第24話 いつもと違うの話

 私が差し出した手に大也ひろや君はあずあずと手を乗せる。私は互いの手が触れ合った瞬間彼の手をぎゅっと握る。


───

──


 「──でね。それでうちの姉が──」

 「──うふふ、お姉さんらしいね。」


 目的地に向かう道中の会話。伊織いおり千夏ちなつ達と帰り道でする様ななんの変哲もない会話。いつもなら全く笑うことなく、相槌は3回すれば良い方。目も合わせることすらない。決して彼の話に興味が無いわけではない。包み隠さない、私の通常運転だ。

 

 しかし今日は少しだけ違う。彼の話に無邪気に可愛く笑って反応してみせる。


 私のあまりの変わりように、彼は最初戸惑っていた。仕方のないと私でも思う。いつもなら目すらまともに合わせない塩対応の人間が急に優しく察してくるなんて、私が逆の立場なら同じような反応をする。


 しかし彼はすぐに私の変化に慣れた。


 彼はいつもより楽しそうに喋る。私の相槌促される様にテンポ良く。

 

 それも当然だ。無表情で相槌すら返さない女より何でも笑って楽しそうに反応する女なら後者の方が圧倒的に会話してて楽しい。女の私でもというより人類なコミュニケーションの観点においてそれは理解して当然のこと。


 彼と目が合うと、私は笑顔を見せる。最初はぎこちなかった彼も次第に笑顔で返してくれるようになった。

 普段なら見ることは決して無い大也ひろや君のこんな顔。屈託なく笑う彼がどうしてか私の心を締め付ける。

 でもこれでいい、私は演じるの。彼からの好感度を稼ぐために、もう2度と嫌われないための役を──


「──ねぇ。今日は結局どうするの?」


 私は問いかけると共に、上目遣いで分かりやすく媚びる様な目をしてみせる。細かな仕草で私の可愛さを全面にアピールする。


 すると彼は少しだけ頬を紅潮させ、一拍置いて返答が返ってくる。


 「本開催まで時間あるから屋台とかで食べ歩き的なのしようかなって思ってるよ。」


 今日は、私がこの街のお祭りに参加したいと伝えると、一緒に回ってくれることになった。


 今日のお祭りは市が主体となって開催するので、金魚掬いや射的の様な定番のモノだけでなく、体験系のアトラクションや遊具を使った遊びなどかなり規模が大きい。


 私は家が遠いこともあり一度も参加したことが無かった。しかしこの時期になると学校で周りから話をよく聞くため、かなり前から気になっていた。だから今日はかなり楽しみだったりする…


 金魚掬い系の遊びが開催されるのは昼過ぎからであり、今より1時間以上先になる。しかし屋台はもう開かれているので、そこで昼ごはんを兼ねて食べ歩きながら時間を潰せればいいなと思っている。と、今日のプランを端的に伝えられた。


 正直朝ごはん食べてなかったからお腹の音を抑えるのに必死だった。腹ペコなんてバレたら変に思われるかもしれない、気をつけなければ…

      ──閑話休題──

 

 しばらく歩いているうちに、お祭りが開催されるであろう公園が見えてきた。


 お祭りに参加するなんて何年ぶりだろう。地元のお祭りがある日は、客足が増えるからと大抵店の手伝いをしている。


 近づくにつれて公園の全貌が見え始める。連れられるように興奮も増して行く。


 そしてとうとうワクワクが抑えられなくなり、私は繋いでいた手を離し公園へ爆走。


 「大きいねぇーー!!」


 公園の入り口手前で止まり、腕を大きく広げ、回りながら私は言う。

 

 最後に行ったお祭りなんて何年前だろう。記憶を遡ると母の顔が映る。母の綺麗な和装姿。それ以降の記憶は見つからない。何年も行ってなかったってことね。


 胸がドキドキして、懐かしくて、どうしようもなくはしゃぎたくなってしまう。


 自然と浮かび上がる思い出にふけていると、私とは違ってゆっくり歩いてこちら向かってくる大也ひろや君が視界に映る。


 「おーーーい!!」


 ふと、昔の記憶が蘇る。昔母もこうやってよく遠くにいる私を呼んでくれたっけ。

 

 まるで幼子の様に彼は小走りで私元へ向かってくる。


 「はい、ストーップ!」


 私はは彼の顔の前に手のひらを突き出す。寸前で彼は急ブレーキをかける。


 「な、何で!?」

 

 私は、戸惑いを表情に浮かべる彼につい笑みが溢れてしまう。次いで、

 

 「一番乗りは私!」


 そう言って公園の入り口をぴょこんと飛び越えた。

 

 そこではっと我に帰る。はしゃぎすぎなのでは無いだろうか。歳柄にもなく舞い上がってしまい恥ずかしさで段々顔が熱くなる。

 

 「えへへ、…じゃあ行こっか」

 

 なんとか誤魔化すように笑顔を作るり彼に手を伸ばす。

 恥ずかしくて彼の目を見れない!バレないで!!

      ──閑話休題──


 屋台にはたこ焼きやかき氷、焼きそばなどのこれぞお祭り!と言わんばかりのレギュラーメンバーだけでなく、ハンバーガーや野菜スティックなど普段は見慣れないものまで売られていた。


「美味しいね〜私たこ焼きすきなんだよ…アチ」


 そう言いって私はたこ焼きを口に放り込んだのはいいものの、熱すぎて食べれたものじゃ無い。口内大火傷だ、最悪。


 でも熱ければ熱いほど美味いだよこれが…


 私は屋台の食べ物が好き。幼い頃も両親に頼んでたくさん買ってもらってた。焼きそばやたこ焼き、普段なら口にする機会の多く無い食べ物を普段とは違うお祭りの雰囲気の中食べるのがとても好き。


 でも買いすぎた…

 朝ごはん食べてなくてお腹空いてたし久しぶりのお祭りってのもあって、完全に調子乗ってしまった。

 

 「屋台はいいね〜なんでも、うまいや…」

    

 さっきから、なぜか不思議そうに見つめてくる大也ひろや君に強がってみたものの、食べ切れるかかなり怪しい…


 頑張れ私、残したりなんてしたら嫌われちゃうぞ。


      ──閑話休題──


そうこうしている内に本祭開催。


 「ねぇ!色々あるよ!全部回ろう!」


 興奮が最高潮に達してしまい、本来の目的も忘れて完全に私の素顔を曝け出してしまいそうになる。それを堪えて、なんとか押し殺して、役を演じる。彼に好きになってもらえるように足並み揃えた楽しみ方を。


 スパーボール掬い、射的、金魚掬い、輪投げ、VRお化け屋敷体験…


 全部全部、彼は楽しそうだった。私が彼の表情を伺うといつでも楽しそうに、無垢な少年の様に笑っていた。


 私は自分を押し殺して、彼に彼の中の理想の私を演じ続ける。


 彼は本当に楽しそうにしている。合わせて私も笑顔を作る。

 

 笑って──

 …

 笑って───

 ッキ…

 笑って────

 ズキ…

 

 楽しいはず、そのはずなのに。何故か心が痛む。今まで見たことない程楽しそうに笑う大也ひろや君。でもその相手は私であって私じゃ無い──


─────

───


 お祭りのほぼ全てを終え、いつのまにか夕方になっていた。


 自動販売機の前で少しだけ考え、炭酸飲料と普通のジュースを買う。大也ひろや君が炭酸飲めるか分からないからどっちでもいいように。


 ガコン…


 落ちてきた缶2つを取り出す。手にした瞬間手のひらをちくりと冷たさが刺す。


 彼が待っていると行った河岸まで、なるべく缶を揺らさないようにゆっくり歩く。オレンジ色の空、直射した夕日が眩しい。


 今日はうまくやれただろうか。彼に好きになってもらえただろうか。彼の中の理想の桜田雛さくらだひなでいれただろうか。


 夕日に投影された大也ひろや君の顔は見たことがないほど楽しそうだ。私は眩しくて直視できなかった。


 これは私に向けられたものじゃ無い。私以外の、桜田雛さくらだひなに向けられたもの。


 今まで彼がこんな顔をすることはなかった。どれだけ私が可愛くても鉄仮面の様な私より、愛嬌もあって会話も盛り上げてくれて甘え上手な桜田雛さくらだひなの方が彼も好きだろう。同じ見た目なら尚更。


 心のどこかで少しだけ期待していた。もしかしたら私の素顔の方が好きって言ってくれるかもしれないと。


 でもやっぱり違った。現実そんな甘くなかった。それを知るたびに胸が痛む。


 いつのまにか、彼の待つ河岸についていた。周りを見渡すと、階段に座っている彼を見つける。


 傾いた夕日がじわじわと沈んでいく。次第に空は暗くなり、鮮やかなオレンジ色は黒く染まっていく。


 「ジュース買ってきたよ〜…はい」


 彼は普通のジュースを取る。でも手には冷たさがまだ残る。


 これから私ができるのは彼に理想の私を演じて見せること。今まで積み重ねてきた罪を償うように、またあの時のように私の素顔で嫌われないために。


 「あのさ、ひなさん。」


 優しく、それでいてどこか決心したような大也ひろや君の声。私が返す間もなく彼は言葉を続ける。


 「俺達別れよう。」


 「…え」


 心がグサリと何かに突き刺される。


 空がグッと暗く、黒くなる。視界から光が失われていく。


 カシ…

 

 思わず開けてしまった缶。開けた音でかき消して欲しかった。でも弱々しく、まるで突きつけるように、弱々しく。炭酸のくせに…

 

─────────────────────


↑のこの「─」今までずっと手で打ってたけど、コピーすればええやんと今になってやっと気づく今日この頃。


もう見直しとかできるほど脳みそ君元気ないから、誤字やおかしな所があっても脳内で補完して読んで下さい!!!!!!!

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