独白

私は、生まれつき死神さんが見えた。他の人には見えないみたいだったけど、怖がるような存在ではないことは何となく分かっていた。


親が言うには、子供らしくない子供だったらしい。わがままも言わないし子供らしく大はしゃぎすることもない。大人びている、というよりは少し不気味だったようだ。


でも、久遠と病院で会ってから変わったそうだ。自分でも分かる。ひと目見た時から確信した。あぁ仲間だ、と。だけど久遠は特別だと。やっと本音で話せる人が、理解してくれる人が現れたと。無意識に変なことを言わないように気を付けていたのが、久遠に対しては気楽に接することができたからか、子供らしく無邪気にはしゃげた。


久遠は死神さんにとって特別で、私にとっても特別だった。


久遠から聞いたことだけど、私は第1印象が最悪だったらしい。自覚はある。だって病院でいきなり死神さんに追いかけ回されて辿り着いた先にいた人なんて、怖いだけだ。でも、涙を目に浮かべて走ってきた久遠に、私は喜んでいたんだ。やっと会えた。誰も理解してくれない秘密を理解してくれる人に。うれしかった。その時までは、話し相手なんて死神さんしかいなかったから。


話し相手がいなくて死神さんと話していた時は、どこか虚しくて悲しかった。自分は本当は生きていないんじゃないかって、人なのに人と話せないってそういうことなんじゃないかって不安だった。かといって無理に話そうとしても気味悪がられるだけだったから、死神さんとずっと話をしていたけど。


いろんなことを聞いた。死神さんのことについて。曲がりなりにも神であることとか。久遠と会って話をする機会が減ったけど、それでもその時には、死神さんは私の中で大きな存在になっていた。ずっと1人だったから。寂しかったの。孤独は寂しい。つらい。悲しい。孤独を埋めてくれたのはいつも死神さん。だから大切。愛してくれたから、愛したの。


久遠と、特別な人と会って、私は久遠のそばにいたいと強く願った。離れたくなかった。幼い頃に感じた“特別”とは、違った特別になっていたことに、高校に入った頃に気がついた。久遠と私は違う存在で、ずっと一緒にはいられないことは理解していたけど、駄々をこねて死神さんを困らせたけど、それでももう少しだけそばにいたかったの。


あと1年。あと半年。あと1ヶ月。あと1週間。あと1日。あと1時間。


分かっている。これ以上は延ばせない。あぁそれでも、と思っていた私の気持ちを知ってか知らずか、死神さんはもう少しだけ猶予をくれた。それは私のためだったのか、それとも久遠のためだったのか。今となってはどうでもいいことだ。


初めて屋上から死神さんとともに落ちたあの日、私は再び目を覚ました。大きな衝撃とともに感覚が消えていったはずなのに、次の瞬間には柔らかな布団の感触を感じていた。目を開けていつなのかを確認した時の驚きといったら。記憶がある。夢なのかと疑ったほどに鮮明に。でも夢ではなかった。最初は喜んだ。まだ一緒にいられると。だけど繰り返すたびに違うことを痛感させられた。私は死ぬ運命でそれを受け入れていた。久遠は死神さんを愛さないから生きていける、生きていかなければならないことも理解していた。久遠には記憶がない。もう何回も繰り返している約2ヶ月の記憶が。自分だけなのだ。全てを、結末を知っているのは。


久遠は受け入れなかった。私の死を。だから何度も目を覚ます。死神さんに聞いたことがあった。なぜ繰り返すのか。時を戻してあげるのか。答えは明快。愛した者がそう望むから。一方通行の愛。私からしてみれば失笑せざるを得ない回答だ。返されない愛のために私を巻き込んだの?時を戻すことができなければ、久遠はそれでも生きただろう。進んだだろう。それで良かったのだ。良かったのに。


繰り返される時間の中、私は絶望した。結末は変わらない。私には変えられない。全ての変化は久遠次第。久遠が諦めない限り、私はひたすら屋上から飛び降りるだけなのだから。


もうやめて。諦めて。進んで。生きて。苦しめたくない。苦しみたくない。これは運命。変えられない。諦めない限り変わらない。泣かないで。泣きたくないの。そばにいたいよ?でもそれは叶わないの。私は諦めたんだよ。だからもういいの。


私のことは諦めて。でも忘れないで。残酷だよね。でもそれが今の私の願いかなぁ。


ねぇ、久遠。私の大好きな人。

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