第38話 サバイバル

「【探知】……広いは広いが、そこまででもない。上手く分散されているようだが、すでに戦い始めているチームもいるな」

「てめぇ便利だな……。んな魔法まであんのかよ」


 通常の魔法【探知ディテクション】は、周囲数mの範囲をという謎の魔法なのだが、俺が改良したことによって、レーダーのような役割を果たした。

 周辺の生体反応を捉え、探る。

 とは言え、かなり魔力の消費が激しい。当然だ。魔力を探知範囲に漂わせることで、この魔法は実現可能となる。それ故に、探知するために使用した魔力は返ってこない。 

 だが、集団戦において、情報とは何よりの武器だ。こんな深い森の中ではいつ奇襲を受けるかも定かではない。


「近くに生体反応はない。……が、奇襲には警戒すべきだ。チームは合計24。72人がこの森にいることになる」

「意外に多いなぁ。やっぱり戦闘は避けられないよね。魔力が保つかどうか」


 ヴィヴィーが不安げな顔で言った。

 そこが一番の問題点となるだろう。魔力は当然無限ではないし、ヴィヴィーの魔法は一発一発の魔力消費が激しい。


「ま、相手を見て適切に魔法を選択するしかねぇな。工夫次第じゃ初級魔法でも戦闘不能にできるんだからな」

「臨機応変に、だな」

「簡単に言わないでよぉ」

「もしくは、だ」


 俺はニヤリと笑い、二人の顔を見る。

 アノイはゲッ、と顔を引き攣らせ、ヴィヴィーは無垢な表情で疑問符を浮かべる。

 

「簡単な話だ。仕掛けられる前にこちらから仕掛けてしまえば良い。ようは奇襲だな」

「あ、そっか。あの魔法があれば位置とか分かるしね」

「そういうことだ。これも連携のうちだろう。含みを持った校長の発言からして、連携という言葉の解釈は思うよりも広い」


 奇襲。誰もが思いつくが、ある意味同じように伝統に縛られている生徒たちは、考えはすれど実行に移す者は少ないだろう。

 奇襲は連携に入るのか。卑怯だ、とポイントが貰えなくなるかも……など懊悩し、結局のところ普通に戦ってしまう。まあ、俺から言わせれば、普通に連携だろ、と思うが。


「手近なチームを待ち伏せ。練度が高く、魔力消費の少ない魔法を用いて奇襲。恐らくは意識の喪失が脱落の判定ラインだろう。それを念頭に置いた上で行動。良いか?」

「待て。早期入学生には武術で入学した奴がいる、って聞いた。気配を消す魔法だとか使わねぇとバレんじゃねぇか?」

「確かにそうだな。臭跡、足跡、気配、それらにも気を遣う必要があるだろう。丁度良い魔法がある。それを使う」


 するとアノイは「丁度良い魔法あんのかよ……」と言わんばかりの表情をした。最近どうにもアノイから限界を測ろうとする意図が感じられる。

 今は味方だが、いずれはリベンジしてやる、という気概も把握している。手の内を見せ過ぎるのも悪手……だが、未来の俺は今の俺よりも成長している。まずはこの対抗戦に集中しよう。


「【探知】……ここから一番近いチームの進行方向に張る。行こうか」

「「うぃー」」


 適当だな……。

 まあ、気負っているわけでも余裕を醸し出しているわけでもないから良いとしよう。


 そうして俺はアノイとヴィヴィーを引き連れ、最も近いチームの進行方向を予測し、その位置に張った。もし方向を変えようが、即座にポジションを移動できる位置にいる。

 俺たちは現在樹の上にいる。

 臭いや汚れを消す生活魔法。足跡を消す隠蔽魔法。気配を消す隠密魔法をフルに使用し、発見の証拠となりうる原因を尽く取り払う。

 

 そうして待つこと数分。


「──一先ず誰とも会わなければ生き残る確率は高くなる。強いやつは強いやつ同士で自滅すれば良いんだ。あとは漁夫の利で掻っ攫う。簡単だろ」

「クラス対抗戦からチーム対抗戦に変わっちゃったしねぇ。優勝の特典とかってどうなってるんだろ」

「学食1年分とか?」

「普通に欲しいわー」

「「「はははっ!!」」」


 そこに現れたのは、緊張感の欠片もなく駄弁る少年二人と少女一人。あまり試験に対するやる気は無いようだが、それにしても迂闊が過ぎるだろう。

 ……いや、実戦経験が皆無な者どもに実戦のような緊張感を持てと言っても意味がないか。ある意味この試験は試金石だな。

 俺は二人に目配せをする。

 丁度三人組が樹の下を通りかかる瞬間──


「──今だ」


 一気に俺たちは飛び降り、

「【電撃】」

「【衝撃ショック】」

「【強化エンハンス】」


 俺は電撃を少女の首元に撃ち込み気絶させ、アノイは衝撃を撃ち込む魔法を使用し、昏倒。

 そして驚くことにヴィヴィーは拳のみを強化させる、というそれなりに器用な芸当を披露し、腹パンで相手を沈めていた。見た目に反してパワー系がすぎるだろ……。


「やったか?」

「あぁ、間違いなく気絶させた」

「力加減で意外に難しいよね。あたし別に身体強化使う立ち回りはしないんだけどさ」

「にしては随分鮮やかな手並みだったな」

「武術は無理やり習わされたからねぇ」


 しばらくすると、三人組は何らかの魔法に包まれて消えていった。恐らくは校長の魔法。気絶した者を自動的に搬送するシステムでも組み込んだのだろう。

 

 ……今の動きはかなり良かった。

 魔力の消費も少なく、必要最低限の動きで行動することができた。……まあ、相手の油断が大きかったと思うが、幸先の良い一勝だ。


「次だ。気を抜くことなく行くぞ」

「あたりめぇだ。こんな勝利で一々喜んでちゃ意味がねぇ」

「うん、優勝するまでは油断しないよ」


 ……言うまでもなかったか。

 俺は少しだけ表情を緩めながら、次の奇襲先を見つけるために魔法を起動させた──。




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やったか?がフラグにならない世界線。

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