第2話 遭遇

「なんか、イライラする。」

 一度帰宅した俺は自分のPHCVである、PHCVー7GIで街を駆け抜けながら、そう一人つぶやいた。一人乗りのこの機械では当然、その言葉に反応する人もいなく、宛名のない独り言はPHCVの稼働音に覆われ消えていく。

 座席越しに少しの振動を感じながら、部活に入らない俺をあきれ顔で見る、今日の学校での先生の顔が浮かぶ。それが特別いやなことだったわけではない。ただ、漠然とした将来、時間が無意味に過ぎていく感覚が不思議と俺を焦らしていた。

そんなことがたまにある。

 そういう時、俺は決まって、目的地も決めずにPHCVを走らせていた。

 視界の端で高速で後方に流れていく街は、いつものようにコンクリートの灰色で、人影はまばらだ。視界に映るのは無機質な建物と、前を走る数台のPHCVだけだった。

 無心でその道を駆け抜けていると、いつか、この街という形を持った社会という不確かな生物の血管から外へ飛び出すことができそうな気がする。そんな空想的な考えにかまけて、ただPHCVを走らせる。

 だからだろうか、俺は、立ち入り禁止の看板を抜け、周りの景色が灰色から、くすんだ鼠色に、人の気配を全く感じない退廃的な街並みに、変わっていたことに少しも気付いていなかった。



 くそっ。しくった。

 私は見覚えのない周りの景色に、そうひとり言葉を漏らした。自然と焦る心を落ち着かせるため、ガス欠になって動けなくなったPHCVから降りて外に出る。

 やはり金がないからって、旧型のPHCVなんか買うんじゃなかった。そんな思いも頭をかすめるが、初めての自分専用のPHCVということもあって、思い入れもひとしおにある。

 そう思うと途端に罪悪感がわいてきて、私は謝罪の意味を込めて、PHCVの装甲を軽く撫でた。

 PHCVを止めている隣のひん曲がったガードレールに腰を下ろし、タバコをポケットから取り出す。箱を覗くと残りはもう三本しかなく、もうすぐ買う必要がありそうだ。

 ……タバコ、高いんだよなぁ。

 そう思いながらタバコを口にくわえて、胸ポケットから出したライターを右手に持ち、左手で軽く囲むようにして火をつける。肺をタバコの香りと煙が満たし、それをゆっくりしみ込ませてから、外に吐き出す。これで、今日は八本目だった。タバコの減りが早いのも当たり前だ。

 ……またあいつに怒られちゃうな。

 私は、犬みたいな最近できた後輩を思いながらそう思った。彼女は鼻がよく、タバコを少しでも多く吸ってしまうと、すぐにばれてしまう。タバコは嫌いらしく、少しでも私からタバコのにおいがすると、嫌そうな顔で私に小言を言うのだ。

 それだから、彼女のあだ名は、ワン公にしてやった。

 しかし本当は、そんなことを考えている余裕は私にはないのだ。… 空を見上げる。ビルの多い街中よりずっと開けた空は、まだ何とか明るいが、もう少しで日は地平線に沈んでしまうだろう。ただでさえ人なんか来るはずがない場所なのに、暗くなったら誰か来る可能性なんて絶望的だ。

 さらにここからでは、一番近い町まで、歩いて何時間かかるかわからない。警備ドローンの警備ルートからもおそらく離れてしまっているだろう。

 極めつけは、オートマトンを一体見失ってしまっていたことだった。そんなに強くないと思われる個体だが、生身では勝負にもならない。そんな訳で下手に歩き回るわけにもいかない。……正直言って、八方ふさがりだった。

 もう一度、タバコの煙で肺を満たし、今度は空に向かって吐き出す。もともと空気が悪いのもあり、煙で空を見通すことができなくなる。

 簡易的に出来上がった紫煙の靄が霧散していくのを眺めていると、焦りはあるはずなのに、思考が静かに記憶の海に落ちっていきそうになる。

 ……いけない!

 そう自分を止めようとするが、思考は勝手に記憶の海を潜っていこうとする。

 それを理性で止めようと必死になっていたその時、そう遠くないところからの爆発音が、私を底の見えない記憶の海から引きずり上げた。




 消しゴムを使った後、しっかり近くに置いたはずなのに、なくなっているということがよくある。

 確かにそこに置いたはずなのにである。

 その姿型を消してしまう彼ら消しゴムには、きっと人類がたどり着いていない謎が潜んでいるに違いないのだ。

 俺が思うに、あれはおそらく消しゴムはワープ能力を使うことができ、異空間ゲートを作り出して移動しているのだ。

 そして俺は今、その消しゴムと同じように、無意識のうちに異空間ゲートを通り、移動してしまったのだろう。そうでなければおかしいのだ。

 煤まみれの鉄くずや材木、ひしゃげたガードレール、それらを包む透明度の低い空気。それは異世界に来てしまったのだと思いたくなるほど、凄惨な破壊の跡地だった。

 家が倒壊したであろう材木はそこら中に散らばり、何とか形を残している家屋も、いつ倒壊してもおかしくないような状態だ。

 俺の背中を、いやな汗がつたう。

「………やべえ、ここはどこだ?」

 ふと我に返りPHCVを停止させた俺は、周りの様子を見ながら、そうひとり呟いた。

 俺はやけに冷静になってしまった頭でこんな場所にいる理由を考える。しかし、ろくすっぽ考えずにPHCVを走らせていたので、少しの手掛かりも思い出すことが出来ない。

 どうしようもなく焦りが募る。頭に血が上り、異様に体全体も暑くなり、毛穴という毛穴から汗が噴き出す。必死にどうにかする方法を考えようとするが、焦りでろくに判断ができず、また焦る。その負の連鎖に陥りそうになってしまう。

 俺は深く深呼吸をして、両手で自分のほほをはたいた。パチンといった乾いた音がPHCVの中に微かに響く。

 ……っつ。

 鈍い痛みが顔に走る。しかし、その痛みのおかげで思考にかかっていた薄い靄が晴れ、幾分頭がすっきりした。

 冷静になった頭で、まず何をすべきかを考える。そして、答えはすぐに出た。

 ……まずは現在地を把握することだ。

 そう思い立ち、すぐにPHCVのモニターのマップ機能を開く。しかし、すぐに場所情報は表示されず、少し待つと、現在地不明の文字が代わりに画面にでかでかと映し出される。

 …………まあそうだよな。………ん?てか、文字でかっ。

 この7Gにはたまにこういう悪ふざけ的なことがあるのはなぜなのだろうか?

 まあ、その文字の大きさに少しいらっとするが、現在地が不明であることは予想の範囲内であった。

 詳細な現在地はわからないが、周りの様子を見るに、十中八九ここはオートマトンの襲撃にあった地域なのだ。

 オートマトンとは、人間を襲う機械集団のことであり、彼らは戦闘の時、電波障害の物質を上空に散布するので、その影響がまだ残っているのだろう。旧型であるこの7Gは、少しでも障害があると、通信に支障が出る貧弱性能なのだ。

 ちなみに最新型のPHCVは少しの障害があっても衛星から情報を受け取ることができるので、場所をすぐに知れるとか。

 ………まあ、考えても仕方ないか。

そう思い立ち俺は何か場所を把握する手掛かりがないか7Gを走らせることにした。

 ………昔こういうゲームあったらしいなあ。

 そんなことを思いながら、できるだけ安全そうな道を選んでPHCVを進める。

しばらく道なりに進むと、少しだけ開けたところに出た。その開けた空間の先に見慣れていた大きな建物が見える。その白い壁面の至る所に、穴が開き、黒く焦げたような跡が見て取れるが、その頑丈な建物はまだしっかりと形を残していた。

 ………中学校。

 それは紛れもなく中学校だった。もちろん俺が通っていた学校ではないが、小学校とも、高校ともどこか違う雰囲気を感じる。

 思春期が本格的に始まり、男子と女子はだんだん目を合わせられなくなる。それでも話をしたくて、甘酸っぱい恋が始まる。そして俺はひねくれ、陰キャになっていった。そんな場所だ。

 ………あれ、俺敗北してね。

 自分の中学生時代を顧みてむなしくなるが、なんでこんなところに中学校があるのだろう。一瞬そう疑問に思うが、周りの状況からもここに街があったことがうかがえる。そしてこの中学校の門にある表札を見たとき俺は一つの確信を得た。

 世田谷区立第三中学校。

 世田谷区それは、ほんの三年前にオートマトンによって壊滅した町の名前だった。


 少なくとも現在地はわかったので、紙の地図から、世田谷区立第三中学校を探す。索引で世田谷を探してページをめくっていき、その周辺の何枚かページをめくると、時間をかけずに三中を見つけることができた。

 そこから何とか道がわかる調布あたりまでつながっている道を探す。

 そんなに距離が離れていないこともあり、俺はそんなに時間をかけず道筋を見つけることが出来た。

 見やすいように軽く爪で印をつけていく。

 この道が今でも通れる保証があるわけではないが、通れなかったらそのたび修正していけば何とかなるだろう。

 そうしてやっと俺の心に安堵の兆しが見えたときだった。

 ……ピピピピピピ

 俺の耳をまるで警戒を促すような音が貫いた。慌ててモニターを見ると、表示が変わり円形の図が表示され、その中心からほど近いところに赤い点滅する点が映し出されていた。

 熱源感知?

 モニターの上部あたりに同じような赤い文字で書かれた、その四字熟語も点滅を繰り返す。よく見てみると、その赤い点は中心の方に近づいているようにも見える。

冷静に改めて見てみると、PHCVの授業で見たことのある、レーダー探知の表示の仕方だった。だとしたら、当然中心は自分自身というわけで………。

 何かの気配を感じて俺は前を見た。

 ゆらりと赤い光がまず目につく。そして目を凝らすと、その周りに一昔前の人型ロボットの様な無骨な姿が見える。

 ………あれはなんだ?

 目が合った!と思った瞬間俺は反射的にレバーを左側に倒した。

 ……シュウィン

 さっきまで俺のいたところを淡い橙色のレーザーが駆け抜けた。そしてレーザーを放ちながらそのまま俺を追うように横なぎにスライドさせてくる。

 俺はいきなりのことにパニックになり、レーザーから逃げるように再びレバーを左に倒す。しかし、逃げ切れるわけもなくレーザーはすぐそこまで迫ってきてしまっていた。

 ……やばい。やばいやばい。

 焦りで頭が真っ白になり、走馬灯が見え始めようとしたとき、俺のPHCVが何かにつまずいたのか、横向きのまま転んでしまった。

 衝撃が体まで伝ってきて、俺は操縦席の壁に頭をぶつける。鈍い痛みが額に走り、視界がちかちかとはっきりしなくなる。しかし、それが幸いし、間一髪のところで、  レーザーは俺の機体の上をかすめていく形で、どこか遠くへ消えていった。

 ぶつけた頭も、打撲はしてしまっているかもしれないが、血は出ておらず、そんなに重症ではないのだろう。

 俺は慌てて機体の態勢を整えながら、状況の確認を急ぐ。

 まず目の前にいるロボット?が俺を攻撃してきたと考えて間違いないだろう。PHCVを立ち上がらせながら、敵を黙視する。

 敵は体中から煙を上がらせており、細部まで確認することはできない。

 しかし、すぐに二度目のレーザー放射を行ってこないところを見るに、連射は不可能らしい。おそらくレーザーを放つことで熱くなった、やつ自身の体を冷やしているのだろう。体中から上がる煙も、水蒸気が水になり煙に見えているとみて間違いないだろう。

 次に敵を視線の端にとらえておきながら、周りの様子に目を向ける。

 ……空ひらけてるんだけどぉぉぉお。

 今さっきまであたりに山のように積みあがっていた材木たちは消え失せ、先ほどまで薄暗かったあたりを、今にも沈み切りそうな西日が照らしていた。

 今頃になって恐怖がこみあげてくる。

「………逃げなきゃ。逃げなきゃ。にげなきゃぁぁ。」

 レバーを引き敵から目を背けて逃げ出そうとする。

 ……でもどうやって?

 そんな疑問が頭をもたげたとき、俺の体はまるで針金が体の中を通っているみたいに動かなくなった。

 レーザーはもちろんPHCVの移動速度より早いし、少し離れたくらいで当たらなくとは思はない。そして、もちろんもうあれ一度よけられるわけもない。

 加えて敵の体から出る煙の量は先ほどよりも断然少なくなっており、その赤く光る眼は俺を確かにとらえていた。

 ……ああ、死んだな。

 そんな思考が頭をよぎる。

 こんな時、物語なら、誰かが、ヒーローが救いに来てくれるのだろうか?

 でもそれはそれで、きっと俺は主人公になれないままになってしまうのだろう。

 ひどく加速していく思考の中、再び敵の中に熱源を感知したモニターがピピピピ騒ぎ出す。

 次のレーザー放射で俺はおそらく死ぬ。

 ………短い人生だったなぁ。

 ピピピピピピ…………。

 その音を聞きながら、俺は今までに感じたことのないような感情の渦が腹のあたりに渦巻き始めているのを遠くに感じる。

 ………ここで死ぬのか?まだ何もやってない。やりたいことすら見つかってない。

 ………ああ、イライラするなぁ。

 モニターの音だけがひどく大きく聞こえてくる。

 はあ、はあ、はあ。

 イライラが止まらなくなり、息が切れだす。

 敵の赤い瞳がひときわ強く光を放ち、今レーザーが発射される。その時、

「ピイピイ、ピイピイ、うっせえなぁぁぁ。」

 そう叫ぶのと同時に、俺の脳にある何かのスイッチが切り替わった。

 右手でレバーを思いっきり限界まで右に倒す。7Gは即座に足裏にある小型車輪をフル回転させ、レーザーをギリギリよけることに成功した。

 当然慣性によって俺は右側の壁に頭をぶつけるが、構わずそのままレバーを倒したまま保つ。遮蔽物をよけながら、敵を中心に円を描くようにしてPHCVを走らせながら、そのまま左手でボタンを操作させ護身用に装備させていた、マシンガンを抜き放ち、オートマトンに向かって、乱射する。

 オートマトンはレーザーを放ちながら首だけを動かし、こちらを攻撃してくる。

 マシンガンの球のいくつかは、その熱に溶かされ、さしたる傷を与えられているようには見えない。

 ……何かほかの武器はないのか。

 俺は敵のレーザーが一時切れたのを確認してから、適当な物陰に隠れながら、地図と一緒に入っていた取扱説明書を開く。

 目次の次のページにこの7GIの全体図が乗っており、そこから武器らしきものを探す。

 全体像には、ライトから動力の説明まで事細かく、書いてあったが、銃器らしきものはあまり見られなかった。代わりに刀や、ナイフ、極めつけは拳が武器らしき表記のされ方をされていた。

「くそ。なんでこんなに近距離ばっかなんだよ!」

 抑えきれない悪態が口から漏れ出す。

 冷静に考えみれば、銃器などは通常電気スタンドなどで借りるものなので、予備として先ほどのマシンガンしかないのもうなずける。しかし、理由に気づいたところで、どうにかなるわけでもない。

 俺はしょうがないので、刀や、拳のページを探す。

 ページをめくるのもじれったく、焦るほどにうまくページをめくれない。落ち着くために自分のほほを数回殴りつけ、何とか詳しい説明にたどり着く。

急いで読んだ大体の説明によれば、ナイフは足の腿当たりに収納されているらしく、 刀身はレーザーらしい。

 説明を参考に、PHCVの腿のあたりを探ってみると、引き抜けそうなものがモニターに移った。試しに引き抜いてみると、持ち手の部分が出終わるのと同時に赤いく短い刀身が姿を作りだす。

 それは本当に肩刺しといった感じで、刀身は相当短かった。

 これじゃ今からもっていても邪魔になってしまうだろう。そう思って俺は、刀をもとの場所にしまう。

 ピピピピ………。

 三度目のモニターの警戒音が流れ出す。

 最後に保険として拳の説明を読む。そして、俺は方針を決めた。

 物陰の外に出る。

 赤く光るやつと目が合う。いや、その奥にある燃え上がる何かと対峙する。

 オートマトンの体から立ち昇る煙はもう少なくなっており、もうすぐレーザーが発射されるだろう。深呼吸をして息を整える。

 すぐにその時は来た。

 オートマトンの目がひときわ強く光を放つと同時に、右にレバーを倒す。

 再び同じ展開。レーザーが俺を追ってくる。しかし俺は、レバーを前に倒し今度は敵に向かって突っ込んでいった。

 レーザーが当たるというところで、スライディングのようにして、レーザーの下をくぐりぬけながら、先ほど確認した、レーザー刀を抜き、オートマトンの左手に切りかかる。

 硬い感触がレバーを止める。

「をぉぉぉ。」

 しかし、無理やりレバーを押し込むと、

 ……切れた。

 そう解放感で分かった。しかし達成感に浸っている余裕はなかった。

 今までとは比べ物ならない量の煙が、すぐ近くにあるオートマトンの体全体から吹き出し、視界を埋め尽くす。

 その風圧だけで、PHCVが押し倒されそうになる。レバーを前に倒し、何とか倒れないようにするが、そのままの姿勢で地面を滑りオートマトンとの距離が開く。

 何とか態勢を崩さずに堪え前を向くと、霧が晴れた先に、体のうちにマグマの様な光が見えている、オートマトンが立っていた。漏れ出ている光は線のように体中に走り、直接感じないのにも、皮膚が焼けるような熱を感じた。その体からは、さっきま でがまるで準備運動であったかの様な威圧感があふれ出る。

 絶望が再び俺の心と折ろうとのしかかる。

 汗が背中を伝う。

 けれど、俺はかつてないほどの興奮が体中を包んでいた。皮膚が焼けるような緊張感すら心地よく感じる。きっと、今の自分の唇は吊り上がり、目は限界まで見開かれているだろう。

 体全体が燃えているようにひどく暑い。しかし、頭だけは嫌に冷たかった。

ちらりと見た右手のレーザー刀は差大出力にしていたからか、もう光が切れかかっている。

 ……これじゃあ使い物にならない。

 躊躇もなく、刀を捨てる。

 やることは一つ。

 奴の目がPHCVの中の俺をとらえる。

 興奮で、ここで死んでもいい。そんな気さえしてくる。だが同時に絶対死ぬかという意思がレバーを握らせる。

 音が遠ざかり、思考が加速していく。俺の認知している世界に、あいつと、俺と、 このPHCV以外の姿が消える。

 お互いに動き出したのは同時だった。

 同時に地面をけり鏡合わせのように右の拳を打ち出す。

 距離などなかったかのように一瞬で肉薄したお互いの間で、お互いの拳がぶつかる。

 衝撃波が広がり、視界が明瞭になる。

 まるで止まることを知らないかのようなオートマトンの腕は、その圧倒的なまでのパワーで押し込んでくる。

 ……勝ちたい。

 俺はレバーを前に押し込みながら、左足を前に出し、再び腰を回しながら、左手でボタンを押した。

「うをぉぉぉぉぉぉ。」

 俺はうなっていた。

 それにシンクロするかのように、PHCVの腕が爆発し、さらに威力が増す。

 そしてそのまま、腕を弾き飛ばし、オートマトンの顔を殴り飛ばした。

 奴の体が高く、高く、星が輝き始めた空を吹き飛んでいく。

 そして、遠くからゴスっという小さな音がした後、壮大な爆発が起こった。爆風がPHCVを揺らす。

 霞がかっていた空気も晴れ渡り、空がきれいに見える。

 太陽の代わりに月が、あたりを照らす。その中で俺は一人こぶしを突き上げた。

 …………俺は今、最高に自由だ。


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