第39話 剣閃のリュエル

「はははー!! あたしの爆弾食らえぇ!!」

「肉壁ってそーゆーことね……ハァ」

「役割分担としては最適解だろう」


 ため息を吐きながら秘匿魔法を死んだ目で使うアノイに冷静に答える俺と、後衛からひたすら爆破の魔法を使用するヴィヴィー。

 場は混沌と化していた。


 ──奇襲作戦を終えた後。

 すぐに様々なチームとの混戦になり、俺達は奇襲を諦める他がなかった。そのため、当初から予定していた混戦用の作戦に移る。


 それすなわち──ヴィヴィーの得意魔法【広範囲爆破魔法ワイドレンジエクスプロージョン】という、まあ端的に言えば自分をも巻き込む炎属性の広範囲爆撃をひたすらに撃ちながら俺達が補佐するという形だ。

 アノイの秘匿魔法により、味方陣営の被害を軽減。漏れた爆破の余波などは、俺が放った防御力を向上させる補助魔法でカバー。

 完璧な連携による波状攻撃が期待できるというわけだ。


 ……まあ、完璧と言うには些か脳筋思考が過ぎるが。

 だが効率が良いのは間違いない。


 現に敵のほとんどは攻撃を防ぐ手立てもなく情けない悲鳴を上げながら倒れていく。

 

 そんなに撃ってヴィヴィーの魔力は尽きないのか、という心配をする者もいるだろうが、元々ヴィヴィーの魔力量は多い。それに、俺が魔力を譲渡する魔法でカバーしているため問題ない。

 連携点としては高いだろう。

 撃ち漏らしや、稀に爆破をくぐり抜けた者は俺かアノイが直々に処理をしていることだし。


「やられた奴ん中に、どんだけ早期入学生が混じってんだろうな」

「さぁな。脱落した者が早期入学生かどうかなど関係ないだろう。結末は等しく同じなのだから」

「確かに」


 他クラスの早期入学生もいるだろう、このチーム対抗戦。しかし、それは最早知る術も無い上に、勝者だけが残るこの戦いにおいては、早期入学生かどうかなど関係のない話だ。

 これもまあ……脳筋だが、極論、勝てば良い。


「……さて、粗方片付いたか。ここからは持久戦だ。休みつつ魔力を回復。複数チームであれば連携をし、確実に打ち倒す。ソロであれば同じく奇襲の作戦も視野に入れておけ」

「「了解」」


 目に見える限り敵はいない。

 念の為【探知】で探るが、敵を示す反応は見られなかった。


「ねえ、ゼノン。さっき果実とかの食べ物を見たから、野営とかするための最低限の資源はあるんじゃない?」

「ああ、あったな。全部お前が燃やしたが」


 ヴィヴィーの問いに俺は呆れつつ答える。

 確保する前に爆破魔法で消し飛ばされたから何もできなかった。


「てへぺろっ☆」


 舌を出して(自称)可愛くポーズを取るヴィヴィーだが、そんな冗談が通じる者はこのパーティーには存在しない……


「はぁー? チッ、まあ進めばあんだろ。試験の趣旨がサバイバルなわけじゃあるめぇし」


 ……が、ツンデレなアノイは舌打ちをしつつさり気なくカバーをした。言ってることは正しい。

 進めばあるのは間違いない。


「では一旦休憩と────下がれッッ!!!!」

「「ッッッ!!」」


 ──まさしくそれは虫の知らせだった。

 全身がビクッと震える衝撃。間近に死が迫っている……ノヴァの固有魔法を食らう直前に似た感覚。


 ──間違いなくは、俺達の命を奪うに易しい》だった。


「あれ? バレちゃったんだ。う~~~ん、完全に視覚外だし、気配も消してたんだけどなぁ」


 無事に紙一重で攻撃を躱すことに成功した俺達は、目の前に立ち塞がる幼い少年を視認した。

 黒髪のおかっぱ頭。和服……のようなものを着た、幼気な少年。

 だがしかし、得物であろう刀から発する異常なほどの殺気と力に、見た目とはそぐわない実力を有していることは明白だった。


「お前は誰だ」

「やあ、ボクは隣のクラスの早期入学生、リュエルだよ! 校長に攫われちゃってここにいるんだ!」

「元気よく軽く非業なエピソードを語るんじゃねぇよ」

「べっつに〜? 強い相手と戦えるならどこでも良いからね。親兄弟も全員盗賊に首跳ね飛ばされて逝っちゃったし!」

「元気よく軽く非業なエピソードを語らないでよ」


 アノイ、ヴィヴィーからドン引きしながらのツッコミが入ったが、俺はそれどころではなかった。

 語った名前とエピソードには興味がない。

 

 こいつ……強いッ!

 下手したら対人戦という分野に限れば、ゼロをも凌ぐ。俺にとっては圧倒的な格上。隣のクラスにこんな逸材が隠れていたとはな……。

 ──ヴィヴィーとアノイじゃ、太刀打ちどころか勝負にもならないだろう。


「アノイ、ヴィヴィー。今すぐこいつの他のチームメンバーを探しに行け。ここからは別行動だ。こいつは俺がやる」

「敵わないんだな? 俺たちじゃ」

「……あぁ」

「分かった」


 随分と素直に頷いたアノイに、俺は軽く驚く。

 ……いや、相手との実力差は気づいているのか。その上での最善。それは間違いなく対抗戦としての勝利を選ぶことだろう。

 他のチームメンバーを倒せば、俺がこいつと戦う意義がない。撤退なり何なりすれば良い。

 これが決闘であれば話は変わってくるが、一先ず今日という場においては、連携と試験の趣旨が物を言う。


 ヴィヴィーにも伝え、アノイらはその場から離脱する。

 

「随分と優しいな」

「戦場に邪魔者はいらないからね! ボクの目的もキミだけだし、そっちから掃けてくれるならちょうどいいってこと!」

「俺が目的だと?」

「うん。校長に目をかけられてて、一番目立ってる早期入学生だよ? こりゃぶっ倒さないとダメだよねってさ!」

「傍迷惑な願望だな。自分のエゴを優先し試験を放棄とは」

「まあ、他人に従う義理もないからね」


 随分と傲慢で身勝手。

 されど、その実力に偽り無し。


 実力の伴っているプライドが高い人間というのは、得てして厄介なものだ。それは一歩間違えればただのイタい奴だが、仮にその力が他者を焼けば……強烈なカリスマとなって現れる。

 面倒だ。そして、間違いなくリュエルとやらは後者。

 

「──受けて立とうか、リュエル」

「──剣閃のリュエル、その閃きを見せてあげる」


 こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。


 

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