第2話 興奮する妹、震える兄
———次の日。
「朝霧朔夜様、朝霧華恋様でお間違い無いでしょうか?」
「「……はい」」
「承知致しました。それでは早速ですが、学園に向かいたいと思います。学園については移動中に説明を致しますので御安心を」
「「…………はい」」
俺達は書かれていた通り、荷造りをして家の前に立っていたのだが……少しして、家の前に誰が見ても高級車と言わざるを得ない車が止まり、中からスーツを着こなした女性が現れた。
その女性は俺達に本人確認をすると、後方座席の扉を開けて、車に乗る様に指示する。
「……おにぃ」
「それ以上言うな華恋よ。兄ちゃんもあまりの凄さに震えているんだから」
俺達は高級車に圧倒されながらも、どれ程の乗り心地なのか気になったので、素直に乗り込む。
中はキツすぎない程度の仄かな花の様な香りが漂っており、座席の座り心地は言うまでも無かった。
今まで体感した事のない高級さに、華恋は目を輝かせて興奮し、俺はこの全ての物の値段を考えて恐ろしくて笑みが出てくる。
「ふふ……このいい匂いを発生させる何か1つで一体何円なんだろうな……」
「おにぃ、この車ふかふかだよっ。それにとってもいい匂いがする!」
「ははっ、良かったな華恋。念願の高級車に乗れたな」
「うんっ! えへへ……いつかこんな車買いたいね」
俺の肩をトントン叩いて楽しそうに話す華恋の頭を撫でる。
頭を撫でられた華恋は気持ち良さそうに目を細めて頬を緩めた。
俺はそんな華恋の姿に微笑ましく思いながらも、気を引き締めて車を運転する女性に話し掛けた。
「———それで、異界学園とは一体何なんですか? 学園の名前と貴女の力を見るに、ただの学園では無さそうですが」
そう俺が警戒心を露わにして女性に問い掛ける理由は、彼女も俺達の様なこの世のものではない力を持っていたからだ。
俺達兄弟を除けば初めての能力者。
妹という唯一の家族がいる中で、警戒をしない方がおかしいだろう。
後、普通にコイツら怪しいし。
詐欺られるお金は無いけど、奴隷みたいなことをさせられるのなら、俺は全力で対抗する所存だ。
「———そう警戒しないで下さい。私達はお2人に危害を加えるつもりは一切ありません」
しかし、女性は優しげな声色で初対面で結構失礼なことをしているはずの俺達を安心させる様に言った。
……一応嘘は付いていない様だ。
女性は特に何もしない俺をバックミラー越しに確認すると、ふっと顔を緩めて、再び話し始めた。
「ご理解ありがとうございます。———今、私達が向かっているのは異界学園のある人工島です」
「人工島……? 日本にそんな島はない筈だが……」
「勿論一般の方々はこの島の存在を知りません。知っているのは島内の住人と一部の政府関係者と、私達の様な———異世界帰還者です」
…………異世界帰還者?
俺は聞き慣れない単語に、心の中で首を傾げる。
いや、前世の俺は強制的にそう言ったモノに関わっていたので、知りはしているが、この世界では聞いたことが無い。
華恋の方をチラッと見てみる……外の景色に夢中で聞いていない様だ。
「どうしたのですか? 貴方達も異世界帰還者なのでしょう?」
「……そう、ですね。一応隠していたのですが……どうしてバレたのでしょうか?」
俺は此処で違うと言っても話がややこしくなりそうだったので、帰還者の
一瞬俺の態度に怪訝な表情をしていたが、こう言った人間は一定数居るのか、特に気にした様子はない。
「これも10数年前に異世界から帰還した人の能力なのですが、日本中にいる帰還者を感知できる能力を持っているのです」
「そんなに広くですか……?」
これは少し驚いたな。
まさかそれ程強力な能力を持った人間がこの平和な日本に存在するとは……華恋よりも魔力ありそうだな。
「わぁ……日本中感知出来るなんて凄いねぇ……おにぃでも出来ないよ」
「何で華恋が言っちゃうかなぁ」
「いてっ。うぅ……ごめんなさーい」
華恋はおっちょこちょいなので、いつ俺のことをバラすか不安でしょうがない。
一応彼女には微笑ましく見られているが、それはそれで普通に恥ずかしい。
「お2人は随分と仲がよろしいのですね」
「もちろん! だって私のおにぃは世界一カッコよくて強いんだもん! 特に———むがっ!?」
「妹よ。兄ちゃんの黒歴史を言って何が楽しいんだ? 言わないでって約束したろ? ……ごめんなさい、ウチの妹が……」
俺は、余計なことを言いそうだった華恋の口を手で押さえ、タメ口で話していたことを女性に謝る。
「いえいえ、仲のいいことが確認出来ただけで此方としては嬉しい限りです」
「どうしてですか? 兄妹仲って何か関係あるんですか?」
「あります。異界学園において、兄妹で仲間割れして大惨事に発展する事が度々ありますので。異世界帰還者であれば、些細な喧嘩でも周りへの被害は計り知れないんです」
…………………異世界帰還者怖えぇ……。
華恋も俺と同じ気持ちのは———
「え……おにぃに逆らう妹が居るの? 妹の為に頑張るおにぃを? 世の中の妹は何してるんだろう……? 皆自分勝手な屑女ばっかりなのかな?」
あ、どうやら世の妹にキレている様だ。
顔に影を落とし、眼のハイライトを消してぶつぶつと独り言の様に呟いている。
ただ妹よ……世の中の兄は俺ほど過保護では無いと思うぞ?
俺は初めての家族で、両親が居ないから2人の代わりに3人分の愛を注いでいるのだが……少々溺愛し過ぎたかもしんない。
俺は妹を元に戻す為、頬をムニッと摘む。
「……おにぃを嫌う妹なんて妹じゃ———ふぇ?
「華恋、怖い顔になってるぞ。華恋が元気に笑っていてくれると兄ちゃんは嬉しい。あ、でもしんどい時は言うんだぞ」
「———うんっ、分かったよおにぃ!」
そう言って元気な笑顔で頷く華恋に、俺は元に戻ったと安心していると———女性が此方を見ていることに気付く。
…………こう言うところがシスコンって呼ばれる所以かな。
そんな事を思う俺であった。
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