元英雄パーティの荷物持ちおっさん、転生して現世ダンジョンを無双する ~二回目の人生は『荷物持ち』を極めて学園ランキングを駆け上がる~

とーわ

前章

プロローグ・1 ある荷物持ちの最後

『うぁぁぁぁぁ……あれ?』


 気がつくと、目の前が真っ白になっていた。


 ものすごく広い空間の中にいる。ふと自分の手を見ようとしてみると、そこには何もない――というか、俺の身体がない。


『ああ……そうか』


 さっき自分が悲鳴を上げていた気がするのは、つまりそういうことだ。


『俺、死んだんだな』


 俺は確か、Sランクの冒険者パーティのサポートメンバーだった。身体がなくなったせいなのか、記憶が維持できなくなってきているが。


 担当していたのは『荷物持ち』。戦闘スキルは一切ないが、ものを運ぶことだけには長けている職業クラスだ。


『もっと生きたかったけどな……まあ、仕方がないか』

「――いえ、全然仕方なくありませんよ」

『……え?』


 目の前に現れたのは、この世のものとは思えないほど綺麗な女性だった。


 半透明に透けていて、何かキラキラしたオーラを纏っている。人間ではなく、別の種族のようだ――耳が長くて、髪は白に近い銀色。それは『祖エルフ』の特徴にも似ている。


「あなたの思う通り、ここはこの世ではありません。死後の世界に行くまでの、いわば中二階のようなところです」

『じゃあ俺はまだ死んでないんですか。大変だ、それならパーティに戻らないと』

「……もう、戻ることはできませんよ。あなたは最後の最後に、所属していたパーティに最大の貢献をしました」

『それが、何が起きたのか全然覚えてないんですよ。俺はいったいどうなったんですか?』


 尋ねると、女性は目を伏せる。不躾な態度だっただろうか――だが、どうしても気持ちが急いでしまう。


「あなたがいたパーティは、あるダンジョンの深層でボスモンスターに敗走させられました。仲間を脱出させるために、あなたは持っていた荷物を駆使して時間を稼ぎ、最後は……」


 ――おっさん、転移結晶は使うな! ここで使ったら……!


 ――あーあー、言わんこっちゃない! だから持たせとかないほうがいいって……!


 ――駄目、防御魔法が届かない……このままじゃベックさんがっ……!!


『……リュードを困らせてしまったな。アンゼリカは怒ってたし、ソフィアにも心配をかけてしまった』

「他の二名の方も無事ですが、パーティの間で意見が割れているみたいですね。あなたの死体を探しに行くかどうか」

『し、死体か……死んだと分かっててもそう言われるのはキツイな……』


 三十を過ぎてから徐々に体力も落ちてきていて、それでも俺の経験を買って同行させてくれたリュードたちのためにも何とか脱落はしたくなかったが――死ぬという形も覚悟していたとはいえ、やはり気分は重い。


『……まあ、重いって言うにも身体が無くなってしまったけどな』

「っ……あなたは、どうしてそう他人事なんですか! 死んでしまったんですよ!?」

『パーティの皆が無事ならそれでいい。もともと完全なお荷物になってきてはいたんだ。持病がだんだん悪くなってきて、本当なら潮時だったから』


 なぜ、この人の方が怒っているのか――俺が枯れすぎているだけなのか。


 彼女が娘のように歳が離れて見えるからか、敬語を忘れてあやすような話し方になってしまった。こういう無礼さも、アンゼリカにはよく怒られたものだ。


「あなたにはやりたいことがあったんじゃないんですか? 十年間もあなたを馬鹿にしてる人たちのパーティに同行して、最後は身代わりになって死ぬなんて……」

『やりたいことか……もっと効率よく荷物を運べるようになりたかったな。さっきだって、携行する荷物次第では壊滅には至らなかったかもしれない』

「そんなこと……あなたに責任があるわけないじゃないですか。バカじゃないですか」

『……ありがとう、怒ってくれて。少し救われた気分だ』


 もうこれで終わりだ。時間切れが近づいているのがわかる。


「……駄目ですよ。あなたには未練がある。そして私は、あなたを気に入ってしまったんです。悲惨な死に方をしたら、一度は助けてあげたくなるくらい」

『……え?』

「ほら、もう期待してるじゃないですか。本当は生きたくて仕方ないのに、パーティの人たちを転移結晶で退避させて、自分はダンジョンボスの腐蝕ブレスを受けて一瞬で骨になったんですよ、あなたは」

『げっ……まあそうなるとは分かってたが……』


 ということは死体回収も何もないし、やはりこの世に未練があってもこのまま消えるしかないんじゃないだろうか。

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