新クラス

「おはよ、久遠」

「おはよう。同じクラスみたいだよ」

「えっ、ホント⁉︎やったー!」

昇降口に張り出された紙を見てから、久遠と雪那は中へ入る。もちろん周りにたくさんの人が…まぁいるはずもなく。人混みの中でのんびり自分の名前を探すとか絶対無理だなと思って、誰よりも早く見に来ていたのだ。雪那はそのことを見越していたのか、久遠が学校に着いた5分後くらいに来た。ちなみに、絶対に起きれない自信があったので徹夜である。

「あれあれ、もしかして徹夜?」

「うん」

あはは、と楽しげに雪那が笑う。

「私もー!一緒だねぇ」

「なるほど、深夜テンションが続いてるのか」

「せーかいー。あと数時間もしたらスイッチ切れて静かになるよ」

「ギャップすごそうだね」

「引かれないかな?」

「何とも言えないな」

先生たちは職員室にいるのだろうが、生徒は久遠と雪那の2人だけだろう。久遠の知っている学校とは打って変わって静かな、静かすぎる学校。

「お、私の席ここだ」

雪那の席はどうやら窓から2列目の1番後ろのようだ。久遠の席は廊下側の前から3番目。

「僕はこっちだな」

「えー、遠いじゃーん」

「席替えに期待しよう。どんな人が隣になるかな?」

「優しい人だといいなー」

「大丈夫なんじゃない?」

そろそろ、他の人たちも来始める時間だ。

「じゃあ図書室にでも行くよ」

「あ、そうだねー、難儀な体質だねぇ」

これは体質なのだろうか。どちらにせよ、難儀であることは間違いないけど。

「雪那は?」

「んー、人が来て無理そうだったら図書室に避難しよっかなー」

「分かった」


教室を出て、図書室に向かうまでに何人かとすれ違ったが、誰1人分からない。もともとそんなに人に興味がないので覚えていないだけかもしれないけど。死神はすれ違った人についていこうとはしなかったので少し安心した。とはいえ、あと45分も図書室で時間を潰すのか?

『なぜあの部屋から出た?』

「なぜって、あんたらがいるからだろ」

『我等のことは気にしなくて良い』

「そういう訳にはいかないの。というか学校で話しかけてくるなよ」

端から見れば、久遠が1人でしゃべっているように見えるだろう。

『そんなこと、我等の知ったことではない』

それはそうだけど。はぁーと大きくため息をつく。

「…あ、えっと…」

本棚の奥の視線に気付いて目を向けると、ばっちり目が合って誰かがバタバタと逃げて行った。

「…あー、ほら変人認定されたよこれ絶対…」

『知ったことではない』

「はいはい」


「お、ギリギリ攻めるねぇ久遠」

教室に戻ると、雪那が久遠の机に座って待っていた。

「そうかも」

言いながら席に座ろうとすると、隣の席の人と目が合った。

「あ」

思わず声が出る。相手も固まっていた。

「え、なになに知り合い?」

「さっき図書室で会って…」

逃げられた、ということではないはずだけど。

「あ、えっと、よろしくお願いします」

「お願いします」

何とも言えない気まずさを感じながら席に座った。チャイムが鳴って、先生が入ってきた。始業式を終えた後に自己紹介をする時間になる。

「えーっと、早坂久遠です」

「わ、私は日比谷十和ひびやとわです」

そこから会話が続かない。こういう時って何を話せばいいんだっけ…。

『そこの娘、ずいぶんと薄いな』

「…は?」

突然死神がそう言うものだから、思わず聞き返してしまった。そんな久遠の態度に、十和がビクリと反応する。

「え、私、何かしちゃいました…?」

「あ、いや全然そんなことないから。気にしないで。僕、独り言が多いだけだからうるさかったらごめん」

こういう時は、変人で独り言が多い奴、と認識されてしまえば大概は何とかなる。

「…みんな、すごいですよね」

十和の言葉に周りを見ると、もう仲良さげに話している人たちばかり。

「私、人見知りで。去年も全然友達ができなかったんです」

「そうなんだ。じゃあ僕と同じだね」

厳密に言うと理由は全く違うのだが、友達ができなかったという点では似た者同士らしい。去年からのつながりがあるのが雪那だけだから。

「でも久遠くんは、すぐ友達できそうですよ」

「そうかな」

「はい」

ふわ、と柔らかく笑う十和を見て、久遠も同じことを思った。のんびりというかおっとりしてはいるけど、雰囲気は柔らかくて話しやすいからきっと友達できるだろうなぁと。

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