ベタな恋愛物語

はっこつ

第1話プロローグ

 暑さの残る9月。夏休み明けの体育祭の準備中。僕こと「広山大也こうやまひろや」は体育館裏に呼び出されていた。

 

 そして今しがた表情を強張らせ、僕の目の前で顔を赤くしている女の子は「桜田雛さくらだひな」。整った顔立ちに、大きな二重の瞳。肩のあたりで切り揃えた黒髪は日に照らされ、1本1本が輝いていた。まるで絵本から出てきたかの様な、俗に言う超絶美少女。


 「ど、どうしたの?急にこんなとかに呼び出したりなんてしてさ。」


 緊張してか中々言葉を発さない雛を気遣うように大也は、頬を掻きながら照れ臭そうに言う。


 今思えばきっかけは奇妙で、なんでこんなクラスでも1番人気のある娘が自分なんかをって疑問を持たないことを不思議にかんじる。


 「…えっと…大也さん!好きです付き合って下さい!!!!」


 勢い良く腰を折り、ダイナミックお辞儀をかますとともに、震える声で、それでいてはっきりと聞こえる声で大也の名を呼び、好きと口にする雛。

 

 この時は何考えなかった。考えれなかった。その時まで1度も自分を好きだと言ってくれる女性は1人としていなかった。それもこんなに可愛い子なんて。今でも即オッケーしてしまうと思う。


 「こ、こちらこそよろしくお願いします…ひ、雛さん…」


 高校生活1年目の夏にして、始まった甘酸っぱい高校生ライフ。大也にとっては目の前の景色は色とりどりに輝いて見えた。


(夢の彼女ありの高校生活。しかもクラスで1番可愛いと噂の雛さんなんて!僕の薔薇色高校生ライフ!!!)


 告白直後の大也はこの様な能天気なことを考えていた。その後あんなことが起こるとも知らずに…


 土曜日。今日は大也の初デート。慣れないワックスでヘアアレンジ。ジーンズにTシャツ、その上にカーディガン。背伸びをした大也の精一杯のおしゃれ。


 「よし、初めてのデート。頑張れ俺!ファイオー!!!」

 「っるっさい!!大!!!」

 「ご、ごめんて母さん。…言ってきまーす!」


 朝早くから母に怒られた大也。いつもなら大也も言い返すが、今日はそれすらどことなく気持ちよく感じる。なぜなら今日は初デートだから。初デートなのだから!

 

(絶対楽しませるぞぉ!雛さんのことを!)


 勢い良く大也は玄関を飛び出した──


 「─あれ罰ゲームだから。ごめんね。」

 「え…?」


 集合場所に着いた大也は口をぽかんとあけ、停止していた。朝の元気も勢いももうどこにもない。


 「え、で、でも、き、今日…」

 「今日は友達がデートはしろって言うから。罰ゲームの延長線。」


 やっとことで噛み噛みながらも口を動かす大也、それを焦ったく感じたのか大也の言わんとすることを察して、被せる様に淡々たした口調でアンサーを出す雛。

 

 時間が経つにつれて段々と状況を理解したいく大也。大也はそれでも縋るように雛の顔をじっと見つめる。壁にもたれかかった雛の視線はスマホへ向けられたまま。

 2人の目が合うなんて事はない。素っ気ない雛と一方通行な大也。


 「よいせっと、帰るから私。言っとくけどこの関係は学校で話すの禁止ね。私学校ではそういうことするキャラじゃないから。学校でも私と関わるの禁止ね。それに罰ゲーム期間は1ヶ月間だから、過ぎたらすぐ別れる。じゃあね。」



 「え、ちょ、ま…」


 雛は怒涛の様な勢いで、それでいて淡白に、ゲームのチュートリアルぽく説明すると、ツカツカと帰ってしまった。

 大也は狼狽えながら、小さくなっていく彼女の背中を見ることしかできなかった。


 雛が見えなくなってから数秒間、大也は時が止まったように動かなかった。

 

 (ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!)

 大也は突然地面に膝を突き、頭を抱え、天を仰ぎ、叫んだ。まぁ実際には人目を気にして声は出さなかったが、心の中ではそれはそれは絶叫した。


 (俺の…俺の薔薇色高校生ライフがぁぁぁぁぁぁ!!!…)


 淡い期待を抱いた幸せの薔薇は、花開く前に枯れ、花びらを地面へと落とした。


 この物語は僕がカメラマンで、登場人物。主演は桜田雛。


 そうだなぁ題名かぁ…

 うーん…

 …あ、よしこれにしよう。


 この物語は冴えない僕と高嶺の花との出会いから書いた物語。

 『ベタな恋愛物語ラブストーリー




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