第7話 クラス

 ———場所は変わって体育館前。

 新入生一同が我先にとクラス表を見ようとごった返していた。


「おにぃ、私のクラス何処かな?」

「……よしよし、俺が見てやろう」

「む……おにぃが子供扱いする……」


 華恋がぴょこぴょこと必死に背伸びしたり飛び跳ねてクラスの書いてある張り紙を見ようとしているのだが……小動物みたいでとても可愛らしかった。

 何なら今の、頬を膨らませて「私不機嫌です!」と感情を前面に出している華恋の姿も可愛い。


 俺が華恋を見て和んでいると、華恋が俺の肩を掴んでぶんぶん揺らす。


「おにぃ! 早く見てっ!」

「よし、ちょっと待ってろ。直ぐに見つけて……あ、さっきの美人さん」

 

 俺の視線の先に———白銀の髪を靡かせ、キリッとした碧眼で真っ直ぐクラス表を見ながら悠然と此方に歩いてくる美少女の姿を捉えた。

 美少女が歩けば生徒達は自然と道を開けて、最終的にはクラス表まで一直線の道が出来上がっているではないか。


「——— おい、あの方が学園序列10位の 白雪澪しらんきみおか!?」

「すげぇ……本物じゃん! 俺、マジで憧れてんだよなぁ……」

「強いだけじゃなくて美しいのも点が高いよな!」

「それな。まあ誰も白雪さんが話している所を見たことないらしいけどな。何なら『冷徹の女勇者』って呼ばれてるくらいだし」


 ———ご丁寧に説明ありがとう。


 俺は名も知らぬ男子3人組に心の中で御礼をした後、丁度良いので白雪さんのために作られた道を俺も使うことにした。


「華恋…………華恋?」

 

 華恋に自分でクラス表をみたいか聞いてみようとしたら……先程以上にぷくっと頬を膨らせて俺を睨んでいた。

 

「…………またおにぃがあの人見てるっ! おにぃは見ちゃダメ!」

「えぇっ!? なら俺、彼女も結婚もできないじゃん!?」

「おにぃには私がいるからいいの! 私が養ってあげる!」

 

 自信満々にドヤ顔で胸を張る華恋。

 その姿も大変いが……兄ちゃんとして、そして両親に「華恋を頼んだ」と言われているため、華恋に養ってもらう訳にはいかない。

 そもそも……。


「華恋、分かってると思うけど、兄妹じゃ結婚出来ないんだぞー」

「なんでー!」

「———それより華恋、自分でクラス表見たくないか?」


 俺が訊くと、華恋がキョトンとして首を傾げる。


「見れないよ? 私小っちゃいもん……」

「おぉ華恋、俺はそんな華恋が大好きだぞ。それで、どうだ?」

「ふへへ……はっ! おにぃが嬉しいこと言うから蕩けてたじゃんっ! でも見たい!」

「よし、じゃあ行こう」


 俺は華恋を抱っこして器用に生徒達を避けながら空いた道へと出る。

 その瞬間に沢山の視線が向けられるが……俺は「華恋にクラス表を見せる」と言う使命を遂行するために無視して進んだ。

 

「おにぃ……何か沢山見られてるよ」

「別に大丈夫だろ。だって皆んなが勝手に道を開けただけであって、別に行くなとも使うなとも言われてないんだし」

「た、確かに……! 確かにおにぃの言う通りだ……!」


 いや、そんな「そんな考えが……!」みたいな反応しなくていいよ華恋。

 俺が恥ずかしくなっちゃうから。


 俺はほぼ適当に話していたので、華恋の切望の眼差しに居た堪れなくなって避ける様に目を逸らす。


 と言うか……普通に考えて、たった1人のために他の全員がクラス表見るの駄目とか流石にないだろ。

 そんなんが出来るのって独裁者の息子か娘だけやん。


 しかし———そんかことを考えたせいなのか、向かう俺達の目の前に、突然黒服のサングラスを掛けた男3人組が現れた。

 男達は何故か俺達をクラス表に向かわせない様にガードしているらしい。


 その中の1番ガタイがデカくて強そうな男が代表して声を上げた。


「———此処から先は通らせないぞ」


 突然の頭のおかしい男の物言いに、流石の俺も華恋も困惑する。


「おにぃ……この人達、だれ……?」

「さぁ? あの……オジサン達? 俺らクラス表見に行きたいんで通してくれません?」


 俺はだるいなぁ……と内心ため息を吐きながらも、取り敢えず、華恋にクラス表を見せるためお願いしてみることにした。


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