第2話憂鬱な月曜日
憂鬱だ…
そう思いながら
大也は最後列の窓際の自分の席にどかっと腰を下ろし、特に理由もなく外を眺めた。
「よっ!…隣、まだ来てないよな?」
少年はそう言って大也の隣の席に腰を下ろした。名前は
「…おはよう。」
大也は和人の方をチラッと見てから、覇気のない声でそう言うと、再び外を眺めた。
「なんだよ、元気ないな。おーい。」
大也の様子を訝しんだ和人とは、どうにか気を引こうと大也の目の前で手をパタパタと振ったり、何度も背中を叩いたりした。
最初は無視していた大也だが、次第に煩わしくなり、やめさせるために和人の手を振り払おうとした瞬間、時が止まった。
ガラガラ…
少々建て付けの悪いため開けると音がしてしまう教室のドア。その雑音すら、彼女の前では登場を意味する鐘の音となる。理由もなくただ音のする方を向いた者、彼女が来たことに気づいて向いた者、男子だけでなく女子までも、彼女に釘付けになった。
彼女の登場によって訪れた時が止まったかの様な一瞬の沈黙。しかし彼女はそれに気づいているのかいないのか、黒い髪をサラサラとなびかせ、黙々と自分の席へ向かった。
「…やっぱ雛さんレベチだな。今日もかわいいもん。」
雛に魅了され、動きを目で追いながら和人は口から言葉をこぼす。釣られて大也も雛をついつい目で追ってしまう。
席に着いた雛の周りには早速女子達が集まって、団子状態になっていた。中心部にいる雛は花の様な可愛らしい笑顔を振り撒きながら、友達と楽しそうに会話している。
その様子を男子達は全く気にしていない様子を装いながら、羨ましそうにチラチラと見ていた。その輪の中に男子のはいる隙間はないようだ。
「あんな子と付き合えたら最高だろうな。人生薔薇色だぞ。」
「?!…そ、そうだな。」
(本当ならその最高を味わえてたんですけどね!この僕が!)
和人の突拍子もない発言に、今絶賛治療中の心の傷を抉られた大也は、嘘告白に一瞬でも舞い上がった羞恥心と、それが嘘だと知らされた絶望感を思い出し、頭を何度も机にぶつけた。
「だ、大丈夫かお前?」
「そう思うならもっと心配してくれてもいいだろ!」
綺麗な逆ギレである
「なんだよ悩みなら聞くぞ?金は取るけど。」
「取るのかよ!」
(取らなくても言えねーよ!)
雛から告白された直後、大也は和人に自慢することを考えていたが、結局機会がなく、しなかった。もし自慢していて、嘘告白だとバレでもしたら…
「嘘告白?!アッハッハ!!お前が相手にされる分けないだろ。」
ゲラゲラゲラゲラ
(いやぁぁぁぁぁ)
和人に笑い者にされてしまう。それだけは避けなくては。
先日雛にこの事をバラさないようにと釘刺されていたというのもあり、周りに知られていない今の状況は大也にとって不幸中の幸い、唯一喜べるところである。
「…付き合いたいって、お前ならいけるんじゃねーか。」
「なに?俺のことそんな風にみてくれてんの?」
「一般的に見てだよ。」
高校に入ると同時に始めたセンター分け、スラっと高い背、白味がかった綺麗な肌に高い鼻。毎日顔を合わせている大也ですら時々羨ましく思ってしまう程の整った韓国俳優風の顔。大也の言う通り、世間からしても『お似合い』と見られても全くおかしくない。
(俺がお前くらいイケメンならワンチャン嘘じゃなかったかもな…)
嫉妬の籠った目で半ば睨む様に和人の顔を見る大也。しかし当の本人は雛に夢中だった。
「雛さんのいいところはあの清楚なところだよなー。」
再び和人は見惚れながらそうこぼす。大也も再び言葉に釣られて雛を見る。
笑う度にサラサラと揺れる黒い髪、長いまつ毛の下にはくりくりとした大きな黒い目があり、高い小さな鼻、少し小ぶりな口、それらが小さな顔に黄金比で配置されている。どこを取っても欠点のない顔。
彼女の一挙手一投足から香る雰囲気は氷できた花の様に透明感のある美しさがあり、それでいて触れるのを躊躇ってしまう程の儚さすら感じさせる。
『私学校じゃそういうキャラじゃないから。』
先日の雛の言葉が納得出来てしまう。正に淑女そのものだった。
(やっぱかわいいな…)
雛の顔を見ている内に段々と先日のことなどもうどうでも良くなってきてしまう。
(い、いかんいかん。あの女は腹黒性悪女だ。騙されるな。)
我に帰って大也はサッと目を逸らすように再び窓の方を向き、外を眺めた。
窓にうっすらと映る自分。
軽くクセの着いた天パ。大きくもない瞳に少し潰れた鼻。どこを取っても欠点だらけの決して褒められるようなものではない顔。2人の顔を見た後だとため息が出てしまう。
「また外見てるし、そんなに外が気になるのか?」
「別に。」
「今日は曇りだってよずっと。この前までこの先は当分晴れみたいなこと言ってたのにな。」
(天気も俺を馬鹿にしてくるのか…)
2人の間に流れたしばしの沈黙。勿論特段盛り上がる事が無いから会話してないだけである。
「…ねぇ」
沈黙を破る声。数瞬遅れて大也は声のした方に目をやる。
そこに立っていたのは雛だった。
驚きのあまり言葉を失った大也は口をパクパクとさるしかなかった。
「ねぇ、放課後時間ある?」
透き通る様な優しい声色。頬をほのかに赤く染め、両手指は忙しなく絡む様にもじもじとさせていた。
「な、何?」
大也はやっとの思いでたった2文字だけを絞り出して返す。
「な、内緒。」
雛は照れた様に目を逸らす。その仕草がたまらなくかわいい。
(ちくしょう、かわいい…でもどーせ罰ゲーム関連の事なんだ。次は断ってやる!「やだ」って言え!漢をみせろ!大也!)
大 「や、…」
雛 「だめ…かな?」
大 「いいです!」
漢大也、無念の敗北。男は時には正直な者だ。
(うぁぁぁ助けてくれかず!俺この子のこと好きになっちまうよォォ!!)
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