第12話 ラストデートの話Ⅰ

 ひなとのラストデート当日


 (よし、今日は間に合ってるな…)


 スマホの時間を確認する。そわそわとして、それを落ち着けるために、スマホを切り暗転した画面を鏡代わりに前髪をいじる。しかしそれでも落ち着くことはできず理由もなく電源ボタンを押し、時間を確認する。そしてまた切る。

 緊張をどうにか和らげるために何度も何度も繰り返す。時々変わるスマホの時間表示、刻一刻と迫る待ち合わせ時間に焦りを感じ、髪を先程より長めにいじる。


 ─トントン 「ッぴゃう!!…むぅ」


 不意に誰かが肩を叩く。俺は驚きのあまり女々しい声をあげ、振り返ると、何かが頬に当たるのを感じる。当たるというより刺されている感覚に近い。


 (引っかかった…)


 頬に当たった何かが人差し指だと認識すると俺はすぐそう思った。そしてもちろんそれが誰によるものなのかすぐわかった。

 その相手はもちろんひなさんだ。


 「よっ。」


 俺と目が合うとひなさんはニカッと笑った。

 長いまつ毛、その下に隠された大きな黒い瞳。一瞬で引き込まれてしまいそうだ。顔のパーツ全てから可愛いオーラがこれでもかという程溢れている。やはり慣れない。俺は目線を外した。照れたわけじゃないぞ。違うからな!


 「んぐ、ぐふふ」

 突然吹き出すひなさん。少し変な笑い方だがそれすらも愛おしく見える。


 「な、なに急に…?」

 「ふふふ、だって、さっきの声、アハハ!」

 「う、うるさいな!びっくりしただけじゃん!!」

 「顔真っ赤〜!アハハ!!」


 ひなさんは俺の頬を人差し指で突き刺したまま腹を抱えて大笑いする。

 なんて失礼な奴だ!

       ─閑話休題─


 「ねぇ、なんか私に言うことない…?」


 服の裾を掴んでもじもじと体を揺らしひなさんは唐突に質問してきた。


 「何かあるっけ?」


 そう返すと、先ほどまで顎を引き上目遣いで小動物的可愛らしさを纏っていた彼女の表情が一変した。『呆れた』その文字が顔に書いてあるように見える。


 「はぁ、キミ本当に言ってる?一応私キミのためにオシャレしてきたのに可愛いの一言もないの?これ前も言ったよね?」


 「ご、ごめんなさい…」


 彼女の気圧され反射的に謝ってしまった。俺は彼女に指摘され、やっと服装に目を向ける。


 白いシャツに黒のオーバーオール。一見シンプルだが、彼女の少し高めの背丈によって年齢以上に大人びて見える。

 見惚れてしまう程可愛さ。普段の彼女とは一味違う魅力。これは…


 「ありがとうございます!!!」

 「え?何急に、キモいんだけど」

       ─閑話休題─


 2人は待ち合わせ場所を離れ、映画館へ向かっていた。


 今日のデートプランはひなさんが決めてくれた。元々は俺が計画を立てようと思っていたが、今回は私が立てる!と頑なに譲らず、彼女に任せることになった。


 決して弾むことのない表面的な会話。しかし彼女と2人で歩く街の景色はいつもより鮮やかで綺麗だ。

 すれ違う何人もの男子が彼女に見惚れているのがわかる。その度に感じる優越感、それと同時にどこか寂しさを覚える。この関係は今日で終わる虚偽の関係。明日からはまた赤の他人のように、接することなく生活するだろう。手放したくないと思うが、勇気も行動力も俺にはない。

 惨めだな、俺って。

 なんて1人でしんみりしているところ、


 「ねぇ、あんt…キミはどっちの私と一緒にいたい?学校の時の私と、普段の私。どっちがいい?」

 「どういうこと?」

 

 突然の質問の真意が理解できず反射的にそう返してしまった。

 すると彼女は少し苛立ちを含んだ声で「いいから答えて」と言う。


 どっちがいい…そんなこと考えたこともなかった。確かに学校と今日のような普段の彼女とでは性格キャラが全然違う。しかしそのどちらも彼女の魅力であると、少なくとも俺はそう思っている。そこに優劣はつけられない。

 しばらく考えて、結論を出した。


 「んー、正直どっちでもいいけど普段のひなさんの方が慣れてるからそのままがいいかも。」


 そう言うと彼女は少しあっけに取られた表情を浮かべたものの、すぐさま前を向いて、いつもの淡白な無表情に戻った。


 「…物好きね」ボソ

 「なんか言った??」

 「は、はぁ?独り言なんだけど、聞かないでくれる、キモいから。」


 おーん…やっぱ学校の時の方が良かったかも…



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 最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでも良いと思ったら高評価お願いします。


 久しぶりの更新。また途絶えるかもしれないけど、書いてて楽しかった。

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