第13話 ラストデートの話Ⅱ

 映画を見終わった俺たちは、お腹が空いたという彼女の提案で近くのファミレスへ向かおうとしていた。

 

 「面白い映画だったね。」


 映画を見終わった後の読後感というのだろうか、なんとも形容し難いこの感情に浸っていたものの、終わってから一言も交わしていない現状に気まずさを感じ、なんとか話題を振ろうとした。が、口に出した瞬間後悔した。


 俺たちが見た映画は有名な少女漫画の実写化映画だった。少女漫画なんて全く見ない俺でも名前は聞いたことある程の有名な作品であり、アニメ化もされており、放送期間中はファンが凄まじい盛り上がりを見せていた気がする。


 しかし今回は実写化だった。となれば話が違う。男の俺でもキュンとくる瞬間は多く、話題になる理由がよく分かった。だが出演している俳優女優は全員新人らしく、演技は拙く、そのせいか作品に感情移入しにくかったり共感性羞恥を感じたりしてしまった。


 やっぱり何でもかんでも実写化すればいいってわけじゃないよな…

 

 原作を見てない俺でここまで物足りなさを感じてしまうのなら、ファン(自分で言ってた)である彼女に「面白かった」なんて伝えることはもはや失礼になるんじゃないかと思ってしまう。


 (もしかして怒ってるんじゃ…)

 

 俺は恐る恐る隣で歩く彼女の表情を確認した。しかし彼女はいつもの仏頂面のままだった。俺の気にしすぎだったのかな?なんて考えていると彼女の口がゆっくりと動く。


 「そうね、面白かった…」


 (あれ、怒ってない…ひなさん的には気にならなかったのかな?)


 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、彼女の綺麗な顔は一気に鬼の形相へと変わった。

 

 「わけないでしょ!!!!ファンに喧嘩売ってるわあの作品!!主人公が全然ぽくないし話も原作と全然違う!!!cmや公開映像見た時に嫌な予感してたけど、あんなのただの美男美女が大根芝居してるの撮りましたって言った方がまだ売れるわ!!!監督の名前はもう覚えたし、金輪際彼の作品を見ることはないでしょうね!!!!!だいたい…」


 (めちゃくちゃガチギレしてたぁぁ!!)

 

 先程までのすました様な表情、余韻に浸っていた沈黙が嘘かのように凄まじい剣幕でまくしたてるひなさんに、俺は情報が処理しきれなかった。

        ─閑話休題─


 やっとのことで落ち着き、なんやかんやあって、昼食を済ませた俺たちは駅にある雑貨店で買い物をしていた。


 シャーペンを飾ってある棚の前で物色するひなさん。手にとりノックしたり、試し書きしたり、まじまじと見たり、まるで鑑定士のようだ。

 

 (そんなに悩むかな、何か買うんだろ?)

 その様を疑問に思った俺は彼女に尋ねてみることにした。


 「何買うの?」

 「シャーペン、見りゃわかるでしょ…」

 「あ、いや、違うって、どの種類を買うの?って話。」

 「あー、ごめん。分かりにくいのよキミ。」

 (え、俺が悪いの?)

 「もう少し細かく…はぁ…」

 

 理不尽に怒られたことに疑問を抱いていると、言葉の途中で彼女は小さくため息をついた。


 「ごめん、さっきのは流石に私が悪いや。」

 (急な改心…)

 「私考えてる時に話しかけられるとイライラしちゃうタイプで、冷たく当たっちゃったごめんね。」

 「あ、うん…俺の方こそごめん…」

 「…」

 「…」


 噛み合わない会話によって流れる気まずい空気。彼女は再び品定めをするように飾られたシャーペンを見る。


 (ここで会話を切るのは流石に気分が悪い、けどまた話しかけたら怒られそうだし…)


 顔色を伺うように、しかし決してバレないように、シャーペンを探すフリをしながら彼女の横顔をちらちらと観察する。


 横からみることによって分かる高い鼻、きめ細やかなシルクのような白い肌。端麗な輪郭。一瞬でも気を抜けば見惚れてしまいそうな程美しい。って何を考えてんだ俺は!今はそれどころじゃないだろ!


 (また怒られるかも知れないけどもしかしたらアドバイスとかできるかも知れないし、それにこの沈黙が続くのがこう、なんというか心にくるというか、とにかくなんかしんどい。)


 適当に理由づけをして第n回脳内会議を強制的に終わらせると、少し重い唇を動かす。


 「あのさ、…」

 「ねぇ、これ…あごめん先いいよ。」

 (被ったぁぁぁ!!!)

 「あ、いいよひなさん先。俺のはどうでもいい話だから。」

 「あっそ、ならお言葉に甘えて。右のシャーペンと左のシャーペンどっちがいい?」


 俺は彼女が手に持って見せてきた2つのシャーペンを見比べる。片方は黒色の柄のないシンプルなデザイン、もう片方は水色に花のような模様が入った少し太めデザイン。

 

 「んー…」


 正直シャーペンなんてどれが良いとか分からない。彼女がどんなデザインや色がが好きとか知っていたら近い方を選ぶがそれすら知らない。ぶっちゃけるとどっちでも良い。

 直感的に選んだ方を指さそうと手を伸ばした、すると後方からもう一本腕が伸びてくる。


 「─誰?!」

 「─どちら様ですか?」


 俺は咄嗟に振り返った。その先にいたのは俺の最もよく知る人物──


 「母さん?!」



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 最後までお読みいただきありがとうございます。少しでもいいなと思ったら高評価お願いします。

 ちなみに大也達の見た実写映画はネットで後日叩かれまくってたらしい。

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