徒カードを見てみると、魔力が少し減っている。今の『固定』で2ポイント消費したのだろうか。
スキルで固定された状態がどれくらい続くのかの検証も必要だ。そのあたりにあったクッションを持ってきて、壁に貼り付けて固定してみた――ピッタリくっついて落ちない。このまま放置しておけば、時間制限があるかはわかる。制限があるとしたら今度はタイマーで時間を測る必要も出てくるが。
(これでまた魔力を2ポイント使うのか。さっきは複数の箱を同時に『固定』できたけど、対象が一個でも消費は……あれ?)
魔力 7/10
今度の消費は1ポイントだった。そうすると、さっきは一度に複数固定したので2ポイント消費したのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます