新事実
「で、十和ちゃんとはどうなのよ」
屋上で昼ごはんを食べていたら唐突に雪那が聞いてきた。
「どうって?」
「仲良くなれそうかってこと」
「あぁ、多分ね」
どうやら十和は頭が良いらしく、授業のペアワークの時とか大助かりだし、やはり会話がしやすい雰囲気を醸し出している。
「ふーん、そう。私もあの子とは仲良くなれそう」
「雪那の隣は?」
「うーん、何とも言えないんだよねー。良くはないけど悪くもない感じ?まだはっきりとは分かんないけど、私はちょっと苦手かも」
そうは言うが、雪那は猫被りが得意なので上手くやるのだろう。
「そういえば、十和ちゃんとは初めて会った訳じゃないの?朝、あ、って言ってたけど」
「あれは…」
図書室であったことを話すと、雪那は笑い出した。
「大丈夫だよ、変人認定なんてこれから先いくらでもされるだろうから」
「どこが大丈夫なんだよ」
雪那の慰めのようなものを聞きながら、ため息をついた。
「そういえば」
久遠は振り返って死神たちを見上げた。
『何だ?』
「十和さんのことを薄いなって言ってたけど、何が薄いの?」
『あぁ、そのことか』
雪那も死神に目を向けている。
『影が、という意味だ。影が薄い人間は我等にとって憑きやすい者だからな」
「初めて知った」
『言ってないからな』
影が薄いって、そんなのどうしようもなさそうなんだけど。
『だがあの娘の場合は大丈夫だろう』
「どうして?」
『お前が隣にいるからだ。あの娘に寄せられてきた同胞は憑く前にお前の方に引きつけられる』
「…それは喜んでいいのか?」
『あぁ、誇っていいぞ』
「どこがだよ」
時々、死神は冗談とも本気ともつかないことを言う。
「影が薄いのなら、今までは何で大丈夫だったの?」
雪那が聞いた。
『家族か身近な人間に我等が苦手とする人間がいたのだろうな。そこにお前も現れたからさらに安全という訳だ』
「はぁ、そーですか」
そうなんだと納得しかけたが、ん?となった。
「僕に引き寄せられるのに何で他の人の所に行こうとするんだ?」
「……」
「また黙るのか」
「黙っとけばそれ以上追及されないと思ってるんじゃない?」
間違いではないけど。
『理由を知った所で何になる?』
「それは…」
何も言えなかった。理由を知ったとして、久遠が関与できるものではないからだ。
『ならば知らなくて良いだろう』
「…そうだけど」
なんか言いくるめられた気がする。
「あ、予鈴だね。もう行こうか」
「…うん」
久遠は納得していないまま、屋上を後にした。
1ヶ月も経つ頃には、クラスの中には大体グループができてくる。もちろん久遠は入ってなくて1人だけど。
「あれ、雪那?」
グループができてくると大抵その人たちと行動するのだが、雪那は1人で屋上に来た。
「1人?」
「うん。グループには入ってないんだー」
「そうなんだ。ちょっと意外だな」
「そう?でもどのグループにも顔がきくから実質1人って訳ではないけどねー」
「何だよ、仲間だと思ったのに」
「残念〜」
「じゃあ何でここに?」
そう聞くと、雪那は少し黙った。
「聞かない方が良かった?」
「ううん、そうじゃなくて、何て言おうか考えてたの。まぁでも 1番の理由はあのノリについていけないからかな」
雪那は基本的に、久遠同様あまり人に興味がない。ただ、何でも卒なくこなしていてそう見えないだけだ。
「あ、あれ」
「何?」
屋上から街を見下ろしていた雪那が指差す先を見た。
「あれってお葬式?」
「みたいだね」
「何か最近多くない?」
「多い気がする。何でだろう」
雪那はちらりと死神に目を向けるが、露骨に目を逸らされた。理由は何となく察しがついているので何も言わないが。
「久遠のせいじゃないよ」
「えっ」
「そんな顔してた」
「してた?」
「うん」
久遠は、少し自己犠牲が過ぎる所がある。何の関係もない赤の他人の葬式を見ただけで自分が死神さんを引き受けていたら、と考える。だが断言できる。そんなことに意味はない。なぜなら、それは運命だったからだ。それでも、意味があると信じている久遠を雪那は見てきた。だからいくら意味がないと知っていても久遠を止めるなんてできないのだ。
「もう、行こうか」
「そうね」
あの時公園で久遠が助けた小さい子はどうなっただろうか。まだ生きてる?それとももう死神さんに連れて行かれた?確認する術はないし、する必要もない。あの時助けた。その事実があるだけで久遠にとっては充分だと雪那は考えている。
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