第7話価値の話
─パシっ!
突然掴まれた右腕。驚き咄嗟に振り返る
細くそれでいて女性的柔らかさのある腕を掴んだ
「も、もう一度。もう一度デートいきませんか?」
「へ…?」
予想外の発言に
「俺にとって今日のデート初めてだったんです。以前の俺はデートなんて縁もゆかりもなくて、だから今日めちゃくちゃ楽しかったんです。」
『デート初めてだった』…
(こいつにとっての初めてのデートを私は2回も…)
その先の言葉を理解していても、脳内であっても口に出すのが怖かった。
「急に何言ってんだよってなりますよね…俺だけが舞い上がって、楽しい思いして、
(謝る…?あなたは悪くないでしょ。)
「ごめんなさい…」
(謝らないで、顔を上げて…悪いのも謝るも全て私の方だから。悪いのは私、あなたの初めてのデートを2度も壊した私が悪いの。その上楽しかったなんて言って、全部自分が悪いみたいに背負おうとして…)
「ほんとに、ごめんなさい…」
「─なんなの…」
無意識のうちに
「あなたは悪くないのに全部自分が悪いみたいに言って。悪いのは全部私なの。頭下げるのも、ごめんなさいを口にするのも私の方なの。」
「で、でも俺だけが今日楽しんで…」
「な訳ないでしょ!今日のデートが楽しいわけないわよ!高い物買わせて、ご飯代も出さない、その上あなたの見た目に文句までつけて…こんなのが楽しいわけないじゃない…。」
自分で言葉にして改めて認識する、今日というたった1日で犯してきた罪の大きさに。口に出し、認識するうちに涙が溢れて止まらなくなる。
(だめ。泣くのは私じゃない。止めなきゃ止めなきゃ。)
流れる涙を拭えど拭えど止まらない。涙で歪む視界、拭うために視界を遮る腕。
泣いて許しを乞うように見えたら殴ればいい、散々に罵ってくれてもいい。あなたにはそれが許されるだけの権利がある。私はそれを受ける罰がある。
「泣かないで下さい。」
急に右目の視界が明瞭になる。
明瞭になった視界、至近距離まで近づいた
「楽しいはずがないなんて悲しいこと言わないで下さい。俺はほんとにほんとに楽しかったんです。あのピアスもご飯代も…」
そこまで聞いた
中から覗く苦い記憶。
『お前にそれだけの価値はない…』
「僕なんかの隣に
その言葉を聞いた瞬間、
記憶のタンスは勢い良く閉まり、代わりに光が差した。温かく心地の良い光。
気づけば涙は自然と収まっていた。
「──分かった。もう一度デートに行きましょう。」
「へ?」
「へ?って。キミが提案してきたでしょ。いいわよ、行きましょ。今度はちゃんとデートに。」
「いいんですか?!」
驚きを隠さない
「キミが誘ってきたんでしょ。私の
──────
──
帰宅した
「あの人にとっての私の価値…」
そう口にこぼし、少しいつもより荒めに頭を洗った。
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