第4話 美人が怒ると怖い
「お、おにぃ……ひ、人が沢山……」
「大丈夫だ妹よ。兄ちゃんも絶賛人混み酔い発症中だ」
見た目だけ陽キャ兄妹である俺達は、あまりの人の多さに顔を真っ青にして震える。
目の前には例の『異界学園』が聳え立っており、様々な人々が出入りしていた。
そしてその通る全員が俺達———特に俺の髪と目を注視しては、俺と目が合う前に逸らされる。
「分かっていたけど目立つよなぁ……」
「私はおにぃの髪も目も大好きだよっ!」
華恋が落ち込む俺を励ます様にブンブン手を振って言ってくれる。
本当にできた妹だなぁ……。
華恋がいい子に育ってくれて兄ちゃんは嬉しいよ。
俺は華恋の優しさに心打たれながら、学園に足を踏み入れようとして———力を持っている異世界帰還者であろう警備員がチラッと俺と華恋を見ると、一瞬だけ目を見開いた後で、何故か俺だけ引き止められた。
見た感じ俺や華恋より大分弱いので、異世界帰還者のおこぼれ貰った系の人かな、と俺は思った。
「———此処に貴方は入る事が出来ません」
「ええっ!? 華恋は良いのに俺はダメなの!?」
「そうだそうだっ! 何で私が良くておにぃがダメなの! おにぃを入れろ!」
俺と華恋が抗議すると、警備員は俺を指差した。
詳しく言えば俺の頭を。
「オッドヘアーは校則違反です」
「オッドヘアー禁止!? 明らかに普通とは違う学園なのに!? と言うかこれ地毛なんですが!?」
「地毛でも、です。私が彼女を案内しておきますので、どうぞお帰りを」
警備員は、断固として俺をこの学園に入れたく無い様だ。
誰かに助けを求めようと周りに視線を巡らせるも、制服を着た人もそうで無い人も、誰も彼もが俺から目を逸らしてしまう。
いや、この警備員に関わりたく無いとでも言う風に避けられている。
もしかしてオッドヘアーが駄目なのって、シンプルに俺を入れたく無いだけ?
と言うかよく見なくても普通に奇抜な髪の生徒いるわ。
絶対俺を入れたく無いだけじゃん。
そこで俺はピンと来た。
同時に奴への敵意が急上昇。
もしかして……華恋が目的かこの野郎。
良いだろう良いだろう……その勝負受けて立とうじゃないか。
「えー、じゃあ俺入学出来ないじゃん。なら帰るか」
「え?」
「ええっ!? おにぃ帰っちゃうの!?」
「うん。だって入れないし」
「い、いや、あの……」
「おにぃが入学出来ないなら私も入学しなーい。私も帰るー!」
「は? え、ちょっと———」
「———何があったのですか?」
「あ、茜様!?」
俺達は警備員の無視して勝手に結論を出し、回れ右をして帰宅しようとする。
すると俺達の下に丁度車を駐車しに行っていた茜さんが険しい顔で戻って来た。
それと同時に警備員が今日1番の素っ頓狂な声を上げる。
「あっ、茜さんっ! この学園ってオッドヘアー禁止なんですか!?」
「そんなことありませんよ。異世界に行った影響で髪色が変わる事は良くありますから」
「やっぱりそんなんだ。よかったぁ……これで一緒に通えるね、おにぃ」
茜さんの言葉を聞いて胸を撫で下ろすと、俺の方を見て心から嬉しそうにふにゃっと笑う華恋。
どうだ、これが俺の妹だぞ。
兄ちゃんと一緒に通えると分かっただけでこれほど喜んでくれるんだぞ。
まるで天使……いや、本物の天使よりも性格は天使だな。
「申し訳ありません……大体の話の内容が掴めたのですが……もう少し詳しく説明して頂けるとありがたいです」
頭を押さえる茜さんに、俺は警備員を指差してこれ見よがしに言った。
「実は、俺の髪がオッドヘアーって理由で学園に入るのを拒否されてましてっ! 出て来る生徒にオッドヘアーより奇抜な髪の人も居たんですけど……俺は何か駄目みたいです。なので帰ろうとしました」
「私はおにぃが行かないなら行かないので、同じく帰ろうと来ていました」
俺と華恋の告白に、警備員はビクッと身体を震わし、そんな警備員を冷酷な瞳で睨みつける茜さんは、先程の物凄く優しい姿とは似ても似つかない冷たい雰囲気を纏っていた。
正直めちゃくちゃ怖いんだが……。
華恋も『美人が怒ると怖い……本当だったんだ……』と戦々恐々しているんだが。
茜さんは警備員に詰め寄り、さながら詰問の如く平坦な声色で問い掛ける。
「一応貴方にも聞いておきます。それは事実ですか? 彼らは将来の有望株です。仮に彼らが入学拒否した場合の責任を取ってもらいますが……貴方に取れますかね?」
「———間違いありませんっ! 俺は彼女とお近付きになりたいがために男の方を排除しようとしました!」
「そうですか……はい、クビです」
茜さんは、それはもう素晴らしく爽やかな笑顔で解雇宣言を警備員にする。
その言葉を聞いた途端、警備員の顔が露骨に恐怖で歪むと共に焦りの表情を浮かべた。
「え、あ、そんな……」
「———貴方の処罰については後で言い渡しますので……誰にも手を出してはいけませんよ? 怪しい動きを見せた瞬間———その力は封印されますからね?」
「は、はい……」
茜さんは何か物凄く怖い言葉で警備員を脅した後、俺達には優しい笑みを浮かべて言った。
「では———入りましょうか。これから能力測定を致しますので」
「「は、はい……」」
「?」
俺と華恋はこの瞬間、茜さんを怒らせない様にしようと心に決めた。
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