第7話 ファンタジー、時々すこし不思議アイテム
肝心の道を教えてもらっていない気がする。
買わないと教えないということだろうか。
なかなか狡猾な婆さんである。
「・・・・・・うん。そっか。わー、どれにしようかな」
仕方ない。
諦めて、何か実用品を買おう。
幸い日本円にして5万円相当を持っているのだから。
踵を返し、棚に向かい物色する。
ぶっちゃけ、どれが何でどういう道具なのかサッパリだ。
例えば筒。
直径3センチくらいで30センチ弱の長さの赤いステッキみたいな物体。
両端に透明のガラス状の蓋がされているが用途不明だ。
「これは?」
「握って念じたら、火が出る火の杖さ」
なるほど、デカいライター。
「ふむ。じゃあこっちは」
「水樽にぶっ挿して握って念じたらお湯が出るよ」
「なるほど」
片方が三角錐状になった筒。
蛇口というかポータブル給湯器というべきか。
例えようがない。
「そいつは背中にしょって丸いヤツを握ったら飛ぶよ」
「飛ぶ」
「高速移動するための道具だよ。ま、慣れとコツがいるからあんたにゃ無理だね」
「ジェットパックかな?」
白色のランドセルはロマンにあふれている。
なんというか、ほとんどが筒状か四角い箱か丸い何かだ。
デザインは改良した方が良いのではないだろうか。など心で思っても口には出さない。
それが優しさ。
お年寄りには親切にしましょう。
そう教わって育った俺は言葉を飲み込む。
「この筒は?」
またもや筒。
デカいライターよりは細身のそれは青色の棒だった。
ちょうどリレーのバトンくらいの長さで、握るとしっくりとフィットする。
「光剣さ」
「コウケン?」
「握って念じたら魔法で出来た刀身が出るんだよ。実体のない魔剣ってとこだね」
ルディア婆さんが筒を握り、何か呟くと長さ1mほどの光の棒が現れる。
あのアレだ。
映画で見たことのあるナントカの騎士が使っているナントカセーバー。
実用品だ。
ファンタジーかと言われれば、SF的なヤツとしか言えない気もするが、魔法の剣だと思えば、それっぽい。
「魔法の素養が無くても使えるん?」
「もちろんさ。そのために創ったんだ」
無骨なデザインだが、ロマンアイテム ナントカセーバーである。
男子たるものこんなオモシロアイテムを見せられて、振り回してみたくならないワケが無い。
少なくとも俺は。
「え。これにする」
「いいかい。中に魔石が入っているからね。魔力が無くなったら充填することを忘れんじゃないよ」
「了解」
「じゃあ、金貨5枚だ」
金貨5枚とはいったい何ポイントの事か分からない。
とりあえずポイントを使う時は念じる、だったよな。
「・・・・・・ちょっと待って」
婆さんを制止し、念じてみる。
(金貨よ~出でよ~)
「・・・・・・」
ん? 違うな。
こっちか?
(アブダラカダブラ! 金貨よ出でよ!)
「・・・・・・あれ?」
念じて、しばらく待っても何の反応も無いのはどうしてだろう?
手順的なものが違うのだろうか。
でも、あのロリ女神、何も言ってなかったぞ?
「・・・・・・?」
首をかしげる俺を不思議そうに見守る老婆。
いや、そりゃ不審だよな。
財布を取り出すわけでも無く、天井を見上げながら神妙な面持ちで祈っていたら。
(チヒロ様、チグサ様、金貨プリーズ!)
天高く右手を掲げて祈りを捧ぐ。
応答なし。
「まさかとは思うがね」
「あんた、無一文かい?」
欠陥システムか? などと思う矢先、ババアが曇った表情で呟いた。
いや口座ならぬ見えないポイントがあるんすよ!
でも現金化しないから、無いのと同じか・・・・・・。
「・・・・・・い、一応は」
どっちとも取れない曖昧な返事。
あわよくば“仕方ないね、タダでやるよ”などという言葉を期待しなかったわけでも無い。
「・・・・・・はあ。仕方ない。後払いにしといてやるよ。冒険者になって稼いだら払いに来な」
いわゆる出世払いというヤツだ。
多くは払う前にお互い忘れてうやむやになる、アレ。
「悪いな、婆さん」
「いいさいいさ。最初はみんなそんなもんだよ」
かくしてナントカセーバーならぬ光剣を手に入れ、店をあとにする。
もしすぐに元の世界に戻れるのなら持って帰れば自慢できるし、帰れないのなら護身用として活躍が期待できる。
俺は抜かりない計画にほくそ笑んだ。
借金金貨5枚、は・・・・・・まあ、そんなに稼ぎにくいってわけでも無いだろ。
RPGゲームじゃ、だいたい金は余るものだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます