第11話 返信は大変だの話

 大也ひろやと別れた小清水千夏こしみずちなつは電車の中にいた。


(胸がまだドキドキしてる…揶揄からかうつもりとはいえらしくないことしたかも…)


 胸にてお当てると押し返すように強く脈打つ心臓。体が火照っている、頬も紅潮してるのがわかる。


 夕日の中の自分の行動、自分がなぜそんなことしたのか理由は分からない。


(でもあの顔、ふふ…)


 耳まで真っ赤になった大也ひろやの驚いた表情を思い出すとクスッと笑ってしまう。


 不意に千夏ちなつの脳内に流れた記憶。ひなと話している時のものである。


雛 『─で、罰ゲームの相手誰にするの?』

千 『んー…あ!あの子、広山クンなんてどーかな?』

雛 『なんでよ?』

千 『それは──』


(理由はまだ言えないや…)


 千夏ちなつはイヤホンを取り出し、耳につけ、好きな曲を流した。音を閉じ込めるように──


 

 帰宅した大也ひろや


「ただいまー」


 義務化された文句をやる気なく言い終えると、リビングの方から「おかえりー」と返ってきた。母の声だ。


 いつもならリビングに直行するが、今は雨に濡れた後、しかも中途半端に時間が経っているため生乾きのようになっており、とにかく気持ち悪くて仕方がない。


 大也ひろやは靴を乱暴に脱ぎ捨てると急いで風呂場へ直行した。


 ─ポロン♪


 突然通知音がしたスマホを、服を脱いで風呂場の扉を開けようとした大也ひろやは手を止め、(タイミング悪いな、もう…)と愚痴をこぼしながらも確認した。


 『新着のメッセージが1件あります。』


 「LIONEにメッセージ?誰だこんな時に?」


 LIONEとはメールアプリであり、先程の通知音は誰かが送った大也ひろやへ宛てたメッセージを受信した合図だ。


 通知の内容を知った大也ひろやは一つ疑問を抱いた。

 大也ひろやにLIONEでメールを飛ばす人は限られており、その中で頻度が高いのは家族、和人かずと鈴木拓也すずきたくやの3人(?)である。和人かずと拓也たくやは今の時間部活で忙しくメールなんて飛ばす暇もないだろう、家族はそもそも大也ひろやが今家にいるのだからわざわざメールを送るなど考えにくい。


(本当に誰だ…父さんか?)


 1番可能性が高い、仕事中の父を挙げてみるも、それも多分違うだろう、とすぐさま否定し、考えあぐねながら、アプリを起動し正体不明のメールを確認する。


 そこには驚くべき名前が書いてあった。


 ひらがなで表記された『ちなつ』の3文字、隣に表示される『追加』の文字。


「こ、小清水さん?!…っぶね!!」


 驚きのあまりスマホを投げそうになるところをギリギリで踏みとどまる大也ひろや


 おそるおそる『追加』のマークを押す。


『一応よろしくね〜』


(あばばばば…なんて返せばいいんだぁぁぁ!!!)


 たかがメール、されどメール。女子耐性皆無の大也ひろやからすればテンパってしまうのに十分すぎる要因になる。


(こ、ここはまず気持ちがられないように無難な返しを。でも敬語だと距離置こうとしてぎゃくに失礼なんじゃないか?でもタメ口だと馴れ馴れしくしてきてキモいって思われそうだし…うぉぉぉぉ!!どーすればいいんだぁぁぁ!!!)


 たった一言に四苦八苦。そして──


「よ、よし、これでいいよな?─送信っと─」



─ポロン♪


 「お、返ってきたかな?」


 電車から降りた千夏ちなつは家まで歩いている最中、通知音の鳴ったスマホを制服のポッケから取り出す。スマホの電源をつけ、ロック画面に通知の内容が映し出させる。


 「くふふ、なんて返ってくるかな〜」


 ニヤニヤとイタズラな笑みを浮かべる。


『よろしくおねがいいたします。』


「あはは、なにこれ固すぎでしょ。普通によろしくだけでいいのに〜。」


 大也ひろやのあまりにも固すぎる長考メールを見て思わず笑ってしまった千夏ちなつ


 「あ〜おもしろ!──よし、次はなんて返ってくるかな。」


 イタズラな笑みを浮かべて送信ボタンを押す。


同時刻広山ひろやま家風呂場。


 「ぎゃぁぁぁぁ!返ってきたぁぁぁ!!!!」


 そりゃ、返ってくるだろ。

─閑話休題─


入浴を終え、タイミング良くできた夕食を姉、母と共に食べている大也ひろや


「ねぇお母さん、大也こいつなんであんなニヤニヤしてるの?」ヒソヒソ

「知らないわよそんなの。」ヒソヒソ


 コミュニケーションに四苦八苦したものの初めての女子とのLIONE、その嬉しさが抑えられず溢れてしまった結果がこの気持ち悪い笑みである。それを母と姉はこそこそ話をしながら心底気持ち悪そうに睨んだ。


姉 「ずっと無言でご飯食べてるし、本当に何も知らないの?」

母 「風呂出てからこーなのよ。」

姉 「てことは顔見てからずっとこれ?」

母 「そう、そもそもあんたもご飯の準備してたから私と同じでしょ。」

姉母「「ほっんとキモいわ〜」」

大「ひどくね?」


 流石にライン超えだった。


─閑話休題─


────────

─────

──


 これといった特別なこともなく毎日は過ぎていき、ついにひなとのデートの日になった。

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