第3話体育館裏

 『えぇぇぇぇぇぇぇ!!!』


 クラスのほとんど、主に男子は困惑、驚愕、邪推、色々な物が籠った声を上げた。


 放課後。


 ひなに言われた通り、大也ひろやは体育館裏に向かった。


 (なんなんだよ。あんなみんなの前で言いやがって。断れねぇじゃねーか。)

元々断る気はなかった。


 ぶつぶつ頭の中で言い訳を探している内に体育館裏に着いた。

 雛はもう先に着いて待っていた。


 雛は大也に気づくと周りをキョロキョロし、駆け寄り、拳一つもない程に肉薄して

「大也くん誰も連れてきてないよね?」

と破壊力抜群な上目遣いできいた。


 (近いしか、かわいい…)

 雛の攻撃力に負けた大也。それでも平然を装い「誰も。」と言う。


 「はぁ…ならいいわ。」


 雛は大きくため息をつくと、大也から数歩離れた。


 「こんなとこに呼んで何か用?」

 シチュエーションとしては、あの時の告白と同じだ。少しの期待が大也の胸を昂らせる。

 

 「用かー。用というか文句と話があるわ。」


 「も、文句…」


 大也の少しの期待、多分終了。若干の昂りを持って普段より幾分か激しく脈を打つ虚しさを飲み込み大也は続ける。


 「それで文句ってのは…なんか悪い事しましたかね?私…?」


 雛の圧に負けたのか何故か敬語になる大也。雛はムスっとした表情を浮かべると、大也を睨みつけて、返す。

 

 「したわよ。あんた私のこと見過ぎ。バレたらどうするのよ。」


 「いや、それだけでバレるわけないだろ!そもそもそんなに見てねーし。」

 

 「はぁ、これだから…。いい?男がどこ見てるとか女子からしたらバレバレよ。」


 「マジかよ?!」

 「ったりまえよ。」

 (全国の男子へ、我々の欲望は筒抜けらしいです。大也より)

──閑話休題──


 「まぁいいわ、こっちが本題。」

 「まだあるのかよ…。」


 先程の会話で、当てつけとも言える理由で理不尽に怒られ、知りたくもなかった真実を突きつけられた大也にとってはこれ以上は耐えられない。


 「大丈夫、あんたからしたら嬉しい情報だから。もっかい行くわよ、デート。」

 (本当か?!)


 雛の意外な提案に驚くと共に大也完治。先程まで虚しく弱々しかった鼓動は再びエンジンをかけた様に、唸りを上げ打ち始めた。


 「勘違いしないでね、友達に行けって言われたやつだから。ま、あなたからしたらこんなかわいい子とデートなんて嬉しいでしょ?」

 (ですよねー)

 再び打ち砕かれた大也の期待。大也は魚のような死んだ目で、傲慢発言をし鼻高々に誇った表情を浮かべる雛、ではなくその遥か後方の空を無表情に眺めた。


 「…ねえ。なんとか言ったらどうなのよ。ってどこ見てるの?おーい。」


 自分の発言が小っ恥ずかしくなった雛は、大也に応答を求めようと、生気のない瞳をして、冷たい石像になったようにように動かない大也の目の前でぴょこぴょこと跳んだり、手を振ったりする。

 それでも微動だにせず反応のない大也。次第にイライラしてきた雛は右手を大きく振りかぶり──

 

 「─んもう!話きいてんのって!」

 パシィィィィィ!!!


 雛の渾身のビンタが大也の頰に鋭い破裂音と共に炸裂する。

 

 (流石に目覚ますでしょ…は、反応なし?!)


 それでも動かない大也。


 「ほ、本当に死んでるわ…」

 驚きや疑心を感じそう口にしながら、大也の赤く腫れた頬にもう一撃お見舞いした。特に理由もなく。

──閑話休題──

 

 結局生き返った大也。


 「ねぇ、聞いてた私の話?」

 「ご、ごめんなしゃい。きいてましぇんでした。」


 腰に手を当て上半身をぐっと前へ乗り出すご立腹な様子の雛、涙目で腫れた頬を手で押さえながら謝る大也。まさに泣き面に蜂である。

 

 「はぁ、もう一度言うからちゃんと聞いててよね。」

 

 雛はため息混じりに人差し指で大也の胸を強めにつく。怒った蜂は1度だけでは飽き足らず2度刺してきた。


 「もう一回デート行くわよ。勿論友達にやれって言われただけだから。」


 (うわぁ…苦い思い出がぁぁ…)

 脳に浮かび上がる苦い苦い初デートの記憶。無意識のうちに考えていたことがそのまま顔に出てしまう。


 「何よ、その顔。私だって嫌よ。いい?あんたはあくまでデート側なの。喜びなさいよ。」

 真顔でまたもや傲慢な発言をする雛。

 

 「で、でもどうせまた帰るんでしょ。」

 雛の機嫌を伺う様におどおどとしながらも返す大也。


 「なによ、嬉しいでしょ?」

 右手を構える雛。

 「う、嬉しいです…」


 雛と大也完全に上下関係が出来てしまったようだ。


 「これで話は終わりだから解散ね。」

 

 そういうと雛は大也をかわし、そのままそそくさとその場を離れようとする。相変わらず素っ気ない。

 この関係も今回のデートも偽りが真実であり、彼女にとっては以外の何者でもないんだ。と現実として受け止めざるを得ない。

 小さな事で舞い上がって「もしかしたら」と、まるで自分が彼女と同じ目線で、彼女の視界の中に入れているのかもと思ってしまった自分がどうしようもなく馬鹿馬鹿しく感じる。


 (その角を曲がれば見えなくなる…)


 ちょっとばかりか足早に体育館の角つまり大也の死角、に向かいこの場を離れようとする雛。大也はそれをただじっと見ていた。


 ピタッ──


 しかし、あと一歩で完全に大也の視界から消える、その寸前で雛は歩みを止めた。

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