第8話雛の友人の話

 昼休み、それは学生にとっての貴重な休息時間。教室全体でガヤガヤと騒がしく、かくいう大也ひろやも親友の和人かずとと駄弁っていた。


 「そーいえば鈴木は?」

 「昨日から喉やったらしいよ」

 

 こんな感じの当たり障りのない会話を続けていた。ちなみに鈴木、鈴木拓也すずぎたくやは、入学式の日大也ひろやと席が隣になり、趣味が合うということで意気投合し、今では和人かずと程ではないが親しい良い友人である。


 そうこうしていると教室のドアが開き、どこかで弁当を食べていたのだろう、ひなとその友人含めて3人が帰ってきた。


 そこで大也ひろやはある疑問が浮かぶ。


 (ひなさんって告白とか諸々は罰ゲームでさせられてるんだよな?てことはあの2人の中に犯人がいるかもってことになるのか?)


 ひな大也ひろやに告白したのは罰ゲームが理由である。つまりひなに罰ゲームを課した人物がいるわけだ。そして、そんなことできる人間はかなり親しい仲でないとできない。

今しがたひなと共に帰ってきた女子生徒2人はよく雛と一緒なことが多い。つまり、黒幕の可能性が1番高いわけだ、容疑者と呼んでもいいだろう。


 しかし、ここで大也ひろやの頭を悩ませる事態が発生する。それは、容疑者2人の性格や人間性について大也ひろやは全く知らないことだ。

 

 どちらの人間性も知らないため、どちらが黒幕の可能性が高いかなど判断できるはずもない。そもそもひなと親しい友人がそのような事をするとはあまりも考えにくい。


 そこでふと大也ひろやは気づく。


 (こいつなら何か知ってるかも。)


 「なぁかず、1つ質問いいか?」

 「なんだよ?」

 

 「お前、あの2人の中で罰ゲームとか好きそうな方どっち?」


 大也ひろやが指差した先を和人かずとは見る。


 「何その質問。知らねー、あんま喋った事ないし。俺なんかじゃ近づけねーよ。」

 

(イヤミか貴様!!!)

 鬼の形相が大也ひろやの顔に浮かび上がる。


 「でも、そーだな…強いて言えばあっちの小清水、小清水千夏こしみずちなつかな?」


 そう言って和人かずとは茶色がかった髪を腰まで伸ばした女子生徒を指差す。勿論それがひなの友人の1人、小清水千夏こしみずちなつだ。


  「小清水こしみずさんか…」


 品定めするように小清水千夏こしみずちなつを眺める大也ひろや


 「てか、何?ひろは気でもあんの?…っておい、聞いてんのか?」


 隣でなにやらごちゃごちゃ言っているのは聞こえていたが返答することなく、大也ひろやは考え込んだ。


 (小清水こしみずさん。この人が犯人かもしれない、今度問い詰めて…あ、俺、そういえば女子と話せないわ。どうしよ…)


 典型的弱者男性。犯人探しは一筋縄ではいかないだろう──


───────────

───────

───


 「おい、マジかよ。」


 時は過ぎ、下校時刻。

 生徒玄関で大也ひろやは立ち尽くしていた。


 「雨降るなんて天気予報なかったぞ。だいたい…」


 ぶつぶつと文句を言いながら、折りたたみ傘を探す。しかし見つからない。


 (走るしかないか…)


 最悪の決断だが、勢いよく降り続く雨は当分止みそうにない。幸い大也ひろやの家は歩いて10分程の位置にあるため、走ればある程度被害は抑えられるはずだ。


 (でもなぁ濡れたくねー。)


 雨に濡れるのは本能的な嫌悪感がある。濡れないで帰れるのならそうしたい。


 止みそうにない雨、ない傘、早く帰宅したいと急かす気持ち。何度かの逡巡の後、大也ひろやは覚悟を決めた。

 体操服袋で頭を覆い、スタンディングスタートのポーズをとる。


 (ここから家まで全力で走れば8分ちょい。)

 足に力を込める。

 (なるべく濡れずに、よし!ダッシュだ!!!!)

 右足が地を蹴る。大也ひろやの全力ロケットスタート──

 

 「──ストーップッッッ!!!!」


 を決める大也ひろやを背後で誰かが呼び止める。

 大也ひろやは不意なことに驚き、出かけていた左足を止める。しかし、慣性に背中を蹴られ上半身は空中で取り残される。


 (あ…)

 「あ…」

 バターーン!!


 激しく地面と衝突する大也ひろや。同時に走る激痛。


 「わわわ、大丈夫?!カットバンあるから!治したげる。」


 大也ひろやを呼び止めた女子生徒は慌てて、擦りむいたであろう膝を押さえて悶える大也ひろやに近づく。


 それに気づいた大也ひろやも、慌てて女子生徒を止めようとする。


 「あ、いえ、これっくらい大丈夫です、よ…」


 そこまで言いかけて口は開いたまま言葉が途切れた。目の前でバックに手を突っ込んで絆創膏を探す女子生徒。茶色い髪をまっすぐ伸ばし、シュッとした小顔に切れ長の目を持ったクールな印象の女子生徒。


 「こ、小清水こしずみさん?!」


 目の前にいた女子生徒は小清水千夏こしみずちなつだった。驚きのあまり思ったことをそのまま言葉に出してしまった大也ひろや

 急に名前を呼ばれた千夏ちなつは一瞬きょとんとするが、すぐに彼女の象徴でもある明るさを表した笑顔を浮かべ、


 「はい、呼ばれました!私が小清水です!!!」


 敬礼のように、右手を右目の眉あたりに当ておどけてみせる。


 偶然か必然か、罰ゲームの犯人を聞くにはこれ以上ないチャンスが訪れた。大也ひろやは聞き出すことができるのだろうか…



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少しでもいいなと思ったらハートやコメントよろしくお願いします!


新キャラの追加になると、必ず起こる「名前何しようか問題」。私は人の名前を覚えるのが極端に苦手なので時々雛や大也のことも忘れる時がある。なるなら名字は毎回1話に戻って見てる。

これ以上キャラを増やしても大丈夫なのか…

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