プロローグ・2 決断の時
「だから、諦めないでください。魂というのは、多数の世界の間を循環しているものなんです」
『魂……今の俺の状態のことか?』
「そうです。あなたはこの世界で死亡しましたが、次の世界に行くことができるんですよ。それも、私とここで遭遇できたということで、一つ特典がつきます」
『遭遇できたって、会えない場合もあるのか?』
「転生担当神にも色々なタイプがいますからね、あまり魂に関心がない場合もあります。私はあなたが楽しませてくれた……いえ、最後に勇敢さを見せてくれたので、それに対して何かしてあげたいんですよ」
『なんかズルしてるみたいだな……』
「あー、そういう煮えきらない性格は本当に見ていてイライラしましたよ。もう問答はいいです、生まれ変わりますか? それともこのまま神界に行きますか?」
神界に行くことが完全な死で、それを拒否すれば生まれ変われる。
一度死ぬことを覚悟したのに覆すのは、潔くはないが――後悔するよりはずっといい。
『……転生を希望する』
「そう言ってくれると思っていました。さて、どんな特典が欲しいですか? ひとつ言っておくと持病を引き継いだりはしませんよ、サービスで対策をしておきます」
『特典か……ずっと荷物持ちをやってて、これだけはどうにもならないって問題があったんだよな』
「……えっ? それでいいんですか? 荷物持ちゆえに生じる悩みを解決したいってことですか? もっと派手な技とか魔法とかいらないんですか?」
『俺にとってはだいぶ革新的なことなんだけど……』
荷物持ちがぶつかる問題――それは、所持数の限界がどうしてもあること。
あらゆる局面に対応するための魔道具やポーション、巻物、冒険日誌、そして食料と水に野営道具。持てる量さえ増えればと思うが、特大のナップザックで背負える量がそのまま上限だった。
「荷物の所持数を増やしたい……いえ、所持限界をなくしたい、ですか?」
『ああ。そういうことができる能力はあるかな?』
「ありますけど、本当にいいんですか? 選ぶ能力によっては英雄にもなれますよ?」
『そういうのは俺には向いてない。あいつらのためになれたなら、荷物持ちって立ち位置は悪くなかったんだ』
「……こだわり、ですか」
『なんだかんだ言って、三十半ばまで荷物持ちをやってきたからな』
「あなたという人は……」
どうやって所持限界を増やすのか、筋力を盛られるのか、何か魔法をもらえるのか。
それは分からないが、どうやらもう転生は始まっているらしい。
「私はあなたの希望を受理しましたが、それがどのような形かは分からないんです。ですから……また、他の誰かになったあなたを見守らせてもらいますね」
『他の誰かって……まあそうか、転生ってそういうことか』
「ふとした拍子に、転生前の記憶を思い出したりもするかもしれませんよ。では、次の世界でも頑張ってくださいね」
これが転生するという感覚か――やがて俺の自己認識も消え、完全な『無』が訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます