第27話 たい焼きと雪の話
私はたこ焼きを片手に、
何一つ喋ることない空間、いつもなら気まずくて仕方ないのに今日は全く何も感じない。それより大きな理由があるからだろうか。
年末前の繁忙期の影響か父が体調を崩し、いつもより遅い時間に出た初詣。この時間じゃなかったら会うことはなかったのに、そもそも住む町が違うのに。巡り合わせるかのように彼に会ってしまった。
横目で彼の表情を確認する。
ただ前を向き、口をモゴモゴと動かしている。彼の持っているたい焼きを見ると頭側から食べられていた。それを見て私はほっとする。私も頭派だ。
彼の表情を確認し終えた後、私は1つたこ焼きを口に入れる。冬の空気に晒されたからか、全く熱く無い
いつのまにか降り始めていた雪が、視界を少しだけ白く染める。
『俺たち別れよう。』
もう何ヶ月か経つのに未だにあの日のことを鮮明に思い出してしまう。そして思い出した分だけ辛くなる。
もしかしたら、なんて淡い理想に現実を叩きつけてきた一言。あの日私は全身全霊を尽くして彼に好かれるように振る舞った。でも結局別れを告げられてしまった。
勿論彼が好きだから辛くなっているのでは無い。小学校の頃のようにまた誰かに嫌われてしまうトラウマが蘇る。心がまた凍ってしまう、それが怖くて辛くて堪らない。
今彼は何を考えているのだろう。
ふとそれが気になった私は再び彼の表情を確認しようと、目だけ動かす。表情を見るだけでいい、彼に何を考えてるかなんて聞く気はない。瞬間、微かな風が吹く。
その風は一粒の雪の結晶を、私の唇まで運ぶ。雪がすっと溶ける感覚がはっきりと伝わる。
「ねぇ、君はさ私のことどう思ってるの?」
不意に口からそう溢れていた。
言い終わって正気に戻った私は慌てて訂正の言葉を口にしようとして、飲み込んだ。
自分でもなぜそうしたのか真意は分からないが、私の淡い期待にかけてみたくなったからだと思う。
あの日別れを切り出されて、
それなのに私はほんの少しだけ、心の狭い狭い隅で「もしかしたら」を期待してしまっている。
辛いのが苦しいから。また冷たくなっていく自分が怖いから。すがるようにそんな希望を抱いたのかもしれない。
もしこれさえ否定されてしまえば、私はあの時と同じようにまた心の支えを失ってしまうかもしれない。今度倒れたらもう起き上がる自信はない。
だからあんな言葉を口にするつもりはなかった。希望を希望ののまま、支えがハリボテであってもそれで立てているならそれでよかったのに。
それでも、この苦しみから抜け出したかった。「もしかしたら」が現実になって、私の心をほんの少しでも溶かしてくれたら…そんな希望を私は馬鹿だから信じることにしてしまった。
私の言葉を聞いた瞬間、彼は目を丸くして驚いた。そして照れ笑いするとともに、唇が動く。急に私の時間がゆっくりになる。
彼の唇が次第に次第に離れていく。
私の心臓が次第に次第に音を立てる。
ドクン…ドクン…
怖いからその先の言葉を言って欲しくない。
ドクン、ドクン
辛いからその先の言葉を言って欲しい。
ドクドクドク
相反する感情が脳をぐちゃぐちゃにして、体を引き裂いてしまいそうだ。
そして遂に、彼の言葉が私の鼓膜を揺らす。
「
言い終わった彼は照れくさそうに、すぐさまたい焼きに齧り付く。
私の胸に落ちた雪の結晶がスッと溶けていく。そんな気がした──
────
──
─
「寒くないかな?暖まるまでもう少しかかると思うから寒かったら遠慮なく言ってね。」
そう言って
『
その後すぐ
『この後雪が強くなるらしいから帰ろう。それで、
俺からしたらこの提案を断る理由なんて全くないため二つ返事で頷いた。
というわけで今、俺は
後部座席に座った俺は、隣に座った
車内には焦点が落ち着く場所がないから仕方なく窓の外を眺める。
『
今思い出すと少し恥ずかしい台詞。でも1番最初に頭に浮かんできた言葉がこれだった。勿論躊躇いはしたが、それ以外の解答は存在しないなとすぐに思った。
異性とのお付き合いは愚か、友達の少し上の関係にすらなったことない俺と
たとえその理由が罰ゲームであっても、虚構で中身のないものであっても、俺にとっては人生であるかないかの貴重な貴重な時間だった。そんな経験をさせてくれた
だからこの言葉が真っ先に出てきたんだと思う。
「───もうそろそろ着くからね。雪強くなってるから玄関の前に止めるよ。」
外を見ると、
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