第5話デートの物語Ⅱ

 ひなから大也ひろやに提案した今回のデート。提案した理由はひなが友達から強制されたから、そして大也ひろやへの謝罪と償いを込めているから。しかしひなにとって今回のデートはもう一つ別の意味があった。

 それは、大也ひろやに嫌われれるためだ。


 勿論嫌われたからといって、それを口実に大也ひろやをいじめたり、孤立させたりしたいわけではない。むしろ彼女なりの配慮からこのような考えに至ったのだ。


 1ヶ月間つまり残り3週間程経てば2人は別れてしまう、これは変えられない事実。

大也ひろやがこのまま自分のことを好きでいて、期限を迎えてしまったら必ず彼の心を傷つけてしまう。だからあえて大也ひろやにはひな自身を嫌いになってもらい、別れた後の心へのダメージを軽減しようという彼女なりの優しさだ。


 そのためひなは『嫌われる女』を色々勉強してインストールしてきた。


 (今日はぜっっったいあんたに嫌われてやるから!)


 ひなは両手のひらをグッと握ると、挑むような目つきで大也ひろやを見る。その目線の先にある大也ひろやはというと─


 (やっぱひなさん可愛いな…すれ違う人全員彼女のこと振り返ってるし)


 雛《ひな》が何を考えてるのかなんて見ず知らず、呑気にそんな事を考えていた。


──デートプランを決めてなく、これといってしたい事も無かった2人は、妥協案としてショッピングモールへ向かって歩いていた。

 

 特に喋りたい話題もなく、2、3回のラリーで終わる表面的な浅い会話をしている中、ひなは気づいた。自分が車道側で歩いているということに。これ見よがしにとあることを企む。


 (いいチャンス!紳士的対応を強要するクソ女ムーブをすれば好感度ダウンだわ!)


 「ねぇ…」

 「あ、ちょっと待って。」


 作戦を実行するために口を開いたひな、しかし大也ひろやはそれを遮るように急にしゃがみ込んだ。


 状況に困惑し出しかけた言葉が行く先を探すように口をパクパクさせるひな。一方の大也ひろやは片膝をついて靴を何やらいじっている。


 (あ〜靴紐ね…解けたのかしら。)


 大也ひろやの行動の意味を理解し、結び終わるまで待っていようとしたひなだったが、ある違和感に気づく。


 (靴紐、解けてないじゃない?!)


 靴紐を結ぶ動作を装うように指先を動かす大也ひろや、しかし肝心の靴紐はがっちりと結ばれたままだった。


 (何がしたいの…?)


 ひな大也ひろやの行動の意味を理解し難く、困惑の目をに向ける。

 

 しばらくもしないうちに大也ひろやは立ち上がり、「ごめんごめん」と軽く謝罪を述べると、一歩前で怪訝な表情を浮かべているひなの隣へ歩を進めた。ひなと車道の間に体を入れ込むように。


 ─ッ?!


 その瞬間ひなの脳内で雷が落ちた。直前の体を入れ込むように隣に並んだ大也ひろやの行動を見て、今まで自分が困惑していた状況の答えを全て悟った。


 (こ、こいつ靴紐を結ぶと見せかけてさりげなく女子を車道側から遠ざけた。女子に気を遣わせないためにあくまで自然な流れで行えるように…)


 恐ろしく早い解説。つまり


 (これじゃあ作戦失敗じゃない!)


 (こんなんじゃ終わらないわ、絶対に今日は嫌われるんだから!次ッ!)


 今回の勝敗、ひなの負け──



 ショッピングモールに着いた2人はひなの意向で、ピアスや指輪などの小物系アクセサリーの店へ入った。


 「ひなさんこんなの着けるの?」


 目の前にズラリと並ぶキラキラと金属光沢で輝くピアスや指輪に目をやられながら大也だいやは尋ねる。


 「あんまつけないけど、てか着けたら何か悪いわけ?」

 

 手に取ったピアスを耳に当てながらひなは淡々と答える。


 「あ、いや、別に。ただイメージないなって。ひなさんの耳に穴も空いてないし。」


 大也ひろやの慌てた弁解にひなは大きくため息をつく。


 「今は穴あけなくてもいいやつもあるの。」


 「そ、そうなんだ…欲しいなら買うけど?」

 

 大也ひろやのその言葉を聞いた瞬間ひなはある策を思いつく。


 (ここで高い物を要求すれば、好感度ダウン間違いなしね!)


 「─なら私、これ欲しいんだけど」


 大也ひろやひなが指差した先の商品の値段を見る。その瞬間大也ひろやは凍り付く。

 そこには周りとは文字通り桁違いな数字が載っていた。高校生のお小遣いにはかなりの痛手だ。

 これを見たひなはニヤリと怪しく笑い、悪魔の尻尾をふりふり振る。

 (流石にこれは買えないし、こんな高い物を買わせようとする女なんて嫌いになるに違いないわ)


 確認するためだろうか財布を取り出そうとしている大也ひろやひなは悪魔の様な笑みを浮かべて眺める。

 

 (流石に高すぎるから買ってもらいはしないし、そもそも断るでしょこれ。)

 

 「分かった買うよこれ。」

 「え?」


 大也ひろやの意外な発言に驚きを隠せないひなは数秒フリーズしてしまう。そのうちに大也ひろやはすたこらと指定された商品を手に取り、レジへ向かう。


 「─ちょっと待って!!!買わなくていいから!!嘘だから!!」

 (ダメダメダメ!流石に高すぎるから買ってもらうのは罪悪感が凄く凄いことになっちゃう!!)


 正気を取り戻したひなは必死に大也ひろやを止めにかかる──

 

 

 「──あ、ありがとう…」

 結局買ってもらった。

 

 (こんな高い物買ってもらっちゃったじゃない!!次よ次ッ!!)


 今回の勝敗、ひなの負け。

 波乱のデートはまだまだ続く

 

 

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