それぞれの願い

これは、死神さんとの約束だった。


久遠のそばにいたかった。

あと1年。あと半年。あと1ヶ月。あと1週間。あと1日。あと1時間。

そうやって期限を伸ばしてきたけどそうもいかなくなって、6月のこの日にと死神さんと約束した。


久遠は死神さんに嫌われている訳じゃない。むしろ愛されている。だけど久遠が死神さんを愛することはない。気付いてほしかった。愛されていることに。その上で、私が死んでもなお生きていてほしかった。誰も救えないことに絶望しないでほしい。そう、思っていたのに。


目を開けると、4月2日に戻っていた。何度も繰り返していた。私が死ぬことは変わらないのに。あぁ、早く受け入れてほしい。どうしようもないことなんだと、理解して進んでほしい。時間を進められるのは久遠だけなんだから。


目を開ける。

「どうして…?」

進まない。進んでくれない。もうやめて。もういいのに。久遠が苦しむだけなのに。

「僕は何度でも繰り返すよ」

どうしてそんなことを言うの?久遠だって泣いているのに。

「置いていって、お願い。時間を進めて」

雪那も泣いていた。もう嫌だよ。私だって、好きで何度も飛び降りてる訳じゃないんだよ。飛び降りる恐怖はちゃんとあるんだよ。気付いて、お願いだから。




雪那が泣いていた。置いていってくれと。死神が背後に現れる。

『時間だ…』

「うん」

雪那は死神の手を取り、逃げるように落ちていった。今までと違った。雪那が泣いた。これは変化?いや、変化と呼べる程ではない。

『どうする?』

「戻して」

『分かった』

雪那は死んでしまった。だから久遠はやり直す。迷うことなど何もない、はずなのに。雪那の涙を見て、久遠の中で疑問が浮かんだ。どうして泣いていた?急に分からなくなってしまった。


それでも久遠は繰り返す。雪那に生きていてほしいから。


だけど雪那は必ず屋上から飛び降りる。それは変わらない。泣き出しそうな顔をして、時には泣いて飛び降りる。

「時間を進めて。私を置いていって」

そんなことできないよ。僕にはできない。


思えば、不思議なことはいくつもあった。雪那が死神とした約束とは何だったのかとか、どうしてわざわざ時間を戻したりするのか、とか。だけど、そんなことどうでも良かった。雪那がした約束は雪那のものであって久遠には何ら関係のないものだし、なぜ時間を戻してくれるのか、その理由が分からなくとも構わないから。

「もう嫌だよ」

もう何度目かも分からないループの中で、雪那はそう呟いて飛び降り、久遠はまた屋上に1人残される。1人は怖い。雪那がいたから久遠は人との関わりが嫌にならずに済んだ。これから先を、1人でなんてとても耐えられない。

「もうやめて」

どうして?生きたくないの?久遠は雪那に生きていてほしい。雪那が望まなくとも、それでも。

「僕は雪那を置いてはいけないよ」

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